有栖川 唯
「でも本当に凄いね。日商簿記1級受かってるなんて。」
「計くんだってしっかりこれから勉強したら必ず受かるよ。」
「そうかな?・・・・」
午後の陽射しをたっぷりと吸い込んだ店内のテーブルで二人はアイスコーヒーを黙々と飲んだ。
「アイスコーヒー美味しいな・・・」
「うん・・・・そうだね・・・・」
しばらく沈黙の後、急に真剣な表情になった唯が計に問いかけた。
「計くんは何のために公認会計士の勉強しとるん?」
一瞬計は考え込んだ・・・・
そして計は慎重に言葉を選びながらゆっくりと一語一語を噛み締めるように伝えた。
「憧れ・・・・・憧れなんだ・・・・単純に・・・」
「憧れか・・・良いと思う。その言葉。」
「有栖川さんは?」
「ねえ。唯と呼んで。」
「分かった。じゃあ唯は?」
「証明・・・・だね。」
「証明?」
「うん。自分が挑戦してること。頑張ってることの証明。もっと言うとね、私が困難に負けず打ち勝ったことの証明。」
「それがずっと欲しかったんだ・・・」
「良いと思う。てかすごく良いと思うよ。」
「ありがとう・・・・計・・・」
唯はまた黙ってアイスコーヒーを一口啜った。
「ねえ?良いこと教えてあげようか?」
「何?」
「人生ってあっという間に過ぎ去るの。だから何かにチャレンジしないと一生後悔するんだよ。」
「だから私は公認会計士試験に挑戦するの。受かって私がここに存在してることの、達成したことの証明が欲しいの。」
「応援してるよ。唯。」
「私も計のこと応援してるよ。」
「うん!」
計は唯と水道橋で別れて家に帰った。
自室に帰りドッと疲れが出てそのままシャワーにも入らずベッドに寝転がった。
初日からかなりハードで充実した一日だった。
「Seize the day. 今日という日をつかめ。」
計が大好きなロックバンド、ドリームシアターの A Change Of Seasons という壮大な大曲の歌詞の一節にある言葉だ。
計はベッドに横になりながら天井を見つめた。
そしてしばらくして窓から外を眺めた。ノウゼンカズラの木が鬱蒼と生い茂っている。深い緑の色彩の葉が季節の移ろいと共に徐々にだけど確実にそのグラデーションを深めていく。そんな変化は計にとって森羅万象の一つでありそして計もまたその森羅万象の一部であったりする。
明日もまた良いでありますように・・・・
また唯と会えますように・・・・
計は知らぬ間に深い眠りの奥底に落ちて行った・・・・・・




