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3:PONG!

「散開!」

 ヒューゴの声で全員が一斉に火の玉を避ける。


 剣術や魔法は使えないが、俺だってまだまだ平均的な15歳以上の身体能力はある。

 あくまでエリート校基準だと落ちこぼれているだけだ。だから、このヒューゴの声にも素早く反応できる。


 しかし、これによって、俺たちはバラバラになった。

 ヒューゴとジャンゴは2人固まっている。アリス、マリア、俺はバラけた位置。

 草むらから魔物が姿を表した。

 ゴブリンメイジ?

 魔法が使えるゴブリン種だ。こんな魔物がこの森に出るなんて聞いたことがない。

 ゴブリンメイジは誰を狙おうか迷っている。俺たちは魔物から目を離さずジリジリとその距離を詰めていく。

「きゃっ!」

 マリアが声をあげた。他のメンバーよりやや後方にいた俺は、ゴブリンを見ながらもマリアの動きが見えていた。

 緊張で足をすべらせて声を上げただけだ。

「だ……」

 ゴブリンメイジは呪文を発動した。

 手にした杖からは電気がほとばしっている。

 そして、杖をかざす。俺には向けていない。ヒューゴとジャンゴだ。

 2人に目を向ける。彼らは揃ってマリアを見ていた。

 ヤバい!


 魔法が飛んだ。

 バチッ!

 空気を裂く音が聞こえる。

 俺は、2人に声をかける。もう間に合わないのはわかっているが、それでも声を上げずにはいられない。

「ポン……」

 噛んだ。ヒューゴとジャンゴが混ざってしまい、おかしなことを言ってしまった。


「ブォーン」

 おかしな音が聞こえた。

 ヒューゴとジャンゴの前には白くて長細い四角い棒が表れた。

 そして、その棒は魔法を弾き返した……。


「ギャッ!」草むらから声が聞こえる。

 どうやら弾き返した魔法がメイジゴブリンに当たったらしい。

 ヒューゴとジャンゴは目の前で起こった光景を顧みず、すぐさまゴブリンの元へと駆け寄り、剣術と拳術を発動。見事に討伐に成功していた。

 一方、そんな判断力も身についてない俺は、目の前で起こったことに呆然としていた。


 なんだこれ?


 そう思ったのもつかの間。棒は消えてしまった。

 討伐を終えて戻ってきたジャンゴが聞く。

「なあ、何が起こったんだ?」

 一部始終を見ていた俺が答える。

「白い棒が、あ、表れて、魔法を跳ね返して……消えた」


「ああ。たしかにそうだったな」

 ヒューゴが賛同する。

「誰の魔法だ?」

 ジャンゴの質問に誰も答えない。


 魔法? たしかに魔法としか言いようがない。

「わ、私じゃないわよ」

 アリスが否定する。

「わたしも……ちがいます」

 マリアも否定する。


 そうなると自然とヒューゴとジャンゴの目線はこちらに向く。

「いや、俺もわからない」


「だよな。あんな魔法見たことないもんな」

 ジャンゴが言うとヒューゴは少し考えた後で口を開いた。


「戻ろう。今の現象はわからないが、ゴブリンメイジに襲われたのは事実だ。戻って先生に報告する」

 全員が賛同し、森を出ることにした。

 しかし、またいつ襲われるかわからない。俺たちは再び密集隊形を取り、全方位に注意を向けながら、ゆっくりと森の出口へと足を滑らせていった。


 4人は緊張感を持ち警戒体勢を取っている。だが、俺はどうしてもさっき見た光景が頭から離れずにいた。

 森の中に表れた白い四角い棒。森という曲線の中に突如として表れた直線の物体。土や木、葉など自然な色で作られた空間の中、気味が悪いほどに白かった。

 ただ、なんだろう? 見覚えがあるような気もしないでもない。

 既視感というのだろうか? あのあまりにも不自然な白い棒が、自分の記憶の中にあるような気がする。


 あの時の光景をもう一度思い浮かべてみる。

 ゴブリンメイジが魔法を放った。

 突然、ヒューゴとジャンゴの目の前に白い棒が表れて魔法を弾き返した。

 魔法が放たれたときに、もうダメだと思った。

 今、冷静に考えれば、2人の身体能力を考えれば、雷の魔法が当たったとしても死ぬことはなかっただろうが、あのときは、死ぬって思ってしまった。

 そうだ。それで思わず2人に声をかけたんだ。


 え?


 その瞬間、頭の中で何かが繋がった。

 俺、あのときなんて言った?

 そう。噛んじゃったんだ。

 噛んだせいで、続きの言葉を出せなかった。


 そうだ。だから「ポン」って。


 俺のアビリティ? じゃあ、スキルは? スキルの78って?

 あ!

 神様の話を思い出す。

「前世を思い返せばヒントがある」


 78……78年! 1978年!

 俺が初めてゲームセンターに行った日。

 そして、そこで遊んだゲーム!

 ポン! 

 アメリカ、アタリ社が作った世界で最初に商業的に成功したビデオゲーム。

 コントローラーは2つの回転式のパドルコントローラー。

 真っ白な棒状のパドルを上下に動かして、四角い球をパドルに当てて弾き返すゲーム。


 あれは、ポンのパドルだ!

 そして、俺のスキル78は、その年に遊んだゲームのことだ。

 遊んだゲームがそのままアビリティになるのか?


「後方!」

 マリアの大声が響く。

 どうやら、死体を見つけたゴブリンが俺たちを追って来ている。


「出口は近い! 逃げるぞ!」

 ヒューゴの声が飛ぶ。


「大丈夫。戦おう」

 俺は言った。


「戦おうってお前」

 ジャンゴが怪訝な顔で俺を見る。


 1978年。

 まだ小学校に入る前だ。

 ゲームセンターの他に、もう1つ思い出に残っている場所がある。

 喫茶店だ。

 父親が友人との待ち合わせに入った喫茶店。

 そこで、俺は、楽しく話す父を横目に、退屈そうにしていた。

 その姿を見た友人が、俺を呼び寄せて、こう言った。

「ほら、これやってみ? このレバーでこれを動かして、それでボタンを押して球を発射するんだ」


 未だ逃げようか戸惑っている4人だが、俺は構わず向かってくるゴブリンを待ち構えた。

 ゴブリンは3体。2体は石斧を持つ普通のゴブリン。もう一体は先ほどと同じく杖を持ったゴブリンメイジだ。

 3体は200メートルほど離れているが、猛スピードでこちらに向かってくる。

 

「スペースインベーダー!」

 日本のビデオゲームメーカー、タイトーによって作られた。大ヒットゲーム。

 迫りくるインベーダーを自機であるレーザー砲を操作し撃ち落としていくゲーム。

 社会現象と呼ばれるまでのブームとなり、当時、100円玉が不足したという伝説がある。


 唱えた瞬間、俺の目の前には、凸型のレーザー砲が現れる。さらに、その前方には凹のトーチカが4つも出現した。

「お、トーチカ付きまで出てくるのか。そりゃありがたい!」


 レーザー砲は思うがままに動く。ならば楽勝。

 俺はトーチカに隠れて、レーザー砲を動かし、3体のゴブリンに次々とレーザーを命中させた。


「よし! クリア!」


 一息つくと、レーザー砲とトーチカは「すぅ」と煙のように消えていった。

 魔法も集中力が大事と言っていたからな。おそらく、緊張感を持った集中力からリラックス状態に入ると魔法の効果は切れるのだろう。


 うん。うん。

 これは、これは、本当にスゴいものを手に入れてしまった。

 これまで感じたことのない興奮に思わず足が震えている。

 そして、多分、俺は今、恥ずかしいくらいのニヤケ顔をしているだろう。

 でも、これで、今まで俺を見捨てなかったヒューゴに対して……。

 

 振り返ると、4人は固まっていた。

 今、目の前で起こった現実が理解の許容量を超えたらしく、全員、呆然と立ち尽くし、口はあんぐりと開かれている。

 ジャンゴに至っては、軽くよだれが垂れている。


「あ、あの」

 俺が声をかけると、催眠術から目覚めたように、目に正気が戻った。


「あ、そ、えっと」

「おま、え? 今」

「なに? こ、え?」

「知らない、あ、え、う」


 すごい。全員が同時に話して、全員が同時にどもってる。


「パン!」

 ヒューゴが自分の頬を叩いて、俺に近づいてきた。


「おい! おい! アレス! おい! スゴいよお前! なんかわかんないけど、スゴい。スゴいし、なんかすげー嬉しいよ!」


 ヒューゴは俺の肩を掴み、激しく揺らしながら、抑えきれない感情をぶつけてきた。

 俺は、体全体を揺らされながら、泣いた。


「ありがとう。ありがとうな!」

 

 俺の顔を見てヒューゴも泣いている。

 もうそこからは、訳がわからなくなるくらい、2人でワンワンと無き続けてしまった。



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