始まりのチャイム2
それから2015年の8月はひたすら簿記(財務会計計算)と管理会計の計算問題演習に明け暮れる日々だった。計は毎日10時間以上計算の勉強をした。さながらマシーンのようにひたすら解きまくった。貪るようにどこまでも時間を忘れて勉強に没頭する・・・・
そして本当に肉体的にも精神的にも負荷のかかる日々でもあった。毎日勉強を終えると軽い眩暈と吐き気を催した。つらい・・・苦しい・・・
8月17日日曜日の朝のことを今でも計ははっきり覚えている。
自分の部屋のデスクに走り書きのメモが置いてあった。
”負けるなよ!計!ファイトだ!!大丈夫。お前なら絶対できるよ。 ケセラより”
計はその走り書きを読んでケセラの優しさと励ましの言葉に思わず涙腺が決壊した。
「うう・・・・お兄ちゃん・・・」
よく見るとメモの隣にお守りとケセラの手作りのワッフルが置いてあった。お守りをよく見ると湯島天神のお守りだ。いつの間にこんなものを買ってくれたんだろう?
ワッフルを手に取った。一口ほおばった。
美味しい・・・・バターと卵の甘味とレーズンの酸味が混じり合い口の中に広がる。
机には昔の家族写真が飾ってある。計は兄に肩を抱かれくすぐったそうに笑っている。あの頃は父さんも母さんもまだ元気だった・・・・
父は10年前に認知症になり老人介護施設に入院している。母はちょうど4年前に失踪した。母がどこにいるかはまだ分からない。
そもそも母が今も生きているかどうかも分からない。
それ以来ケセラが計に対して親代わりで世話をしてくれた。実はケセラはミュージシャンだ。それもプロのロックギタリストだ。
計が寝静まる真夜中にケセラは自室に籠もり一晩中ギターの練習や作曲活動に打ち込んでいる。
計のファイター気質はケセラ譲りだ。決してそこまでメジャーなミュージシャンというわけではない。だけどケセラは知る人ぞ知る武骨で硬派なストリート気質のロックンローラーだ。
ケセラには10年以上交際している女性がいる。お相手の名前はベルーザ・アイリス。ウクライナ人の女性だ。昔ケセラのバンドBlack Eyes' Butterflyがプロモーションでウクライナ人のプロモーターと接点がありそのプロモーターの紹介でケセラが知り合ったのがベルーザだった。
ベルーザと出逢いケセラは一目で運命を感じた。
ベルーザにはケセラ自身がマネージャーへの直訴でバンドのプロモーター兼アシスタントマネージャーになってもらった。
もっともケセラがなかなかこれまでベルーザとの結婚に踏み切れないのは彼自身の複雑な家庭事情が関係しているのは容易に想像できるだろうが・・・・
特に計のことがケセラはずっと気がかりだった。計が就職して一人前になるまではベルーザとの入籍はもう少し我慢しようと決めている。
幸い、計は公認会計士という夢を見つけ、日々勉強に打ち込んでいる。計がもし公認会計士試験に合格して監査法人に就職なんてできたら・・・
その時こそケセラにとってベルーザとの結婚のしかるべきタイミングだと考えている。




