学園天国? 後編
A子お姉様に因って囚われの身となった僕は、A子お姉様の遠大な話を延々と聴かされる羽目になったんだけど、A子お姉様の話を良く聴いて居ると、マーク達を更生させると言うのは建前で、その実、生徒会なる物を掌握したいだけみたいなんだ。
なんでも、生徒会長と言う人は『顔が良いからって、チヤホヤされてるのは今だけよ』とか『家が金持ち、と言うのが気にくわない』とか『どうせ、先生達に色目使ってるだけなんだから』とか『私だって本気を出せば……』と言う事らしいのです。
「その中でも、一番ムカついたのが、生徒会長と言う権力を下に、私の大好きな副会長にチョッカイ掛けやがった事なのよ……」
A子お姉様は、唇を噛み締め、握り拳を震わせながら、憎悪を孕んだ視線で僕の同意を促すんだ。
「……分かるでしょ?」
「……え、えー、その事に関しては、僕も誠に遺憾に思っております。
えーっと、今後この様な事がない様、前向きに検討する所存であります……?」
これで良いんだよねぇ?
「……ホントに分かってるの?
マナブ君は、私が死ねと言ったら死ななければいけないのよ」
それは嫌だなぁって思ってたら、どうやらそれが顔に出てたみたいで、A子お姉様は僕の肩に手を回して、怪しい視線で僕に笑い掛けて来るんだ。
「マナブ君は、それでも私のファンクラブの名誉会員なの?
マナブ君が一番、偉いのよ? それなのに、そんな顔してて良いと思ってるの?」
「あ、あの、僕はいつの間にそんな怪しげな宗教団体に入団したんでしょうか?」
A子お姉様は明らかに失望した、と言う顔を浮かべ、溜め息をつきながら、僕にデコピンをして来たんだよ。
僕は忙しいから、そんな事してる暇ないんだけど……
「だって、生徒会長のファンクラブが在るのに、私のファンクラブが無いなんて不公平でしょ?
だから今、作ったのよ。
マナブ君、ちゃんと私の話を聴いてたの?
まず、外堀から埋めてくって言ったでしょ?」
ズルイよっ! 僕、ちゃんと聴いてたけど、そんな事、言ってなかったじゃないかっ!
僕は、少しだけ気分を悪くしたけど、顔に出してしまうとまた怒られると思ったので、必死で平静を装ったんだ。
「……あ、あの、もしかして会員って、僕一人だけなんでしょうか?」
今度は、如何にも、私、怒ってます、と言う風体を醸し出して、お尻とか何かを、色々とプリプリさせてるんだ。
「何を言ってるのよ!
そんな見窄らしい、ファンクラブなんて在る訳無いでしょ!
何の為にマナブ君を私の配下にして上げたと思ってるの?
真久木君達、延いてはそのルートから応援団の奴らを全員、私の下に引き込むのよ!
……悪いけど、マナブ君が真久木君達の知り合いだって、下調べは済ませてるんだからね。
今更、誤魔化しても無駄よ」
僕、マークと知り合ってから、まだ三日しか経ってないのに、何処でバレたんだ?
A子お姉様が不敵に笑いながらも、身振り手振りを使って、僕に良く分かる様に説明しようとしてくれたんだ。
「クスクス。何も理解出来てないって顔してるわね?
真久木君程の曲者を取り込むのは、流石の私でも難しかったんだけど、そんな時に真久木君が、マナブ君に相当に入れ込んでるって話を小耳に挟んだ訳なのよ。
マナブ君って、真久木君の後継者なんでしょ?
そうと分かれば、マナブ君から取り込むまでよ。
後は、子供を騙すなんて、私に掛かれば朝飯前よ!
……ホントは私から会いに行く予定だったんだけど、嬉しい事にマナブ君が勝手に赴いて来たって訳なの」
A子お姉様が、余りにも楽しそうにしてるので、話の腰を折るような真似をしたくなかったんだけど、なんだか雲行が怪しくなってきたので、持てる勇気を全て振り絞ってA子お姉様を止める事にしたよ。このままでは、僕の頭脳が破裂しちゃうよ!
「……あ、あの、そう言う事は、僕の前とか、教室の中で言う事じゃないのでは……?
先程から痛い程に、周りからの視線を感じるんですけども……?
このままでは、外堀を埋める前に、A子お姉様の無さそうな評判が更に悪くなってしまわれるのではないですか……?」
「なんですってっ! ……まぁ、過ぎた事は仕方ないわ。今から、屋上に行って細かい打ち合わせをしましょう」
A子お姉様の振り上げられた右手が怖かったけど、元々、此処に来た理由を忘れていなかった僕としては、今から屋上に行ってしまうと確実にサボリになってしまう訳で、サボってしまったら僕が此処に来た意味がなくなっちゃって、色々と不都合なんですけど……
とか何とか言い訳を考えてたんだけど、首根っこ掴まれて、そのまま屋上まで引き摺り込まれてしまったんだ。
ごめんよマーク、僕の所為でマークが不良みたいな事にされてしまったよ。
せめて、出席を取ってもらうまで待って欲しかったのに。
「……作戦会議を開く前に、まずは、情報収集に駆り出してた、マスヨを呼び戻しましょう。
……話はそれからね?」
A子お姉様は、携帯電話で何処かに電話を掛け、電話が終わると、今度は、腕を組みながら空を見上げて、ほくそ笑んでるんだ。
……人を待ってるなら、まだ教室でも良かったじゃないか。
「……あ、あの、“マスヨ”って誰ですか?」
A子お姉様への質問は、一呼吸と共に片手であしらわれてしまったけど、僕は、“マスヨ”と言う人物に興味を覚えた訳でなく、特にやる事もなく暇を持て余してただけなので、そんなに返事を期待してなかったんだけど、いざ、本当に軽くあしらわれてしまうと少しだけ気分が悪くなってしまう訳で、いっその事このまま帰ってしまおうかと思ったんだけど、屋上の入口付近をA子お姉様が陣取って居るので、そうする事も出来ずに、自分の無力さを哀れんでたりしてみたものの、僕は、まだ小学生だから仕方ないよ……と言う結論に至ったんだよ。
A子お姉様を出し抜こうにも僕の話をちっとも聴いてくれないんだよ。
……嗚呼、誰か助けてくれないかなぁ?
なんて他人任せな事を考えたりしてたんだけど、世の中そんなに甘くないんだよね。
マークが助けてくれる事を少しだけ期待して居たんだけど、僕は今、マークに成り済ましてる訳だから……
あれ? A子お姉様には、僕の正体がバレてるんだから別に大丈夫なのかな?
なんだか訳が分からなくなって来たよ。
僕は、何事に於いても頓知を利かせられる程、捻くれ者でもないので、溜め息をつく事で気を紛らわしてたんだ。
「……マナブ君、いくら私が神秘的な程に美し過ぎるからって、そう何度も熱っぽい吐息を漏らされたからと言っても、私の気持ちは……
ハッ、駄目よ! 私は、副会長に操を立ててるんだから……
いくら名誉会員だからってそんな役得……
あ、後、十年位は我慢しないと駄目よ!」
胸や股間の辺りを両手で隠して身体をモニョモニョさせてるA子お姉様を見て、僕は、良い事を思い付いたんだ。
やっぱり、自分の事は自分でしないとね。
「あ、あの、僕、トイレに行きたいんですけど、其処を退いてくれませんか……?」
「トイレ?
……ふ〜ん、分かったわ。マナブ君も、そういうお年頃なのね?
大丈夫、私はある程度、理解のある女だから。思う存分、出して来なさい。私が許可するわ!」
A子お姉様の眼が異様に優しくなってたのが気になったけど、ようやく僕は自由を手に入れたんだ。
溢れ出る解放感から、少し小走りで廊下をスキップしてたんだけど、気が付いたら、A子お姉様が、後ろから凄い勢いで僕を追い掛けて来るんだ。
僕の脱走計画がバレてしまったのかっ!?
僕は、必死で逃げ回ったんだよ。捕まったらビンタされる事は分かり切ってたからね。
小学生である僕が、A子お姉様より速く走れる訳もなく、どんどん縮まって行く距離に、全てを諦めて楽になってしまおうか? とも思ったんだけど、前方からモサモサした物体と言うか、アフロのお姉さんがが歩いて来てたんだ。
あれ程、口汚くA子お姉様に捨ゼリフを吐いて居たこのお姉さんなら、僕の事を助けてくれるかもしれないぃっ!
僕は、これは天恵と許りに、アフロのお姉さんの背後に隠れスカートの裾を掴み、助けを求めたんだ。
「セ、セクハラぁあああぁあっ! あっ!?」
アフロのお姉さんは、僕を助けてくれるどころか、気の済むまで大音量で絶叫してから、僕に軽蔑の視線と少しだけ誇らしげに口元を歪めた顔を向け、スカートの裾を掴んでた手を乱暴に払ったんだ。
誰だよ、敵の敵は味方だ、なんて言ってた奴は!
その話を鵜呑みにしてた僕が馬鹿みたいじゃないかっ!
「ふん! 子供かと思って油断してたら、やっぱり真久木君達の知り合いなのね……」
僕が、アフロのお姉さんに呆気に取られてしまってる隙に、A子お姉様と、アフロのお姉さんが発した魂の叫びに呼び寄せられたギャラリーの人達に囲まれてしまったんだ。
「ど、どうしたのマスヨ?」
「A子!
ちょっと聴いてよ!
この子ったら!
私の!
健全な!
純然たる!
乙女の恥じらいを……
剰え!
公衆の面前で!
曝け出させようとしたのよっ!」
『何事か!』と騒いでたギャラリーの人達も、周囲の状況を確認した後に大袈裟に慌てふためくA子お姉様と、露骨に大きな声を揚げながら、何故か嬉し装な顔してるアフロのお姉さんを見る度に、二人を尻目に、次々とこの場を後にして行ったんだよ。
明らかに期待をしてた顔の先生らしき人でさえ、二人を見るなり『今は授業中だ! 早く教室に戻れ!』の言葉を吐き捨てると共に、足早に教室に戻って行ったんだ。
結局、僕達三人だけしかこの場に残らなかったんだ。
僕も流れに乗って此処から立ち去ろうとしたんだけど、僕の肩は確りとA子お姉様に掴まれてたんだよ。
「……マナブ君、マナブ君は一体、何がしたいの……?
私をその気にさせといて……
よりにも選ってマスヨとだなんて……
この裏切り者!
マナブ君にトイレの場所を教えて上げようとしてただけなのに、こんな酷い仕打ち……」
A子お姉様は、沈痛な面持ちで額に右手の甲を当てながら、その場に倒れ込み、今、正に悲劇のヒロインを気取ってるんだ。
……って言うかそんな気遣い要らないんだよ!
トイレなんて一人で行けるんだよこんちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「……まぁ、其処に居る眼鏡より私の方が魅力的なのは分かるんだけど。
でも、乙女心を玩具にするのは頂けないね〜」
アフロのお姉さんは、怒ってると言うよりも、寧ろ勝ち誇った顔でA子お姉様を見下してるんだ。
「マナブ君?
いくらマナブ君が万年発情してる色ガキだからって、其処に居る鳥がらアフロなんかに手を出しちゃ駄目よ。
そんな事したら、アフロの不幸がマナブ君に移っちゃうんだからね。
さぁ、マナブ君、其処に居るアフロに『さっきのは遊びにも満たない、只の気の迷いだった』って言うのよ。
そしたら、私もさっきの事は不問にして上げるから」
A子お姉様は徐に立ち上がり、僕に笑ってないんだけど笑い掛けて来るんだ。
「ちょっと、いくら自分に自信無いからって無理矢理言わせてんじゃないよ!
そんな事したって、眼鏡が無駄にデカイ尻してるって事は変わんないんだよ!
その子にどっちが良い女なのか、ちゃんと選ばせなさいよ」
「なに焦ってんのよ、自分に自信無いのはあんたの方じゃない。
……まぁ良いわ、さぁマナブ君、どっちが美人なのかアフロに確りと分からせて上げるのよ」
二人は全然、然り気なく無いんだけど、然り気ないポーズを取ってるんだ。
二人共、余裕の表情を浮かべてるんだけど、僕にはどっちが良いかなんて分からないよ。
仕様がないからマークに聴いて来ようかな?
「……あ、あの、僕では判断付かないんで、人に聴いて来ても良いですか?」
二人は、一瞬、物凄く険しい顔をしてたんだけど、僕が不覚にも恐れ戦いてしまったら、自分が負けてしまうとでも思ったのか、ぎこちない笑顔を顔に貼り付け、無言のまま動かなくなってしまったんだ。
それを許可してもらったと判断した僕は、屋上で待っててもらうように伝え、走ってその場を後にしたんだよ。
急いで家に帰って来た僕は、丁度良くお昼寝から目を覚ましたマークに今の僕の事情を包み隠さず全て説明したんだ。
僕は今、自由なんだけど、約束を守らないって言うのは僕のポリシーに反する事なので非常に困ってるって事までマークに伝えたよ。
「……ふ〜む、分かったよ、マナブ君、仕方ないから私、自らが戦場に赴くとしよう」
助かった!
だからマークって最高なんだよ。
やっぱり困った時はマークだね。
僕達はそのままナッちゃんを迎えに行き、ついでにジョージのお見舞いを済ませ、一度、家に帰りオヤツを食べてから、またジョージのお見舞いに行った後に、その足で学校に向かったんだ。
ナッちゃんも、僕達に付いて来ちゃったんだけど、まぁ、大丈夫だよね?
屋上に到着した僕達は、少し辛そうな顔しながらも、必死にポーズを取ってる二人を見て、ちょっとだけ申し訳ない気分になってしまったよ。
「……ま、真久木君!?
ま、まぁ良いわ、誰でも良いから、早く私達を採点してぇ!」
徐に二人に近づいたマークは、右手で二人に、音だけ聞いてたら痛そうな張り手を喰らわせたんだ。
張り手を喰らわせたって言ったけど、ホントは振りだけで、マークは左手で自分の頬を叩いてたんだ。
僕の場所からだと、ホントに叩いた様に見えるんだよ。
マークの意図に気付いた二人は、大袈裟に態とらしく倒れ込み、地面を転げ回ったり、非難がましい視線を投げ掛けてみたり、好き勝手に喚き散らしたり、やりたい放題してたんだ。
「……マーク、それで、どっちが良いの?」
マークは僕に優しく笑い掛けて来て言うんだ。
「……該当者なぁし!」
「「ちょ、ちょっと」」
何が不満なのか二人は、マークに抗議の声を揚げてるんだ。
そんな二人を見て、マークも、仕方がないと許りに説明を始めたんだ。
「お前らは、根本的に間違ってる!
まず、ボンバー!
貴様からだ!
お前はその髪型になった時から『パーマ掛けんの失敗しちゃった』とか言ってるけど、お前もう一年以上その髪型だろ?
本当は気に入ってるんだろ?
お前は言い訳がましいから駄目なんだよ……」
アフロのお姉さんは余りの驚きに目を見開き、マークの事をジロジロとだらしなく見てるんだけど、マークはそんな事、気にせずにA子お姉様の方に向き直り、言葉を続けるんだ。
「次は伊達眼鏡!
貴様だ!
お前も、丁度、高校に上がった時からか?
眼鏡を掛け始めたのは?
……お前は質が悪い、眼鏡を掛けてるだけならまだ良いんだ。
唯、自分で『眼鏡っ子、眼鏡っ子』とか公言してたのが頂けないな……
お前は少し狙い過ぎたんだよ……」
A子お姉様は悔しそうに俯き、マークを見ないようにしてるんだ。
それを見たマークは透かさずフォローを入れたんだ。
「最初は皆も、昔から地味で目立たないお前らにあだ名が出来て喜んでたんだ。
……だけど!
お前らは、少し、増長し過ぎたみたいだな。
アフロは別に好きしろ……
眼鏡は萌えるとか燃えないとかに惑わされるな……
お前が眼鏡を掛けても、何も変わらないんだから……」
「ま、真久木君、そんなに私達の事を……」
「私達の変化に気付いて、私達の事、ちゃんと見ててくれたのって真久木君が始めてよ……」
二人のお姉さんはマークに、尊敬と羨望、それと少し媚びの入った視線を投げ掛けてるんだ。
「……小学生の頃から同じ学校なんだから、当たり前だろ。
皆、見て見ぬ振りをしてただけなんだよ……」
マークの話も聴かずに、二人はマークに縋り付いてるんだよ。
「真久木君、私達これからどうすれば良いと思う?」
マークは少し嫌そうな顔をしてたんだけど、A子お姉様の問いには確り答えて上げたんだ。
マークって優しいね!
「……取り敢えず、整形しろ……」
「「あんたにだけは言われたくないんだよ!」」
二人のお姉さんはマークの股間やら、鳩尾の辺りを必要に蹴り上げてるんだ。
「……ほ、惚れたぜぃ……」
三十分位、蹴り続けられたマークは、口から泡とか吹いてたんだけど、マークならあれ位、平気だよね?
僕はそれよりも、ナッちゃんの教育上、余り宜しくないと思ったんで、直ぐにナッちゃんの目を両手で塞いだんだ。
用事が済んだなら、早く帰りたいんだけど、あれっていつまでやってるの?
ナッちゃんも、疲れたみたいだし先に帰ってるよ?
僕とナッちゃんは、二人のお姉さんに手を振り、この場を後にした……
続く
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あっと、ジョージに聴いた話に因ると、アフロのお姉さんの名前は、『福田・ボンバー・マスヨ』って言うんだってさ。
それと、ボンバーはミドルネームじゃなくて、リングネームなんだって。
それから、A子お姉様が言ってた、生徒会長が副会長にチョッカイ掛けてたって話なんだけど、ジョージが言うには副会長の方が生徒会長にチョッカイ掛けてるんだって。
何処かで情報が入れ違いになっちゃってるんだけど、まぁ僕には関係ないや。
あっ、後、A子お姉様に頼まれてた会員勧誘なんだけど、僕以外では、ナッちゃんとジョージが入ってくれたんだ。
ナッちゃんが、会員番号二番で、ジョージが四番なんだよ。
マークに三番を上げようとしたんだけど、『死んでも嫌!』なんだって、だから三番は欠番にしといたよ。
最後に、これはマスヨお姉さんに聴いた、秘密の話なんだけど、A子お姉様が副会長を好きになった理由って言うのが、副会長がA子お姉様の眼鏡を誉めてくれたからなんだってさ。
えーっとっ、それじゃ、さよならっ!




