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2:森へ

 授業中。先生が何か言っている。

 俺は机に顔をうずめて寝ている。

 先生たちも早々に俺について諦めたようで、授業中に寝ていても文句を言うこともない。

 そりゃそうだ。ここは超エリート校。できる生徒はよりできる生徒に。できない生徒は自業自得。

 日本の学校のように落ちこぼれに補修や生徒指導などを施すような場所じゃない。

 なんなら、軽く先生からも笑いものにされているくらいだ。


「えー!?」


 突然、生徒たちの驚きの声があがる。

 その声で目覚めた俺は、机に顔をうずめたまま先生の話を聞いていた。


「先生、頑張ったんだぞ! ウチのクラスにはどうしようもない落ちこぼれがいます。このままでは班行動のとき彼が入った班だけが、大きなハンデを背負うことになります。なので、彼を受け入れてくれた班には加点をお願いします。ってな!」


 俺のことだろう。


「なら、俺達が引き受けますよ」


 教室に声が響く。

 ヒューゴの声だ。

 ヒューゴ・オブライエン。子爵の息子。

 貴族ではあるが、王族や公爵の子どもも通う学校において、子爵の地位は低い。また両親の領地経営もうまくいってないらしく、経済規模でいえば、我が家のほうが上だと思うほどの貧乏貴族の息子だ。

 そのせいか、庶民として入学した俺に親近感を覚えてくれたようで、入学当時は仲良くさせてもらった。

 しかし、俺のバフが切れ、どんどん落ちぶれていく中、彼はどんどん頭角を表していった。

 彼のスキルは「魔法剣士」剣と魔法の両方を使えるスキルだが、器用貧乏になりやすいとされるスキルだった。

 まだ、仲が良かった頃、彼は俺にこう言っていた。

「知ってるか? 魔法剣士って勇者にもっとも変わりやすいスキルなんだぜ」

 スキルは一生変わらないというわけではない。鍛錬の先に変化することもある。とはいえ、早々起こることでもなく極々稀に起こるという程度のものだが。しかし、彼はめげなかった。極々稀を期待して日夜修練を重ねた。その努力はクラスメイトの胸を打ち、今では誰もが彼に一目置くようになっていた。

 そして、彼は、いい奴だった。

 落ちぶれていく俺に対して何度も手を伸ばしてくれた。

「俺たちまだ15歳だぜ? これからどうにでもなるって。まだ諦めるなよ!」

 何度もそう言って励ましてくれたが、この頃にはもう、俺の中には神様の声が呪いのように響いていた。

「お前は何も成し遂げておらん。来世では何の才能も期待できんな」


 彼の俺の見る顔は少しずつ悲しさが混ざるようになった。


「なんだよ。お前ここでまたいい成績取ろうってのか?」

 誰かが彼の行動を囃し立てる。


「いや、違うって」

 ヒューゴは否定する。おそらく本心なのだろう。彼はまだ俺に変わって欲しいと願っているのだ。

 でも、ごめん。ヒューゴ。俺は本当にダメなんだ。

 気持ちが重くなる。差し伸べられた手を掴むこともできず払いのけるしかない自分が惨めになる。

 でも、せめて迷惑にならないようには頑張るよ。

 

 重い足取りでヒューゴのもとに向かったところで先生が口を開いた。


「よし! 班も決まったな。では、これから班単位で討伐を開始する」

 そうか。今日は実践の日か。


 魔法が存在すれば当然魔物も存在する。

 そのため、この学校では1年生から魔物討伐の授業がある。

 とはいえ、学校近くの森に現れわれるのはスライムやスモールウルフなど普通の人間でも対峙できる程度の魔物だ。

 これらの魔物相手に取得したアビリティを試すというのが、もっとも大きな目的である。


 森に入る。班ごとに異なる場所から森に侵入するため、ここからは完全に班だけの活動となる。

 魔法剣士のヒューゴ。

 魔法使いのアリス。

 拳闘士のジャンゴ。

 僧侶のマリア。

 そして、成し遂げし者の俺。アレス。

 一人だけあからさまにスキルが浮いている。

 じつは、これも俺が落ちこぼれた一つの要因となっている。

 数多くのタレントが研究され、今では多くのタレントで覚えられるスキルとスキルから覚えられるアビリティが判明している。

 しかし、成し遂げし者は、誰も知らないタレントのため、覚えられるスキルもアビリティもわからないのだ。

 入学当初。まだ前世のバフが切れていないとき、物珍しさも相まって先生たちは、親身に俺にスキルを覚えさせようと頑張ってくれた。

 たとえば、剣士と魔法剣士はともに剣術というスキルを覚えられるように、タレントによっては同じスキルを覚えることもよくある話だ。

 そのため、魔法や各種武器術など色々と教えてくれたが、俺は何一つ覚えることができなかった。

 そして、3か月も経つ頃には、先生たちは励ましの言葉だけを残して俺の元から去っていった。


 ただ、じつは俺は1つだけスキルを持っている。

 あれは、まだ先生たちが俺に構ってくれていた頃の話。

 その日、俺は僧侶スキルを覚えられないかと教会に呼び出された。

「僧侶スキルの多くは神への祈りと慈悲の心によってもたらされます。なので、まずは、神像に向かって祈りなさい」

 俺は祈った。この頃、クラスメイトが少しずつスキルを覚えていった時期だったので、焦りを感じていて必死に祈った。


 そのとき、突然目の前が暗くなり、次には真っ白な空間が目に写った。

「久しぶりじゃの」

 神様だった。


「お主がここに居られる時間はわずかじゃ。手短に話すぞ。お主は今、1つだけスキルを持っている。78というスキルじゃ。このスキルがどんなアビリティを生み出すのかはわしにもわからん。じゃが、お主なら前世を思い返せば、きっとヒントが転がっておるじゃろ。精進をおこた……」


 また目の前が暗くなり、次の瞬間には、元の世界に戻っていた。

 今のはなんだったのだ。それにスキル「78」ってなんだ?


「どうしたの?」

 先生が話しかけてきた。

「いえ……あ、あの。お祈りをしていたら神様と話ができるなんてことあります?」

「そうですね。神話や物語の中ではありますけど……でも、そのような思いを持って祈りを捧げるのはとても良いことだと思いますよ」


 それから俺は、事あるごとに祈りを捧げてみたが、これ以降、神様と会話をすることは敵わなかった。


 森を歩きながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

 ヒューゴたちに遅れないように彼らの背中を見ながら移動する。

 すると前方から大きな悲鳴が上がった。

「キャーーーー!」

 魔法使いアリスの声だ。


 急ぎ駆け足で彼らのもとに到着する。

 そこには火ダルマになったスモールウルフが横たわっていた。

 遅れてきた俺を見たヒューゴが状況を説明してくれる。

「今、前方から火に包まれたスモールウルフが猛スピードでこっちに向かって来たんだ。幸い、俺たちのところに届く前に、力尽きたようだが……」

 目の前にはパチパチと音を立てて燃えているスモールウルフの姿があった。

「ま、魔法じゃ、火の魔法じゃ……」

 最近、あまり口を開いていないせいか、ついついどもってしまう。

「使ってないわよ!」

 アリスが、俺の言葉が言い終わらない内に否定した。


「密集隊形を取れ。全員背中合わせになって、全方位を監視!」 

 ヒューゴが素早く指示を出す。

 ただの森で魔物が発火する現象が起こるわけがない。他の班からもずいぶん離れている。

 つまり……異常事態だ。


 全員が背中合わせになりながら、ジリジリと森の中を進んでいく。

「あ!」

 拳闘士のジャンゴが声を上げた。

「どうした?」

「あそこの草むらが今、少し動いた」


 密集隊形を解き、全員が草むらに目を向けた。

 その瞬間。

 草むらから、物凄い勢いで火の玉が飛んできた!


 

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