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闘え マクギブソン! 前編

僕は、やっとこの学園に通う事が出来るのか……


此処まで来るのに色々と大変だったよ……


苦節一週間……どんなにこの時を待ち詫びた事か……嗚呼、長かった……


なんか疲れてるからこのまま帰りたい気分になってきたよ……


昨日だって凄く疲れたんだよ……


『妹を連れて来る』と言う男の言葉を信じて居た僕達はあの後、三時間も待ち惚けをくわされたんだ……


其処で初めて騙された事に気が付いたんだよ……


あの時のマークの怒り様って言ったらそりゃあもう……


僕は必死になって宥めてたんだけどさぁ。

小学生にアレを止めるのなんて出来っこないんだよね。


まぁ、被害者って言ったらあの場に居たチンピラの人達だけなんだけど……


でも、病院送りにする事はないじゃあ……


まぁ良いか、僕には関係ないし。


それよりも、その後がもっと大変だったんだよ。


マークったら、女の人を見掛ける度に『アオーン! アオーン!』とか発狂しながら飛び掛ろうとするんだよ。


あの時は僕が、暴走したマークの股間に後ろ回し蹴りを喰らわせてなんとか落ち着かせたけど……


ホンット世話が焼けるね!


僕が丁度良く漫画喫茶で空手漫画を愛読しながら技を修得していなかったら、そりゃあもう大変な事になってたよ。


まぁ、疲れた疲れたって言ってるんだけど、その時の僕はなんだかんだ言ってても心の底では楽しんでたんだ。


マークだって元気になってたし、って言うかいつも以上に元気になってたから僕のテンションも知らず知らずの内にやたらとハイになってたんだよ……


今思うと、とんでもない事を仕出かしたもんだと少しだけ反省しちゃったよ……


今更だけどね。


後悔してるよ。

僕があんな事を言わなければ……本当は思い出すのも面倒なんだけど、過去の失敗をそのままにしておくのは気持ち悪いし、同じ失敗を繰り返さない為にも失敗を失敗として確りと受け止めないと……まぁ、本当は僕がどれだけ疲れてるかアピールする為に昨日の事を事細かく思い出そうとしてるんだ。


説明して上げないと僕が普通にサボリみたいに見られちゃうからね。


別に言い訳を考える為に思い出そうとしてる訳じゃないからね。


ちょっとやそっとの事じゃ、母さんが納得してくれないんだよ。


まぁ良いや、あれは昨日の事なんだよ。

マークのテンションに呼応して僕のテンションもノリに乗ってしまっていたんだ――


――ふっふっふっ、凄いやマーク、いつもの三倍は元気じゃないか。


「……マナブ君、大変だよ。

治ったは良いんだけど、今度は治まらなくなってしまったよ……ふふふふふ」


マークは困ってると言うよりも寧ろ誇らしげに口元を歪めてるんだ。


マークは、さっきから私の『マグナム』とか『マシンガン』とか『ガトリング』とか『グレネード』とか『バズーカ』みたいなとにかく強そうな事を言いながら、眼を野獣みたいにギラつかせてるんだよ。


今のマークなら、誰にも負けそうにないね。


「ねぇ、マーク?

マークってとっても強いんだよね?」


「まぁ、強いと言うよりも凄いんだけどね。

何事に於いても……」


僕には、マークが身体に闘気を纏ってる様に見えるんだよ。


「……じゃあさぁ、僕達を騙した奴なんか放っといて、もっと凄い人を倒しに行こうよ」


僕としては、僕が考えた大乱闘が巧くいかなかったから、少し不完全燃焼なんだよ。


取り敢えず、ド派手な殴り合いが見たくて堪らないんだ。


「……放っとくって言っても、ちゃんとケジメをつけさせないと私の腹の虫が治まらないんだよ」


「あの野郎に一泡吹かせてやろうって言うのは、僕も賛成だよ。

でも、わざわざ僕達が探してやる程の男なの?

あんな奴、適当に似顔絵を書いた張り紙でも張っといたら良いじゃないか。

そんな事よりも、もっと凄い人を倒さない?」


「凄い人って誰の事だい?

いくら私でも、本職の人を相手にするのは難しいよ……」


マークったら、謙遜しちゃって。


知ってるよ、マークの武勇伝をジョージから聴いちゃってるんだもん。


この街の人達の語り種になってるんでしょ?


「大丈夫だよ、マークにA子お姉様を倒してもらおうと思ってるだけだから」


A子お姉様の名前を出した途端に、マークが物凄く嫌そうな顔をしたんだ。


「……マナブ君、私と居る時はその名前を出さないでくれ……折角治ってたのに、萎えてしまったじゃないか……」


「何を言ってるんだよ! マークだってヤラレっぱなしじゃ悔しいだろ! A子お姉様を、マークが倒さなかったら一体誰が倒すって言うんだよ!」


「そう言われてもなぁ……それにしてもマナブ君、随分とあの眼鏡にこだわるね?

何かあったのかい?」


マークがまた俯抜けに戻って、愚図り始めてしまったんだよ。


僕の将来にA子お姉様が邪魔になる可能性が高いから今の内に排除してもらおうと考えてたんだけど、マークにこの話をして納得してくれるのかなァ?


「……マーク、僕は将来、香港に行ってアクションスターになりたいって話をしたよね?」


「それは聴いてるけど、それが一体なんの関係があるんだい?」


マークはまだ解ってないみたいなんだ。


出来ればマークには秘密にしとこうと思ってたんだけど……


この際、仕様がないのかなァ……?


「……ふ〜、分かったよ、全部話すよ。

A子お姉様がマークの名前を使って好き勝手やってるのは知ってるよね? その好き勝手の内の一つなんだけど、どうやら柄の悪い人達を捕まえては改造して真面目な人に作り変えて、自分の支配下に置いてるんだって。

なんでそんな事をするのかって話なんだけど、なんでも『自分好みの街にする』って言ってるみたいなんだ。

僕としても将来、この街を牛耳らなきゃいけないから、A子お姉様が邪魔で仕方ないんだよ……」


マークはまだ不思議そうな顔をしてるんだ。


あれだけ詳しく説明して上げたのに、何が気になるって言うんだよ!


「……マナブ君がこの街を牛耳りたいって言うのは分かったんだけど、それとアクションスターになるのと何が関係あるんだい?」


おっと、そこんとこの説明もしなくちゃ駄目なの?


「……うん、母さんが僕を政治家にするって煩いから、この街を置き土産にして行けば母さんも納得してくれるかなァって思ってたんだけど……」


マークが顎の先を右手の指先で掴みながら、唸ってるんだよ。


やっぱり駄目なのかな?


「……う〜む、随分と回り諄い様な気もするけど、分かったよマナブ君。

マナブ君の為に一肌脱ぐよ」


やっぱりマークは僕に甘いんだね。


それでこそ僕のマークだよ。


「ホント? それじゃあ早速、宿敵A子お姉様を倒しに行こうよ!」


「ふふふふふ、それにしてもマナブ君、随分と楽しそうだね?

それは良いんだけど、あの眼鏡が何処に居るのか知ってるのかい?」


全くもって頼もしい事を言ってくれるじゃないか。


やる気を出したマークに勝てる奴なんてこの街に居る訳がないんだ。


僕はそう信じてるよ……


「うん、そこら辺の事は抜かりないよ。

A子お姉様の居場所ならマスヨお姉さんが知ってる筈だよ」


マークはまた眉間に皺を寄せて明らかに嫌そうな顔をしだすんだ。


「……マナブ君、私と居る時はボンバーの名前なんて出さないでおくれ……私はボンバーも大嫌いなんだよ。

それにしたってボンバーの居場所も知らないんじゃないかい?」


「大丈夫だよ。

その辺の事は調べてあるんだ。

マスヨお姉さんは部活をしてる筈だから、今なら学校に居る筈だよ」


「はぁ〜、分かったよ。

準備が良いんだか悪いんだか……」


そんな事言われたって、A子お姉様ってば部活とかしてないんだもの……流石の僕でも知らない事だってあるんだよ……


マークに誉められたのか馬鹿にされたのか判断を揺らがせながらも、僕達は学校にはちゃんと着いたんだ。


僕は将棋部の部室を探してたんだけど、マークの話に因るとこの学校に将棋部なんてないって言われてしまったんだ。


僕はどうして良いものか考えあぐねてたんだけど、マークが手っ取り早く職員室に聴きに行ってしまったんだ。


……職員室の前で待機していたんだけど、余りにも暇なんで僕も職員室に乗り込んでやろうと画策していたら、職員室に侵入する前にマークが出て来てしまったんだ。


ちょっとだけ残念な気分だよ。


「……マナブ君、どうやら将棋部ではなくて将棋愛好会と言う非公式な活動を勝手にやってるみたいなんだよ。

まぁ、何処で活動しているのか場所を聴いて来たから安心しておくれよ」


なんて分かり難い事してるんだ。


僕にはちゃんとした部活って言ってたのに……


まぁ、どうでも良いや、そんな事よりもマークの後ろを着いてってたんだけど、マークが立ち止まって『着いた』とか言ってるんだけど、此処って体育館裏じゃないか……


その時、階段の影にひっそり佇むマスヨお姉さんを見付けてしまったんだよ。


寂しいって言うよりも侘しい? みすぼらしい? ひもじいの?


まぁどれも似た様なもんだけど……取り敢えず見てると悲しくなってくるんだ。


「……あ、あの、どうもマスヨお姉さん……」


「あらあらあら、誰かと思ったらマナブ君じゃないの?

どうしちゃったの?

わざわざ私に会いに来ちゃってさぁ〜。

一人で何しちゃってるの?」


あれ? マークは?


……どうやら僕がマスヨお姉さんに話し掛けるのと同時に影に隠れてしまったみたいなんだよ。


本当にマスヨお姉さんの事が苦手なんだね。


「……えーっと、マークと一緒に来てたんだけど……そんな事より、実は折り入って聴きたい事があるんだけど……」


マスヨお姉さんが眼を光らせ、ニタついてるんだけど、何がそんなに嬉しいのか僕には良く解らないよ。


「真久木君ねぇ、うふふふふふ、マナブ君、真久木君を連れてらっしゃい。

そしたら、私に今は残念な事に彼氏が居ない事や私のスリーサイズなんかや他にも色々と手取り足取り教えて上げようってもんじゃないの」


別にそんな事は知りたくないんだけど、マークを呼ばないと何も教えてくれなさそうな気配がするから、仕方なくマークを呼ぶ事にしたよ。


「はァ〜、マーク〜。

大変なんだよ〜

助けて〜

僕が危ないよ〜」


僕の悲鳴を聞き付けて、マークが面倒臭いと言いたげな顔しながらのっそりと現れたんだ。


「……マナブ君、そんな事言われたら、例え本当は全然危険じゃなくてもマナブ君のもとに駆け付けなければ仕方ないじゃないか……」


知ってるよ、そんな事は、だからこうやって助けを求めたんだよ。


マークの心情を知ってか知らずか、僕は輝く笑顔を浮かべ、純真無垢な子供を装ったんだ。


違うよ!

僕は子供だよ!


僕が葛藤に身を焦がしてる間に、マスヨお姉さんがマークに擦り寄ろうとしてたんだ。


だけど、マークがそれを許さず、二本の指でマスヨお姉さんの進行を食い止めてるんだよ。


「馴れ馴れしいな、おい……」


「何を言ってるんだい! 私とあんたの仲じゃないか……」


マスヨお姉さんは怯むどころか益々激しく身を捩じ込もうと身体を揺すり始めたんだ。


「……私とお前の仲って……私はお前なんか外国に売り飛ばされてしまえば良いと常々思っている程だぞ……」


「なにさぁーっ!」


「……分かったから、その身体をウネウネさせるのを止めてくれ。

それを見てると吐き気がしてくるんだ……」


確かに気持ち悪かったけど……じゃなくて、早くA子お姉様の居場所を聴かないと、そんな事してたら日が暮れちゃうよ。


「……あの、A子お姉様の居場所が知りたいんだけど」


「あんでまたA子の奴なんかを……なにさぁーっ! 皆してあたいを除け者にして!

将棋が趣味だって良いじゃないのさっ!」


激昂してしまったマスヨお姉さんは、段々と口調が昔のスケ番風味になってきてしまってるみたいなんだ。


このままじゃ不味い様な気がするよ……


なんとか僕の力で落ち着かせて上げないと……


「うん、将棋なんてまた随分と乙な趣味を持ってるんだね。

僕のお祖父ちゃんも将棋が好きだって言ってたよ」


「……じゃあなんで、あたい以外に将棋をやろうって熱い気概を持った野郎が現れないのさ……

あたいは毎日此処で部員を募集してるって言うのに……」


なんだよ、部員を募集してるって……其処に座ってるだけじゃないか!


なんだかいい加減に面倒臭くなって来たよ。


「だから……悪いのは将棋じゃなくてマスヨお姉さんだって言ってるんだよッ!」


「ま、マナブ君!?」


マスヨお姉さんは、僕の眼から見ても分かる程にうろたえてたのを一変させ、卑らしく笑い始めたんだ。


「A子の居場所が知りたいんだね?

分かったわ、それならあたいと将棋で勝負をおし!

あたいの将棋を馬鹿にした事を心底後悔させて上げるわ……」


何を言ってるんだよ!

僕、将棋の事なんて一言も馬鹿にしてないじゃないか!

ちゃんと現実を見なよ!


「僕、将棋のルールなんて知らないよ!」


「なにさぁーっ!

じゃあ囲碁でもオセロでもチェスでももうトランプでもなんでも良いわ!

 取り敢えずあたいに構ってよ!」


もうマスヨお姉さんの我が儘には、流石の僕もウンザリだよ。


「そんな事してる時間が勿体無いからさっさと教えてよ」


「……なにさっ、分かったわよ。

仕方ないから、マナブ君が持ってるその私に良く似合いそうなヌイグルミを、私にくれたら考えて上げても良いわ」


なんて図々しい事を……コレはナッちゃんへのお土産だぞッ!


「嫌だ! 絶対嫌だ! 死んでも嫌だッ!

マスヨお姉さんにはこのヌイグルミに指一本触れて欲しくないんだよッ!」


「なにさっ、可愛げのない……仕様がないわねぇ。

それじゃあ、十万寄越しなさい。

そしたら教えて上げるから」


なんだよ! 子供相手にぼったくり過ぎだよ!


勿論、僕には十万なんて大金を払える訳がないから、僕はマークに救いを求める為に視線を向けたんだよ。


マークも嫌だって言う視線を僕に返して来たんだけど、僕の助けてくれないと泣き叫ぶよって言う合図を見て、渋々だったけど頷いてくれたんだ。


「……おいボンバー、もう少し安くならないものなのかね?

いくらなんでも十万は高過ぎだぞ」


「駄目よ、駄目。

此方だって商売でやってんのよ。

そんな簡単に安く出来るもんですか」


「……おい、私とお前の仲って言うのはどうなったんだ?」


マークが値切ろうにも、マスヨお姉さんは首を縦に振ってはくれないんだ。


「……マナブ君、後でそのヌイグルミよりももっと立派なヌイグルミを買って上げるから、そのヌイグルミをボンバーに渡してくれないかい?」


「え〜っ!?

分かったよ……マークが其処まで言うならこのヌイグルミをマスヨお姉さんに上げるよ……」


僕はこのヌイグルミが良かったのに……恨むよ、マスヨお姉さん……


僕からヌイグルミを受け取ったマスヨお姉さんは喜色満面な笑みを浮かべ、その笑顔が何故だか僕を嘲笑ってる様に見えるんだ。


はっきし言ってかなりムカつくよッ!


僕の不快指数はメーターが振り切れる位に酷い事になってたけど、漸くA子お姉様の居場所を突き止める事が出来たんだ。


         続く

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