蒔田さんの家族
「どうだろう。うちのかえでと一緒になってみては」
一緒って・・・付き合ってすらいないんですけど?
蒔田さんは、ただのクラスメート。
「お父様、何考えてる。意味が分からない」
「話に聞いたところ、彼は魔法が使えるらしいじゃないか。かえでが、何かあったときのために守ってくれるんじゃないか?」
蒔田さん。
俺が異世界から帰ってきて、魔法を使えるって言ってしまったようだ。
言うなとは言ってないけど、家族に話すとは思わなかった。
異世界にいた頃、よく仲間から詰めが甘いって言われたんだよな。
「あの・・・突然言われても困ります。蒔田さんも迷惑でしょうし」
「かえでじゃ、不満かね?」
ええええ・・・困ったな。
なんて答えればいいのだろう。
「あなた」
俺が返答に困っていると、ふすまを開けて銀髪の妙齢の女性が入ってきた。
家の主人に微笑んでいるが、目の奥は笑っていない。
「先ほどから、少し聞いてましたが・・・一体何を仰っているのかしら?」
「わ、ワシはかえでの事を思ってだな・・・本人も悪くないと思っているようだし」
「本当にそうかしら?どちらにしても初対面の方にいう言葉ではありませんわね。
うちの主人が突然変なことを言ってごめんなさい。あまり、気にしないで下さいね?」
女性は、蒔田さんのお父さんの腕を取り、部屋の外に出て行ってしまった。
「・・・・・・」
「お父様は、お母様に頭が上がらない。お母様は吸血鬼で貴族。お父様は普通の日本人」
「そうなんだ。随分キレイなお母様だね」
女性は、蒔田さんのお母さんらしい。
ということは、蒔田さんは人間と吸血鬼のハーフってことなのだろうか。
「えっと、そろそろ帰るよ。お茶ごちそうさまでした」
挨拶もそこそこに済ませ、俺は蒔田さんの家を退出した。
「・・・疲れた」
何て言うか、精神的に疲れた。
時計を見ると18時を過ぎている。
早く家に帰らないとな。
「「ガラガラン」」
歩道を歩いていると、大きな音が響き渡った。
何の音だ?
そういえば、駅前で高層ビルの工事をしていたな。
数メートル先に、大勢の人が集まっている。
「「危険ですから離れてください」」
ヘルメットをかぶった工事現場の人が叫んでいる。
「通行人が巻き込まれたらしい・・・工事は中止だな」
「かわいそうに・・・」
周りの人々の話し声が聞こえる。
どうやら、鉄骨が落ちたらしい。
気を付けていても事故は起こるものなんだな。
良くて、骨折。
悪くて死んでいるだろう。
通りがかりの人は運が悪かったな。
「どうも巻き込まれたのは小学生くらいの女の子らしい」
「え?本当か?」
「私が直接見たわけじゃないが、そう聞いたよ」
俺は思わず、訊き返した。
まさかとは思うが・・・。
真奈美の姿が思い浮かぶ。
俺は人をかき分け、鉄骨が落ちた場所に向かった。
まだ、救急車は来ていないようだ。
工事現場の人がせわしなく動いている。
「すみません」
人を押しのけ、人が倒れている場所へ着いた。
「真奈美?」
薄暗いし、うつぶせになっていて顔が確認できない。
まったく反応がないので意識を失っているのだろう。
「あの、家族の方ですか?」
工事現場の男性に言われる。
「多分・・・妹かと思いまして」
片足が潰れていて、血の出血がひどい。
このままでは出血多量で死んでしまうだろう。
『回復魔法』
少女の体が魔法の光に包まれた。
幸いにも、魔法の光に気が付いている人はいないみたいだ。
「・・・ん」
少女が意識を取り戻したようだ。
「動かないでください。怪我をしてるのでこれから病院に運びます」
「怪我??痛っ!病院って?あたし一体・・・」
あれ?声が違う。
真奈美はもう少し高い声だったような。
ま、いっか。
足の怪我が治ったようだし。
救急車が到着した。
意識が戻ったので、念のため顔を確認する。
小柄な可愛らしい子だが、やはり真奈美ではなかった。
「お兄さんですか?一緒に救急車へ」
工事現場の男性に言われる。
「あ・・・違う人だったみたいです。すみませんでした」
俺の勘違いだったらしい。
小学生の女子って聞いて思い込んでしまった。
真奈美以外にも小学生なんて沢山いるものな。
俺は気まずくなり、現場からそそくさと立ち去った。




