帰って来た マクギブソン!
今日は、一昨日から何故か元気がないマークを元気付ける為に色々と頑張って上げようと思ったんだけど、僕、マークが何をして上げれば元気になるかなんて知らなかったから仕様がないんで、マークの奢りで漫画喫茶に行き、漫画でも読みながらマークの相談に乗って上げる事にしてたんだ。
マークの話を要約すると『男として再起不能になったんじゃないか?』って事らしいんだ。
この前マークが言ってた用事って言うのは、“あの二人”にやられた“傷”の痛みが引かなくて、これは一大事だと言う不安からお医者さんに観てもらいに行ったんだって。
お医者さんに観てもらったなら大丈夫じゃないの? って思ったんだけど“傷”の後遺症からか再起不能になる可能性があるんだって。
マークの言うお医者さんの話では“心理的な問題”だから治るかも知れないし治らないかも知れないんだって。
肉体的には問題ないから大丈夫って言われたそうなんだけど『もしかしたらもう二度と……』って言う不安から、焦燥の思いを前面に押し出してたんだってさ。
マークって意外と繊細な心の持ち主なんだね。僕、知らなかったよ。
――って言う事なんで取り敢えずマークに自信を付けさせる方向に持って行く事に決めたよ。
一通り漫画を読み終えた僕は、マークをゲームセンターに連れて行く事にした。
「マーク、まずはこのUFOキャッチャーであのヌイグルミを取るんだ!」
「……分かったよマナブ君……私に掛ればこんなもの……出来ないよ……私には無理なんだよ。ゲーセンに初めて来た私なんかに出来っこないよ……ハハハ、でも軟弱になってしまった私にはお似合いな場所だね此処は……?
君もそう思ったから此処に連れて来たんだろマナブ君……?」
「いいから早く、其処のハチミツが好きそうなクマのヌイグルミを取ってよ!」
ったく、マークったらとんだ俯抜けになったもんだよ。
ついでにナッちゃんのお土産をと欲気を出したんだけど、マークを此処に連れて来たのは逆効果だったみたいだね。
来ちゃったもんは仕様がないから、マークがヌイグルミを取ってくれるまで頑張ってもらおう。
「ああっ!? 取れたよマナブ君!」
マークが僕の予想に反して一発で取ってしまったんだ。
僕の予定では、ヌイグルミが取れない苛立ちからマークを怒らせ、店員にイチャモンをつけさせてマークに元気になってもらおうって言う算段で、あわよくばヌイグルミもと思ってなかったって言えば嘘になっちゃっうんだけど、取れちゃったもんは仕方ないからマークを誉めて上げる事にしたよ。
「凄いよ! 僕、マークが此処まで凄い奴なんだって思わなかったよ!
やっぱりマークって凄かったんだね!
ホンっトマークには敵わないよ!」
「ふふふ、誉めてくれて有り難うマナブ君。
でも、このヌイグルミ、貧弱になってしまった私にはお似合いだね……?
君もそう思うだろマナブ君……?」
「何言ってるんだよ!
それはナッちゃんへのお土産だよ!
マークにヌイグルミが似合う訳ないだろ!
マークにはビタミン剤とかプロテインの方がお似合いなんだよ!」
マークったらさっきから薄く微笑んでるんだけど、気味が悪くって仕方ないんだよ。
こんなマークなんてマークじゃないよ。早く元に戻さないと僕まで可笑しくなってしまうよ。
「マナブ君は変わってしまったんだね……?
初めて会った時が懐かしいよ……もっと素直で優しい子だったのに……」
マークは僕の事を懐かしむ様に見て来るんだ。ハッキリ言って居心地悪いよ。
「マーク……人の自我って言う物は常に変化して行くんだよ。
過去を振り返るなんてマークらしくもない……それに、僕が変わらない事には小学校に通えないんだよ。
マークは僕を変える為に家庭教師になったんだろ?
まぁ、会う人会う人を観て色々と勉強させてもらったよ。
A子お姉様には狡猾さを……
マスヨお姉さんにはしぶとさを……
看護婦のお姉さんには営業スマイルを……
ジョージには儚さを……
ついでにトミばぁには強欲さを……
最後にマークには……え〜っと僕、マークと一緒に居る時はいつも遊ぶのに夢中でなんにも勉強してなかったって事に今気付いてしまったよ。
まぁ、そう言う訳で明日の為に今の内からこの感じを慣らしておかないと、母さんを騙すと言うか誤魔化すのは難しいと思うんだよ……」
「はぁ〜、分かったよマナブ君。
私が今からお手本を見せて上げるから、あんな人達を参考にするのは止めるんだよ。
そうしないとマナブ君のお母さんに会わす顔がないよ……」
渋々だったけど、マークがやる気を出してくれて良かったよ。
でもまだ安心出来ないから色々と考えておかないと、気を抜いたらまた直ぐに俯抜けに戻っちゃう可能性が高いからね。
マークに連れられて街を適当に歩いてるんだけど、目的地が皆目見当がつかないんだよ。
「……ねぇ、マーク。一体、何をする腹積もりなの?」
「何をって言われても……気付かないのかい?
私達は今、パトロールをしてるのだよ。
まぁ、人助けでもしようと思ってたんだけど、なかなか困ってる人が見当たらなくてね……」
何を青臭い事言ってるんだよ。マークに人助けなんて似合わない事この上ないよ……
ハハ〜ン、解ったよマーク、人助けって言うのは建前で本音を言えば、助けて上げた事を嵩に掛けてお駄賃を鱈腹せしめようって腹なんでしょ?
僕だって本音と建前を読み取る事位出来るんだよ。まぁ、これもA子お姉様に教わったんだけどね。
でもマークったら、本当にどうしようもない極悪人なんだから。
其処まであくどい奴だと逆に惚れ惚れしちゃうね。
やっぱりマークはこうでなくちゃ。
そうと解れば僕も困ってる人(生贄)を探さないと。
「あっ! マーク、ほら、あそこの人が困ってそうだよ!」
「う〜む、確かに困ってるみたいだけど、あれはカツアゲされてるだけじゃないのかい?
私が求めてるのは、重そうな荷物を持ってるオネーさんとか道に迷ってるオネーさんとか取り敢えず困ってるオネーさんを探してたんだよ。
悪いけど私は野郎なんかを助けて上げる程、物好きじゃないんだ……」
何を言ってるんだよっ!
折角、僕が困ってる人を見つけて上げたのに、文句ばっかし言って、そんなに都合良く困ってる人なんて居る訳ないんだよ。
あの人見つけただけでも儲けものなのに、なんとかあの人で我慢してもらわないと……
「マーク、まずはあの人の所へ行って話を聴いてみようよ?
もしかしたら、あの人の家族にお姉さんとかが居るかも知れないじゃないか?
見捨てるのはそれからでも遅くないと思うよ?」
「う〜む、そう言う考え方は浮かんでこなかったよ。
でも、助けて上げた人のオネーさんって言うのはまた、随分と繋がりの薄い……」
マークがいつまでも愚図ってるから無理矢理引っ張って行く事にしたよ。
路地裏に連れて行かれたあの人を追い掛けて、僕達も奥の細道へといざ出陣だ!
僕達は一番良い瞬間に助けて上げる為に、取り敢えず影から様子を伺ってるんだ。
「……マナブ君、なんで直ぐに助けて上げないんだい?」
「……マーク、そんな事も分からないの?
直ぐに助けちゃったら恩人の有り難みって言う物が軽くなっちゃうよ。
だからあの人が、二三発殴られてから助けて上げるんだ。
そしたら御捻りだって沢山、弾んでくれる筈だよ。
それに、ヒーローだって遅れて登場するものでしょ?
あれだって、本当は僕達みたいに影から覗いてて、此処だっ! って思った時に出て来てるんだと、僕は思うよ」
「う〜む、そんなもんなのかね?
私はテレビを余り見てないんで、そこんとこ良く分からんのだけども……」
「もう良いから、静かにしててよ。
今、見つかったらとっても恥ずかしいんだから……」
マークに任せたら、変なとこで出て行きそうだから、僕が合図を出して上げないと……
やっぱり、最初が肝心だからね。神経使わないと。
早く殴られてくれないかと、期待して待ってたんだけど、なかなか始めてくれないんだ。
それどころかあの人は、土下座しながら金品を差し出し始めたんだよ。
「……ま、マナブ君!?」
焦った僕は、急いであの人の所へ駆け寄ったよ。
「テメーっ! この野郎っ!
あんたのせいで僕のシナリオが台無しじゃないかっ!」
「ぐはぁっ! なんで……」
僕の予定を滅茶苦茶にしてくれた輩に天罰を与えるべく、僕は正義のストンピング攻撃を喰らわせてやったんだ。
「ま、マナブ君、落ち着くんだ……」
まだまだ踏み付け足りなかったけど、マークに抑えられてしまっては、僕の力で振り切る事が出来ないんだ。
「「「……だ、誰だ!」」」
「煩い! うるさい! ウルサァァァイっ!
全部アイツが悪いんだっ!」
柄と頭の悪そうな奴らが慌てふためいてたけど、もうそんなの関係ないよ。
僕があの野郎を倒さない事には、腹の虫が治まらないよ!
「マナブ君、落ち着いて。
この人は唯、其処の奴らに絡まれてただけだよ……」
「やだよっ! 僕の思い通りにならない世界なんて滅んでしまえば良いんだっ!」
「……マナブ君、思想が随分と黒くなってしまってるじゃないか?
世界は無理だけど、この場を好きにして良いから、落ち着いてくれ」
ふぅ〜、僕とした事が少し許り取り乱してしまったみたいだね。
マークにあそこまで言わせてしまっては仕方ない、あの人の処分は保留にしとこう。
「うん、分かったよ。
マークの事、飛び切りカッコ良く演出して上げるからね?」
そうと決まればやる事は一つだよ。
アクション映画みたいに血湧き肉躍る、ド派手な乱痴気騒ぎに仕上げようじゃないか。
僕の将来の為の勉強にもなるし、丁度良いや。
「師匠、それでは、取り敢えず入場シーンからお願いします。
それで、君達は其処の人を何発か殴っててくれる?
そしたら僕達が流離いの旅人を装って颯爽と現れるから……
分かった?」
僕の考えた筋書――
――古くから営われてた名門道場のぐうたら跡取り息子のマークが街で遊び回っている時に、ある日道場に訪れた謎の武道家に家族を殺され、復讐する為に家族を殺した犯人を探しながら、武者修業の旅に出てるって言う物語にしたよ。
「お前ら! 何、勝手に話しを進めてんだ!」
「止めろっ!
……お前はあそこに居る人が見えないのか?
あの人はマクギブソンだぞ……
お前もあの人の噂を聞いた事あるだろ……
」
チンピラ其の壱と其の弐が、僕の合図を待たずに勝手に寸劇を始めてしまったんだ。
「あいつが……?
ツワモノだとか曲者だとか名高い、あのマクギブソン……?」
「ヤバいな……」
「でも、此方は三人も居るんだぜ?」
やる気があるのは良いんだけど、そんなの要らないよ。
「止めろ! あの人と関わった人間がどうなったか知らない訳じゃないだろ!」
「ヤバいな……」
「ああ、ヤバい……」
其の参も『ヤバい』しか言わないんだよ。
彼は大根だね?
「もう良いかなぁ?
早く始めたいんだけど?」
「「「うひぃ〜っ!」」」
「んじゃあ、僕達は其処の影に隠れてるから、宜しく頼むよ」
これで準備は万端だ。
後は出番を待つ許り。
僕達の出番を今か今かと待ち詫びてたんだけど、なかなかやられ役の町人を殴らないんだ。
それどころか、また土下座し始めたんだよ。
あの野郎! 一度ならず二度までも……
僕は気が付くと、身体が勝手に脱兎の如くあの野郎目掛けて駆け出してたよ。
「くろあぁああぁあぁあぁぁあぁぁあぁあっ!」
「ひぃぃぃ!」
「へっへっへっ、こいつは俺達の獲物だぜ?」
僕が硬く握り締めた拳を振り下ろそうとした時に、チンピラ其の壱が下卑な笑いを浮かべながら、僕に話し掛けて来てしまったんだ。
そんな事されたら、僕が間違えたみたいな雰囲気になってしまうじゃないか!
「へっへっへっ、こいつを助けてたければ、お前が代わりに金をよこすんだな……」
くそっ、僕の説明が悪かったのかチンピラ達の頭が悪かったのか分からないよ。
「ストップだよ!
歯抜け君、まず、あそこの町人を殴り飛ばしてもらわないと困るんだよ……」
「あ、あの……」
僕がチンピラ達に詳しく説明して上げてたのに、町人の野郎がそれ邪魔して来たんだよ。
「なんで僕は殴られないといけないんでしょうか……?」
「そんなの、困ってる人を演出する為に決まってるだろっ!」
「そ、そんな事しなくても十分に困ってるんですけど……」
こいつは、僕の演出にケチを付けようってのか!?
此処まで僕を舐め腐ってくれた奴は君が初めてだよ……
面白い、君がどれ程の物なのか特別に試して上げるよ……
「……フ〜、フォアチャァァァァアっ! あたタたタた‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥……たタたタたタたアタぁぁぁっ! フォあちョおォォォッ! ファイアァァアアアッ! ボンバァァァァァッ!」
「うわッ!? やめ、痛い! ちょ、なんで!? 何するんだ!」
僕の怒濤のコンビネーションを受けて、町人役の男もたじたじになってしまってるんだよ。
僕の功夫は、達人の域を軽く越えてしまっている筈だからね。
なんてったって功夫映画をしこたま見て研究したからなんだよ。
此方で一悶着してる間に、向こうでもチンピラ共がチンピラ同士で勝手に殴り合いを始めてたんだ。
「ああぁぁぁぁぁっ!
もうッ! なんでこんなにも纏まりないんだよッ!
少し位、僕の注文通りにしてくれても良いじゃないかッ!」
何故こんなにも収まりの悪い話になってしまったんだ?
一人佇んで居たマークが僕の傍に寄って来て、僕の肩に手を置き、この荒れ果ててしまった場を眺めながら呟いた。
「……マナブ君、一体いつになったらオネーさんが出てくるんだい?」
はァッ! そうか!? ヒロインが居なかったのがいけなかったんだね?
マーク、流石は僕が見込んだだけの事がある漢だね?
やっぱり、ツボを抑えとかないと巧くいかないもんなんだね?
マークは僕に大事な事を気付かせてくれたんだ……ぐすっ、泣けてくる程良い漢だよ。まったく……
僕が、感動の余りに黙り込んだのを見たマークは、僕を置いて町人と交渉し始めたんだ。
流石マーク、仕事が早いね?
「……おい、其処の君、君の家族に女の兄弟は居るのかね?」
「……へ? あっ、はい、妹が一人居ますけど」
マークは少し残念そうな顔をしてたけど、まだ諦めた訳ではないみたいなんだ。
「妹か……
妹さんは可愛いか……?」
「え? ……まぁ、僕は可愛いと思いますけど……」
男は少し考えてからマークにそう言ったんだ。
なんとなく言葉を濁してた様な気がするんだけど、マークは一人ほくそ笑んでしまったんだ。
それを見た男もまた怪しげに笑い始めたんだよ。
「そうか、可愛いのか? ふふふ、因みに妹さんは何歳なんだ?」
「ええ、妹は十二歳です……」
どうもマークの様子が可笑しくなって来たんだ。
あれは危ういよ、僕が止めて上げないと!
「なんだとォうッ!
貴様は私を騙したのか?
この野郎ッ!」
「待って!? マーク駄目だよ!
大丈夫だから……ねッ?」
「……マナブ君、大丈夫たって、少し若過ぎやしないかい?」
はぁ〜、マークはちぃとばかし焦り過ぎなんだよね。
まぁ、怒れる位に元気が出てくれてるんだから別に良いんだけどさぁ。
「……マーク。マークは少し早計過ぎるんだよ。
もう少し僕の様に、長い目で物事を見ないと……
マークが若過ぎるって言いたいのも分かるよ。
でもね、五年十年経ってみたらどうなると思う?
分かるだろ、マーク?
今の内から懐柔しておかないと……」
「……五年後、まだ女子高生……良いなッ!
素敵だよマナブ君!」
ふぅ〜、マークも納得してくれて良かったよ。
これでヒロインも見付ける事が出来そうだし、万事巧く行きそうだよ。
「そうと分かれば、早速、妹さんを連れて来てくれ」
「へ? なんでまた妹の奴なんかを?」
「良いから早くッ!」
「ひぃぃぃ!」
男には馬車馬の様に働いてもらわないとね?
なんてったって僕の事をコケにしてくれたんだから……
それにしても、マークが楽しそうにしてくれてて良かったよ。
「女子高生、若い、素晴らしい。
私、大人、逞しい。
ハァハァ、女子高生と……
はッ! ままま、マナブ君! く、クララが……」
……元気そうでなによりだよ。
続く




