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第113話 アイザックの報告

「素晴らしい……!」

「あれは何ですか……!?」


 一曲が終わったところで拍手喝采が起こる。食いつきが特に良かったのはエルフや、ヴァルカラン問わず、踊り子や楽師といった芸妓の心得がある面々だ。


「私達の世界では仮想空間――幻術を使った舞台演出が結構一般的なんですよ。良かったら、こっちの曲でも演出を組めると思いますがどうですか?」


 エステルがそう言うと、是非にと頷く楽師や踊り子達。元々幻想的だったからエステルの演出も加わったら更に面白いことになりそうだな。

 簡易的には曲調や動きに合わせたものから、要望に合わせたもっと凝ったものまで。色々できるということで時間がある時に打ち合わせをしたいと、踊り子と楽師達がエステルに色々と質問をして目を輝かせていた。


 そうだな。こうやって誰かと交流できるのもそうだが……エステルの力だって、戦いよりもこうやって誰かを楽しませたり、助けたり……そういった事に活用されているところを見る方が、俺としても嬉しい。


 簡易的ながら早速合わせてみようということで、どんな曲調かを聞いて実際に舞台演出を行い――エステルは楽師や踊り子と宴会を盛り上げる。


 エステルの演出の元で、アンナも「折角声を出せるようになったのだから、一曲どうかしら?」とソフィアに勧められ「では、ソーマ様とエステル様が取り戻してくれた声ですし」と応じた。


 そうしてアンナは檀上で楽しそうに歌声を響かせていた。アンナの歌声は技巧こそ普通のものであるが、素朴で澄んだ声という印象だ。感情を素直に乗せた歌い方からは人柄も伝わってくるような気がした。


「エルフの歌、教えるね……!」

「テレジアお姉ちゃんもお兄ちゃん達と一緒に歌おう……!」

「歌はよくわからないけど……ノーラが言うなら試してみる」

「楽器演奏もどうかしら?」


 アリアやノーラ、シルティナに誘われて、テレジアと俺達もそこに加わる。メアリやアンナ、エデルガルトやグラシエーラもお互いの国の歌を教えてくれるとのことで。


「この歌は、とある恋物語が元になっておりまして――」


 エデルガルトの場合は歌にまつわる簡単なエピソードも交えてくれたりして。酒を酌み交わし、料理を楽しみつつも歌と音楽の交流で俺達は夜遅くまで多いに盛り上がったのであった。




「アンナの魔道具についてもお聞きましたが……その後の展望も含めて素晴らしい魔道具ですな」


 明けて一日。地下区画に顔を出すと、ハーヴェイは少し興奮した様子で俺達に話を振って来た。

 色々聞きたい事はあったが、宴会の席だったから遠慮して歌と踊りを満喫させてもらったとのことだ。まあ……ハーヴェイもしっかり歌っていたもんな。骸骨顔という強面ながら親しみが持てると思われたのか、魔術師然とした風貌も相まって子供達の中には憧れや尊敬の眼差しを向ける者もいた。


で、そんなハーヴェイは明けてようやく魔道具について詳しい話を聞けると喜び勇んで尋ねてきたというわけだ。そんなハーヴェイの様子に苦笑しつつも、魔道具のコンセプトを伝えると、ハーヴェイは感心しつつも頷いていた。


「実験は継続中だけど、アンナの様子を見ている感じ、とりあえずの問題はなさそうだ。だから先行して術の内容をハーヴェイには預けておこうと思ってる」

「なるほど。解呪の魔道具が十分に広まったら魔道具生産にも余裕が出ますし、それまでには安全性も確認される……と」

「ああ。改善点があれば術の方を修正かな。数が出回って無ければいくらでも修正が効くし」

「分かりました。しかし、声だけでなく皮膚やそこに付随する感覚等も再現、ですか。実現すれば私としても無関係ではないので楽しみではありますな」


 ハーヴェイは自分の骸骨の顔を軽く撫でながら言う。そうだな。それらのサイバネティック技術が上手く魔道具で再現できれば、スケルトン系やゴースト系、ゾンビ系問わず恩恵を得られるものになるだろう。完全な解呪が現実のものとなるにしても、人生を取り戻して欲しいと思うのだ。


「失われた皮膚の再生と感覚の再現はサイバネティック技術にもありましたからね。それなりに容量は大きくなりますが、実現不能というわけではありません。後は素材をどうするかですが、生体反応がないと培養した皮膚は定着してくれないので、また別のアプローチが必要になりますね」

「皮膚を再現する素材か。どうするかな」


 生体反応がないから移植しても定着しない、はその通りだな。シリコン等の素材で再現するにしても、傷がついた時に皮膚のように再生はしないし……。サイバネティック手術の中でもメタリックな素材に皮膚感覚を再現できるようにしている奴もいたが、それは割と趣味的なカスタムというか、目指している方向が違う。


「素材ですか。魔法生物としての擬態型スライム等に組み込めれば或いは皮膚に求められるものを満たせるのかも知れませんが……」


 と、そんな風にハーヴェイは首を傾げながら言うが。


「それは……かなりいいんじゃないか? いや、感覚の再現だけなら案外素材は融通が利くんだ。金属でもできていたからな。その点スライムなら……擬態の精度や触感にもよるんだろうけど、傷がついても自然に塞がってくれるわけだし」

「……なるほど。いけそうですね。スライムに組み込む事自体に研究が必要そうですが、元々流体制御技術はありますし。スライム自体や擬態回りに制御が効くのなら近道かも知れません」


 下水処理にもスライムは使われているが、それとは別の種類のようだ。その性質から色々なところで便利に使われているようにも見えるな。

 後程擬態型スライムというのを後で見せてもらい、解析を進めていくということでハーヴェイとも話がつく。求められるのは外皮と皮膚感覚の再現、利用者の無意識的な動きに沿った自然な思考入力、というところだろうか。

 日常を取り戻すためのものなので一先ず戦闘能力はあまり考えなくてもいいだろうが。


 ハーヴェイとそんな話をしながら、管制室にてアイザックの状況をモニターさせてもらう。

 彼はベルルート男爵領を馬車で出発し、後方の都市部にまでやってきていた。ルヴァイン侯爵という大貴族の領地の――端の方になるな。


「これがルヴァイン侯爵領か……大きいな」

「ですが、ここは領都ではありませんね。ゴファール西部における要衝であり、軍の集積地にされている場所です」


 エデルガルトがアイザックから送られてくる映像を見ながら言った。

 ベルルート男爵領寄りではあるが、ルヴァイン侯爵領では西の端に位置する場所だ。領の中心部から外れるということではあるが、男爵領の直轄地よりも遥かに発展している。

 無骨な城壁と、都市中央に鎮座する城は要塞化されており、ヴァルカランや魔族の侵攻を見据えた軍事拠点だというのが窺えた。都市の周辺、外壁の各部。城塞に神殿。あちこちにアストラルナイトが配備されており、かなりの戦力が結集しているようだ。


 それもそのはずで、既に国王が入城しているらしく、元々防備が厚いところに更なる部隊がやってきて駐留している様はかなり物々しい印象だった。


「確か、ルヴァイン侯爵はヴィルム神殿とも繋がりが強いと聞きましたが」

「その通りです。領都にはヴィルム神殿の本山があります。ただ……私を襲撃した一件で身動きがとりにくくはなっていると思います。……国王のことですから、そのことを口実に神殿の者を良いように使っているかも知れませんが、いずれにせよ神聖魔法が使えなければ実働部隊の人員や戦力はかなり限られたものになってくるでしょう」


 エステルの問いに見解を交えながら解説してくれるエデルガルト。

 なるほど。事情通がいると状況を掴みやすくて助かる。エデルガルトは実際、ベルルート男爵領の調査に向かう前にそのルヴァイン侯爵領の領都にあるヴィルム神殿本山まで異変の調査に赴いていたらしい。


「ルヴァイン侯爵ってのはどういう人物なんだ?」

「西での有事に対応する要衝を任されているだけに、武人であるのは間違いありません。但し、ライゼス子爵のようにご自身が積極的に前に出るタイプというよりは――まずは物量と軍略で押し、自身が出てくるのは勝つべくして勝つ時というような……言うなれば将であり、軍略家でしょうか。ヴィルム神殿との関係が良いはずですが、信仰に厚い方ではありません。寧ろ信仰心を統治のために利用する……合理と実利を重んじる人物という印象です」


 合理主義的な軍略家か……、最終的にではあっても戦場に出てくるというのなら、当人も実際に戦場に立った時に十分戦える人物ではあるようだが……ヴィルム神殿本山の膝元を統治するだけに、勇猛さも見せられなければ示しがつかないというのはあるか。


 ならば、軍を展開するならベルルート男爵領まで侯爵本人が出てくる可能性はある。国王は後方……この城塞都市から状況を見て動く、動かないを決めるんだろうがな。


 アイザックを乗せた馬車は門番に話を通し――すぐに迎えがやってくる。騎士達の先導の元、アイザックは都市中央部にある大きな城へと向かった。


 国王面会の前に武器になるものは当然預けるから、受け取っていた召喚の腕輪や野外活動の折に使っていたナイフ等の類も騎士達に預けてボディチェックを受けていた。


『これは?』

『溶け落ちたルクスワールの……残骸です。こんなものしか回収できませんでした』


 アイザックが暗い表情をしてルクスワールの部品だと伝えると、溶断された破砕面を見て騎士は少し慄然とした表情を見せる。


『わかった。これに関しては少し改めさせてもらった後で我らから発令所に持っていく』

『よろしくお願いします』


 やがてボディチェックも終わり――アイザックが通されたのは応接室ではなく、もっと大きな会議室のような場所だった。


 騎士も言っていたが、臨時の発令所だな、これは。ゴファール王を始め、何人かの人物が大きな円卓を囲み、テーブルの上には地図が広げられている。


 その中の人物には――ゴファールの王城で見た側近であるとか、アイザックにレナードの使いとしてやってきた女性もいる。

 となると、その隣に座っている赤毛の人物あたりがレナードだろうか。


「あの赤毛の人物がレナードでしょう。伝え聞いた特徴と一致しています」


 エデルガルトが言う。なるほど。合っていたらしい。年の頃は二十代半ば。技師ということであるが、なるほど。知的で怜悧な印象のある落ち着いた佇まいをしている。レナード自身もアストラルナイトを駆り、各地で新方式への改修を行ったり実証実験と称して魔族を発見した場合は討伐を行っていた、というが、所作にも隙がなく、戦いも出来る人物であるというのは伺えた。


 実験機や新鋭機の実証実験を指揮する技術者、というと……俺の所属していた実験部隊アルマゲストを思い出してしまうがな。

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