学園天国? 前編
今日は一日中、家で寛いでようと思ったんだけど、僕はマークが学校に行ってる所をまだ見た事が無いんだよ。
僕の為にマークが留年してしまっては忍びないので、学校に行く様に勧めたんだけど、マークは、お昼寝してしまったんだ。
仕様がないから、僕がマークの替わりに、マークとして授業を受けに行く事にしたんだ。
いつもお世話になってるから、これ位、当然だよね。僕って本当に義理堅いよ。
マークから貰った僕専用の長い学ランを着込み、なんとか学校に来る事は出来たんだけど、小等部の校舎が僕を誘惑するんだ。
くそっ! いつか絶対通ってやるからな!
僕は、後ろ髪を引かれたけど、重い足を引き摺り、匍匐前進でマークのクラスまで行ったよ。
教室に入ったは良いけど、僕、マークの席が何処なのか知らなかったんだ。
仕様がないから、近くの人に聞く事にしたよ。
僕がマークの偽者だって事を気付かれない様に、ちゃんと気をつけないと。どうやら僕は、少し怪しまれてるみたいなんだ。皆の視線を感じるんだよ。
「あ、あの、僕はマークなんですけど、マークの席って何処ですか?」
「っ!?」
僕がマークの名前を出した途端に皆が僕から視線を外しだすんだ。
何これ? いじめと言うやつなの?
僕は、消す事の出来ない心の傷と言う物を胸に刻み込んどいたよ。
悲しいのに、涙が出ないんだ……
ホントに悲しい時って涙が出ないのかな?
それから僕は、試しに今まで体験した悲しい出来事を思い出す事にしたんだ。
……小学校、トイレに流されず残されていた特大な物――意地悪な横嶋君が僕を犯人に仕立て上げたんだ。
僕は、そんなマナー違反しないでちゃんと流すよ!
……お爺ちゃんから貰ったお年玉――いつも僕だけ名前を間違えてるんだ。
僕は、“イサム”でも“ムサシ”でもないんだよ……そのまま受け取って良いのか判断が難しいんだよぉぉお爺ちゃぁぁぁんっ!
……父さんが蒸発した時――溶岩の中に飛び込んだんだ。
父さんは熱い魂を持ってるから大丈夫だって言ってたじゃないか、それなのに……
父さんの嘘吐きっ!
父さんなんて嫌いだっ!
……昨日、借りて来て見た映画――グロッキーが判定で負けたんだ。
ちきしょおぉぉぉぉぉ!
「えいどぉりぃうわぁぁぁぁぁんっ!」
一筋の涙が僕の頬に光り煌めく幻想的な橋を架けた。
善く善く考えてみると、僕の変装は完璧だよ。
僕はマークなんだ。
じゃあ、悲しいのは僕じゃなくてマークじゃないか!
「……ちょ、ちょっと君、もしかして真久木君の知り合いなの?」
「ちょ、ちょっと! A子、止めときなよ……」
二匹の雌豚共が、僕、基、マークに忠誠を誓いに来たんだ。
「真久木って、誰だよっ! 僕はマークだよっ!」
地味と言うか、眼鏡と言うか、眼鏡のお姉さんと、頭が爆発してる独創的なお姉さんが、僕をジロジロ見て来るんだ。
ハッ! もしかして僕の青い果実が狙われてしまっているの?
「……う、うん、棒夫君とか野次君とかが、よく真久木君の事をマークと呼んでたから……
もしかしてっ!? と思ったんだけど……
ところで君は、どうして此処に居るの?
君は、小学生位に見えるんだけど?
迷子になったの?
それに制服が埃まみれじゃない!
と言うかなんでそんな物着てるの?」
眼鏡のお姉さんが僕にべたべたとボディータッチしながら、早口で僕を問い詰めて来るんだけど、アフロのお姉さんが舌打して『ブってんじゃないよ』とか何とか溢してたのを聞いてしまったんだ。
もしかして僕の変装がバレてしまったのか?
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は高校生だよ。
も、もう、真久木でも何でも良いから、マークの席に案内してよ」
眼鏡のお姉さんが僕の手を取り、長い髪をそよがせながら、一つだけ作りの違う立派な装飾が施された椅子の所まで案内してくれたんだ。
凄い、これが今から僕の席になるの!?
「ところで君は、どうして真久木君の席なんか探してたの?」
「そんなの僕がマークだからに決まってるだろ!
何回も同じ事、言わせないでよ!」
僕は眼鏡のお姉さんを一喝してやったんだけど、眼鏡のお姉さんは怯むどころか左手で口元を隠し、クスクスと僕の事を馬鹿にするんだ。
流石の僕もプッツンきたよ!
「何が可笑しい!」
「クスクス。そんなカワイイ顔してなにが真久木君よっ!
本物の真久木君はもっと厳つい悪人面よっ!
可笑し過ぎて私の引き締まった腹筋が更に鍛えられてしまったわ!
クスクス」
僕は悔し涙を瞳に溜めて、この教室を飛び出そうとしたんだけど、眼鏡のお姉さんが僕の腕を掴んで離さないんだ。
この人怖いよ……
「待ちなさいっ!
私も言い過ぎてしまったみたいね。
謝るから、話を聴かせてくれる?
なんでこんな事したの?
君のお名前は?」
「ちょっと、A子!
真久木君の知り合いなら関わんない方が良いって……」
アフロのお姉さんの制止も聴かずに、それどころか『黙らっしゃっい』って言いながら、アフロのお姉さんの横面を張ったんだ。
「私は伊達に生徒会役員じゃないのよ!
迷える子羊を導けないで何が生徒会ですか!
真久木一派だろうとなんだろうと、と言うか寧ろ真久木君達を更生させないと、より快適な学園生活が送れないでしょうがぁ!」
演説を聴かされたアフロのお姉さんは『おぼえてろよ!』とか『呪ってやるぅぅぅ!』とか捨てゼリフを吐きながら、教室を後にしたんだ。
「……さぁ、君は記念すべき私の更生者、第一号になるのよ。
まず、お名前を言いなさい」
「……ぼ、僕は、マークです」
「このクソガキがぁぁぁぁぁ!」
教室に乾いた音が響き渡り、教室に居た人達は顔を青くさせてたよ。
僕も、眼鏡のお姉さんに横顔を張られてしまったんだ。
腰の入って手首を利かせたビンタは、僕の身体に確実に恐怖と言う物を刷り込んだんだよ。人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗りな!
とか言える空気じゃなかったんだよ。
「す、済みませんでしたっ!
僕の名前はマナブと言います。
あ、あの、ところでお姉様のお名前はなんと申されるのでしょうか?」
「ふ〜ん、マナブ君って言うのね?
クスクス、そんなに畏まらなくても良いわよ、マナブ君。
私の名前はA子よ。ビィーでもシィーでもないからね。クスクス。
……それじゃあ、マナブ君がなんで此処に居るのか教えてくれる?」
A子お姉様が怪しげに微笑みながら、僕の頭を子猫でも愛でる様に優しく撫で回してきたんだ。
僕は鳥肌を立てながらも、頷く事でしか許してもらえなかったんだ。
仕様がないから、此処まで来た経緯を掻い摘んで説明してあげる事にしたよ。
「……ほ、ほんの、出来心で……」
僕、マークの役に立てたのかな?
続く




