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第100話 光と闇の精霊機

 アルタイルとルクスワールは草原で対峙する。凄まじい精霊の力を放射しているルクスワール。向こうも――こちらの出方を窺うように見ているが。こうやって出方を窺う形で時間を使えるならそれでいい。解析はこの瞬間にも進んでいるのだから。


 が、いつまでも膠着状態は続かない。先に動いたのはルクスワールからだった。その背後に、無数の光球が浮かぶ。同時に、射撃予測線が無数に警告を出す。攻撃の可能性が高い場所、低い場所との違いはあるが、ルクスワール――テレジアとの先程の戦闘を前提にして予測すれば、これだけの攻撃パターンが有り得ると演算は示している。


 が、機体を操るのは精神的な誘導、支配を受けたテレジアだ。瞬間的な判断は野生、天性のそれだが、射撃のような間接的な攻撃は、誘導や支配を受けているが故に合理性を以って行われる、と俺は予測を立てた。


「――来る」


 光る球体から光芒が奔る。薙ぎ払いと射撃による回避の隙間を潰すような完璧な偏差攻撃。プラズマトーチを伸ばし、スラスターを吹かして推進力に変えて正面から迫る薙ぎ払いにトーチを叩きつけて突破する。そこに待ち受けていたのがルクスワール本体だった。振り下ろされる光の刃に、こちらもプラズマトーチを合わせる。魔力の刃と干渉して凄まじい火花を散らす。


 浮いている。半分精霊であるテレジアの駆る機体故か。光の粒子を放ちながら空中を浮遊するルクスワールと空中でもつれ合うように飛翔し、剣戟を重ねる。


 双刀なのは生身の時と同様。だが、アルタイルのプラズマトーチもまた左右のマニピュレーターに搭載されている。手数はこちらも増えている。


 空中をもつれ合うように飛び回りながら斬撃を応酬。その間にもあちらこちらに光球が浮かび、そこから立体的な斬撃と射撃がこちらに向かって飛来する。


 縫うように飛翔。光弾を置き去りにして光の緒を引きながら並走してくるルクスワールと交差の瞬間に斬撃を繰り出し合う。


 やはり。本体の動きはテレジアの反射神経由来で必ずしも合理性や最適化されたものではないが、射撃面に関してはかなりシステマチックだ。操っている人間の心理や思考を誘導できていても、機体本体での攻防までは完全に統制下にはおけない。だから本人の経験や反射的な動きを利用して攻防を行わせているというところか。


 それでも、精霊の力を引き出しているのか、巻き起こる現象、規模は相当なものだ。一瞬にして空間ごと光の檻の中に閉じ込めるように四方八方から光芒が奔り、引き裂き、間を貫くように黒い槍が渦を巻いて飛来する。


 光の中に闇の槍が突っ込んでくるから、肉眼での視認はかなり難しい。光量と極端なコントラストによって自然に目くらましになるからだ。が、アルタイルのセンサーは紛れ込む闇の攻撃も確実に捕捉している。


「行け」


 黒い槍を斬り落とし、頭上から降って来たルクスワールの一撃をもう一刀で受け止める。スラスターの推力で押さえつけそのままレーザードローンを射出。ルクスワールの四方からその四肢に向かって攻撃を仕掛ける――が、背中の水晶柱が光の粒子をばら撒けばそれれでレーザーが屈光してしまう。


 低出力のレーザーでは本体の――精霊力のよる干渉力を突破できない。ならば使い方を変える。ドローンは放たれた光球や黒い槍を撃ち落とす役割に徹し、アルタイルでルクスワール本体を相手取る。レーザーと光の精霊術、闇の精霊術が飛び交い、ぶつかりあって弾ける空間を互いに飛翔する。飛翔して斬撃をぶつけ合い、絡み合って回転しながら地面に向かって急降下。慣性を無視するように推力だけで姿勢を立て直し、地面と平行に飛びながら斬撃に斬撃を重ね合う。追随するように互いの光弾が地面を、空間を、周囲を薙いでいく。


「テレジア――!」


 切り結びながら声を響かせる。精神的な制御をされていてもテレジアの反射神経や勘を戦いに利用しているというのならば、近接戦闘に意識を集中させればさせるほど声は届きやすくなるはずだ。だから、呼びかけることは無駄ではない。無駄にはしない。


「テレジア! あんな奴らに身体や考えまで好き勝手をさせる気か!? 自分の意識をしっかり持て!」


 光芒降り注ぐ空間で剣戟を繰り広げながらも呼びかけ続ける。凄まじい速度の剣舞の最中、こちらの呼びかけた声に一瞬。ほんの僅か剣閃に乱れが生じる。それは躊躇いか、反発か。どちらでもいい。俺の声は届いているというのは分かっているのだから。


「解析、終わりました! 少し形式は違いますが、アストラルナイトの精霊支配系の方式と基礎部分は共通しています! それを利用し、特定の条件を満たすと精神支配をする形です!」

「なら、解除も可能か!?」

「動きを止めて直接接触ができれば。当人の意志もこちらに対して有利になるでしょう」


 エステルからはテレジアの現状に対しての完璧な解答があった。精霊としての性質を利用した干渉。アストラルナイトの精霊支配はもう解析を終えている。応用系とはいえ対策は取れる。


「十分だ!」


 スラスターを吹かして突き進む。斬撃を重ね合わせながら、その名を呼ぶ。帰ってこい。戦いを強要する力に抗えと。

 エステルもまた解析が終わるや否や、すぐに次の一手へと動いていた。


「彼女に声を届けます。協力してください」

『ど、どこから……いや。僕は、何をすればいい?』


 コクピットに響くアイザックの声。スパイボットを介してアイザックに呼びかけ、テレジアの意識を呼び戻すのに協力させようというのだろう。


「簡単です。彼女が普段の自分を取り戻せるように、あなたの言葉で呼びかけて下さい。ゴファールの為にならないと考えるのなら、協力は求めませんが」


 エステルの問いに、アイザックはしかし首を横に振った。


『いや……協力させてくれ。こんな……こんなやり方は違う……! 作戦に連れて来ておいて今更って思うかも知れないが……僕だって、テレジアのような子を戦わせるのには疑問があったんだ……!』

「信じよう」

『ああ。感謝する……!』


 対するテレジアは――こちらに向かって攻撃を続けながらも声を繰り返していた。秘密の保持を。知る者を排除すると。機械的に繰り返すように。


『排、除……敵の、排除、を……』


 勘の鋭さや反射の鋭さは見えても太刀筋に感情の籠らない機械的な攻防。しかし、その声も揺らぎ、同時に斬撃の質が変化する。


「テレジアさん……! 私の声が聞こえていますか!? ステラです!」

『テレジア……! 頼む。聞いてくれ! 今はソーヤ達と戦う必要なんかないんだ!』


 アイザックもまた呼びかける。呼びかけながら斬撃を受け止め、アルタイルの補助ブースターを噴出させ、下方から迫る光を側転するように避ける。側転するアルタイルに追随。


「テレジア……戦いなんて、お前だって好きじゃないだろ? 俺だってそうだ。陽当たりの良い草の上で、何かを食べて、他愛のない話をして……許されるなら、そんな時間を過ごしていたい。それでも武器を手に取るなら、それは何か、取らなければならない理由があった時だ。お前だって、そうだろう?」

『排除、を……を、をあ……ああ……!』


 魔力が乱れたかと思うと、力任せに振り払うような一撃で押し込んでくる。片方の光の刃が、闇の刃に変化した。その斬撃を受け止めれば――プラズマトーチの出力が揺らぐ。これは――。

 続けざまに繰り出される光の刃をもう一刀のプラズマトーチで受け止め、互いに弾かれるように間合いが離れる。


『ああ、あああぁあ……!』


 間合いが離れた瞬間、テレジアが咆哮しながらルクスワールの両掌を眼前に翳した。出現した闇の刃が消失し、ぞくり、という勘に従い、全力でスラスターを吹かす。次の刹那。光の本流が放たれていた。アルタイルが寸前までいた空間を飲み込んでいく。


 位相を揃えて光を放つ、それは大口径レーザーさながらの熱量だ。空を閃光が突き抜け、次の瞬間にはルクスワールは光の粒子を放ちながら飛翔し、こちらに向けて斬撃を叩きつけてきた。その動きに余裕はない。追い詰められた者がしているかのような動きだった。


『た、戦わ、ないと。戦って。だから。だから。だから排除、を』


 響く声。口にするその内容が、先程までとは少し違う。

 制御は依然として受けている。けれど、呼びかけの効果が出ているのも間違いないようだ。

 それでもテレジアは戦いの手は止めない。光芒を、炸裂する闇をばら撒き、光の双剣を振るう。テレジアの言動は混乱したままだが、一撃一撃の威力が大きい。流れ弾が地面を焼き焦がし、えぐり取る破壊力。特に、闇の力の方。力の増大と共に性質が変化している。あれは危険な力だと直感が警鐘を鳴らしていた。プラズマトーチの出力が乱れたこともだが、炸裂弾は直撃していない至近弾でも防御フィールドをかき乱してくる。


「あの闇魔力の炸裂弾――気を付けて下さい。負の力場と言えばいいのでしょうか」


 エステルが現象から何が起こっているのかを解説してくれる。ルクスワールが放っている暗黒弾は、要するに触れたものからエネルギーを奪う力らしい。

 闇――負の空間内に捉われたものを膨張、拡散させようとする力場と言えばいいのか。当たるとどうなるかを端的に言うなら、対象は空間内に拡散して膨れ上がる圧力がかかり、爆散する。その結果が炸裂弾のように見えているだけだ。


 アルタイルは防御用のエネルギーフィールドを纏っているから、干渉力で勝らなければ有効打にはならないが、こと攻撃力という面ではレーザーよりも厄介だ。直撃を受ければエネルギーを拡散させられフィールドもかなり減衰するだろうとエステルとアルタイルのシミュレーション結果が警告を発している。


「しかも光か闇、どちらかの力を引き出した時に、同量の反属性を生み出しているようです。正負のエネルギーの総量を揃えている、と言えばいいのでしょうか。双属性が互いの力を高めている」

「なるほどな……」


 変則的な形ではあるが、自然や調和を重んじる精霊の力らしいと言えばそうだろう。これだけの力を放出しても戦闘を継続できるだけの効率性があるらしい。

 しかも放たれる弾幕や斬撃に光や闇で作られた幻影が混ざっている。攻撃手段が光や闇の魔力であるだけに、視覚的な部分で本物かどうかを見分けるのは不可能だ。


 アルタイルの分析能力を動員し、魔力の多寡で本物かそうでないかを見分ける。対抗するようにエステルがミラージュイメージやオブジェクトストーム――幻影系のハッキングを放ち、標的をアルタイル以外に分散させる。あらぬ方向に光芒と闇とが飛び散る中で、空を縺れ合うように飛翔して切り結ぶ。


 目まぐるしく入れ替わる空と大地。その中に。戦いとは関係のない幻影が混ざった。子供。子供の姿。粗末な衣服をまとった子供達の中に、今よりも幼い、テレジアらしき姿がある。……何だ、あれは?

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