【清掃日誌56】 決闘
改善の兆しがあるとは言え、慢性的な食糧不足は留まるところを知らない。
ソドムタウン市内ではかなり供給が戻って来ているとの情報は入っている。
だが、長城の外側にある地方州にはまだその恩恵は波及していない。
地方はいつだって後回しにされるのだ。
知識では知っていたが、人生初の地方生活を始めてようやく実態を実感出来るようになって来た。
俺は、やはり何も知らなかったのだ。
『そう言えば、俺達も獣肉と野草しか食べていないな。』
「地方には穀物が出回っていないでゴザルからな。」
『地元の人間はあまり狩猟はしないのかな?』
「この辺の主産業は農業であり畜産業です。
似ている様でも、狩猟・採集とは全く別物の仕事でゴザル。」
ジミーが言うには、エミリー&レニーという殺生に特化した2人が獣肉を狩り続けている事が大きいらしい。
あまりに彼女達がハイペースなので感覚が麻痺していたが、本来ヒグマは洒落にならないレベルの猛獣。
普通の人は、これを狩るのはほぼ不可能らしい。
それだけでなく、あの2人は狼や大蛇もレジャー感覚で大量殺戮している。
なので結果として、彼女達だけが猟果を独占する結果になっている。
2人は黙っているが、相当荒稼ぎしているらしい。
これに腕利きのニックと乾燥職人のドラン翁、そして最新式の野営用設備を保有しているジミーが加わる事により、俺達は食糧に困らずに済んでいる。
だが、周囲の一般住民は必要最小限の害獣駆除以上をした経験もなければ、食品乾燥のプロでもなく、ジミーの様に高性能な軍用機材を私有している訳でもない。
(何よりも、俺達はいざとなれば長城の内側に逃げ込めるのだ。)
なので、帝国から召喚されたモンスターに生活圏が荒らされた今。
農家や畜産家すらも食糧不足に苦しんでいる。
そもそも、獣肉が苦手な人間は多い。
俺も本来はそこまで食べられない。
なので。
毎日獣肉ばかりを食べて平然としている俺達は、周囲から見ればやはり少しおかしいらしいのだ。
『なあ、ひょっとして皆…
俺に合わせてくれてるのか?』
「兄貴、今更何を…」
『え、そうなの?
やっぱりニックも俺に合わせて、こんなアウトドア生活してるの?』
「まあ、他に理由はないかな。
あ、勘違いするなよ。
俺はガキの頃から郊外でダンジョンに潜ったり砂金を取ったりして、アウトドアには慣れている方だから。
別に今の生活にそこまでの苦痛は無い。
ただ、クレアさんだったか…
あの人、いいトコのお嬢様だろ?
よくこんな暮らし出来るな。」
『あの子は子供の頃から変わってるから。
身体を鍛えたり、奇食で度胸試しをしたり…
まあ、その所為で行き遅れてるんだろうけどさ。』
「我も強そうだしな…」
クレア、子供の頃からやたら気合入ってたからな。
5歳の時点で、既に風格があった。
まあ、長期野営を出来る人材って中々いないよな。
プロの軍人ですら、心身に変調を来たす程なのだから。
ましてや、女子でテント狩猟生活を続けれる者は真の逸材だと思う。
「ポールソン。
テントを少し移動した方がいいかも知れない。」
帰還したドラン翁が深刻なトーンでそう切り出す。
『何か問題発生ですか?』
「一昨日、ここらの牧場で喧嘩騒ぎがあっただろう?」
『ああ、警備隊が出動してましたね。
牧童同士の喧嘩でしょ?』
「その警備隊がこっそり教えてくれたんだがな。
実際は喧嘩なんて生易しいものじゃなくて、互いに抜刀して斬り合っていたらしい。
死者も4人出ている。」
この辺がドラン翁のコミュ力の賜物なのだが、近隣の農家や警備隊屯所に干し肉を配って、既に友好関係を築いている。
俺が学び実践しなくてはならない彼の教えの一つである。
『ええ!?
大事件じゃないですか。』
「この食糧難で家畜泥棒も流行してるからな。
どこの牧場も対策としてカウボーイを増員している。
実質は流れのチンピラだがな。
で、カウボーイの維持費を賄うために互いの家畜を盗み合っている状態だな。」
『ガラの悪い連中が増えているとは思いましたが…
そこまで酷い事になっているとは。』
「以前からこの周辺に武闘派の冒険者が集中し始めていたんだ。
ほらヒグマやヒッポーが大量発生しただろう?
それで腕に覚えのある幾つかの冒険者パーティーが様子を探っていた。
加えて《アーランド農園強盗事件》があっただろ?
あれで対人戦を専門とするような賞金稼ぎやヤクザ者が大量にこの地方に流れてきた。
カネを稼げると思ったんだろう。」
『…あ!』
「そうなんだ。
両方の事件をオマエが早期に収拾しちまった。
結果、流れ者たちの見込みが外れちまった。」
『…。』
「そんな顔をするな。
別にオマエを責めてる訳じゃない。
むしろ事態を収拾した手腕を高く評価しているくらいだ。
たまたまヤクザ者が割を食っただけで
殆どのカタギ連中はオマエに感謝している。」
『…そうですか。』
現実は絵物語の様には進まないな。
何処かで問題を解決しようとすれば、他の何処かで弊害が発生する。
「話を続けるぞ。
それで武器や兵力を持て余した腕自慢達が、各牧場に自分達を売り込み始めたんだ。
名目はカウボーイだが、実態は隣接牧場への侵略要員だな。
ここからはオフレコだが、既に幾つかの牧場主一家が殺害されているらしい。
ヤクザに乗っ取られた牧場もあるらしい。
治安局も捜査に着手した。」
『テント…
移動させた方が良さそうですね。』
「ああ、ここは街道沿いだからな。
騒動が大きくなった時に、抗争に巻き込まれる可能性がある。」
案の定、エミリー&レニーがこの騒ぎに便乗する気満々だったので、関与を禁止する。
「日当20万ウェンっスよ?
話くらいは聞きに行ってもいいでしょ?」
『考えてみろ。
それ1日20万サブスクで際限なく殺し合いをさせられるってことだぞ?』
「あ! 言われてみれば!」
『仮に10人を殺したとすれば、1人2万で殺し屋稼業を請けた計算になる。』
「ゆ、許せねーっス!!
普通は1人殺すのに30万ウェンが相場!
ヤクザや冒険者が相手なら200万+負傷補償が相場ッス!!」
何でそんな相場知ってるんだよ…
『それにこの騒動は泥棒対泥棒の構図だ。
それに恐らくは治安局も鎮圧部隊を編成している最中だろう。
俺達は関わるべきではない。
この騒動を回避するぞ。』
俺達は全てのテントを閉じ荷物を回収。
警備隊に申告した上で帝国との国境中立地帯に移動し、やや見晴らしの良い小丘に布陣した。
逆茂木は自由都市側のみに立てる。
続いて帝国側の国境警備隊に中立地帯にキャンプを張ることを申告する。
国内で発生している騒動についても可能な範囲で報告した。
厳密にはこの行為は情報漏洩罪(最高刑は斬罪)に該当する。
もしも俺が逮捕されメンバーに連座が適用された場合、黙って死んでくれるようにも一応頼んでおいた。
「ハア? アタシは山に逃げるッス。」
「じゃあ私もー♪」
「モロー銀行の山岳支店を開く事にするわ。」
男女で見事に反応が真逆になったのは、予想通りなので特に言う事もない。
加えて。
余らせていた干し肉やワインを帝国側に贈与する。
併せて、先日レニーがこの近辺では非常に珍しい白豹を狩ったので、その毛皮をトハチェフスキー家への献上品とした。
「アタシにメリットあるんスかね?」
『献上目録に《狩人 我が最愛の女性レニー》って書いておいた。』
「最愛なんスか!?
全然実感ないんスけど!」
『前から言ってるだろ。
俺が一番好きなのがレニーだって。
な、何だよその猜疑に満ち溢れた目は。』
「女の勘って奴っス。
今、ピーンと来ましたよ。
これ、絶対オチがあるパティーンッスね?
あ、わかった!
アタシよりヒロイン度が高いヒロインが脈絡なく登場して
全てをかっさらっていくフラグッスね?
その手には乗りませんから!
もうアンタには騙されませんから!
もう騙されないッスよーーーーー。」
おもしれー女。
安心しろ、オマエに面白指数で勝てる女なんて存在しないから。
『穿った見方をされてもなあ。
額面通りに受け取って貰えると助かるんだが。』
そこでニックが会話に入って来る。
「兄貴…
口を挟んで済まない。
ウチの姉さんも気に掛けて貰えないだろうか。
子持ちの火傷女だからな、…流石に1番に愛せとは言わない。
でも、心の片隅に留めてやって欲しいんだ。」
『ニック。
ナナリーさんは俺にとって一番優先して護るべき存在だ。
死力を尽くして彼女を護ると決めている。
勿論、キキちゃんもだ。
彼女を無事に成長させ、良縁に導かなければならないと自覚している。』
「…そこまで兄貴が考えてくれていたなんて。」
『出逢って日は浅いが。
俺はオマエを兄弟だと思っている。
兄弟の頼みは出来得る限り聞き入れてやりたい。』
「兄貴!」
『ニック!』
「あーーー、ストップ。
はい、そこちょっと待ってー。
はいはいはい、ちょっと待って下さいねー。
ねえ。
今、アタシのターンっスよね?
なのに!
いつの間にか話がすり替わっとる!
なーんで男同士で号泣しながら抱き合ってるんスかね!」
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裏でブツブツ言ってる女共を放置してテントを整備し、視界を塞ぐ草木をなぎ倒してしまう。
流石にここまで牧場騒動が波及するとは思わないが…
それでもテントを移動する際も、武装したゴロツキのグループを何組か見掛けた。
ドラン翁の見立てでは、明日にも大規模な闘争が発生するとのこと。
帝国軍のレンジャー兵が肉の返礼にエールを持って来てくれたので、その見立ても報告しておく。
「今、情勢が情勢ですからね。
その騒動がこちらに波及しないようにして欲しいんです。
特に、ならず者連中は困るんです。
こちらの世論を刺激しちゃいますから。
ポールソン卿の様に積極的に話を通してくれる方でしたら
寧ろ大歓迎なのですが…
わかりますよね?」
『それは、万が一チンピラ連中が越境亡命しようとしたら…』
「自分の口からはこれ以上言えませんが…
今の時期、変な連中に入国されたら本当に困るんです。
自由都市さんの良識に任せたいというのが現場の本音でして…
こちらとしてはポールソン卿の善意にお縋りするしかないと言いますか…」
直訳すれば《殺せ》、ということだ。
当たり前だろう。
当主交代でゴタゴタしている時期に隣国のチンピラが逃げ込んで来られると、どんなネガティブな化学変化が生じるか分かったものではない。
直接手を下すか否かの回答は保留するも、越境を試みたヤクザ者を発見した場合は可能な限り拘束して本国へ送還する事を約束する。
ただ現実問題として相手にこちらの顔を覚えられる+追捕が公式記録に残る事にデメリットしかないので、メンバーで話し合った末に接敵次第殺害と決めた。
一瞬我に返り、人を殺すことへの抵抗感が薄れている自分に戦慄するが、その感情を強引に噛み殺す。
帝国の国境警備隊長にも話を通し、万が一こちらで自主処分をした場合も話を大きくしない様に口裏を合わせて貰う約束をした。
別にその事とは何の関係もないが、寄付金として部隊に対し100万ウェンだけ包む。
『レニー、死体が出た場合…
完全に痕跡を消しての処分は出来るのか?』
「…ポールさんがアタシに話しかけて来るのってこういう時だけッスね。」
『あ、ゴメン。』
「アタシなら痕跡消せますよ。
疑うならアンタで実演してやっても構わないッスけど?」
『機嫌直してくれよ。』
「…古来より女の機嫌を直す方法は1つだけッス。」
『おお!』
「ヒントは《キ》から始める魔法ッスね。」
そう言ってレニーは目を閉じる。
…キ?
《キ》が頭文字の魔法?
この女の顔を見つめながら頭を高速回転させる。
《キチガイ》なんて名前の魔法あったかな?
…こんな事なら大学で魔法も受講しておけば良かった。
参ったな、《ア》イテムボックスと《ク》リーンアップしか手持ちがない。
騎士の頭文字は《キ》だが…
正式に叙任されていない俺が騎士を吹聴するのは国際問題に発展しかねないだろう。
うーーーーむ。
「オイイイイイイイイイイイイイ!!!
初級問題でつまずくなーーーーーー!!!!
わざとか!? わざとか!?」
『?』
よくわからないが、死体の隠蔽には協力して貰える事になった。
後は、そんな約束が実行される事態が到来しない事を祈るのみである。
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帝国側も俺達にかなり気を遣っているようで、レンジャー部隊を出して周辺の魔物を掃討してくれた。
流石はプロと言うべきか、見せて貰った魔物の死骸はどれも一太刀で首を刎ねられていた。
当然、俺達も気を遣うべきであり必要以上に動かず、彼らに手間を掛けさせない事に注力する。
帝国の行商人を自称する者が挨拶に来たので、エールで歓待し手持ちの商品を必要以上に買ってやる。
話の聞き出し方が稚拙だったので、恐らくは本職の間諜では無かったのだろうが、可能な範囲で情報は提供しておいた。
トハチェフスキー領は喉から手が出る程に外貨を欲しがっていたので、その相談にも乗る。
個人的には帝国の乳製品はパッケージングさえ整えれば十分に我が国の富裕層向けには売れるとは思う。
『一度、帝室に献上して実績を作った後なら高値で売れると思います。
やはり献上食品は人気がありますので。』
「しかし、ソドムタウンでは反帝国の世論が強いと聞きました。
帝室を絡めてしまうと反発が起こるのでは?」
『いや。
ブランド商品に限っては、封建的権威が愛されますね。
《王国や首長国のロイヤルファミリーが愛用》
と聞いただけで中身も見ずに喜んで購買する層も一定数おりますので。
アレクセイ陛下の愛用商品などがあれば売り込みやすいと思いますよ。』
「あ、いえ。
皇帝陛下は非常に質素な方でして…
常に兵士と同じ食事をとり、兵士と同じ陣幕で起居されておられます。」
…そりゃあ、誰も勝てないよな。
『…なるほど。
陛下がそういう御方なら
自国商品の販売の為に御用商品を設定する案にはむしろ賛同して下さるでしょう。』
彼との話はそれで終わりである。
これ以上踏み込むのはエチケット違反だ。
今の俺に課せられたミッションは中立地帯でおとなしく騒動をやり過ごし
越境を試みる犯罪者が居れば処分or通報するだけの話である。
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夜。
俺達に対して好意的な冒険者がやって来て、収集した情報を伝えてくれる。
【要約】
各所で散発的に発生したカウボーイ騒動は現在。
古参ヤクザのルイス一家と、新興ギャング集団のホリデイ組の抗争に集約されつつある。
(このどちらかにケツ持ちを頼まなければ盗難家畜を販路に乗せられない)
両派は先日まで表面上は良好な関係を築いていたが、ルイス一家の末子・エドがホリデイ組の用心棒ザナック兄弟に射殺されたことにより全面抗争に突入。
両派は本拠に子分を集めて、攻撃タイミングを探っている。
「あー、典型的なヤクザあるあるだな。」
話を聞いていたドラン翁が呟く。
『そうなんですか?』
「オマエの親父から聞いてないか?」
『あ、いえ。
父さんは俺にそういう話題をしないので。』
「感謝しとけ。
それだけ愛されてるってことだ。」
『…。』
「中立地帯に移動する決断。
かなり良かったぞ。
帝国に対する配慮も完璧だった。
オマエ、外交官とか向いてるかもな。」
『柄じゃないですよ。』
「それを判断するのは社会だよ。
後は、いざ断れなくなった時に職務に誠実に向き合えるか否かだ。
ポールソン。
オマエは使命と向き合える男だ。
もう韜晦はするな。
目の前の問題を一つ一つ誠実に解決して行こう。
今、既にそうしているように。」
その訓戒が響き終わるよりも早く、《目の前の問題》が発生する。
カウボーイらしき騎影が30騎ほど遠方に確認されたのである。
瞬間、全ての灯火を落とす。
相手が軍人であれば完全に座標把握されている場面だが、素人なら目視したこちらのテントを見失ってくれる可能性も高い。
同時にジミーが疾駆し帝国国境警備隊に通報。
これで最悪の外交事故は防げる。
20分後。
警備隊の副隊長がジミーと共にこちらに到着。
俺達パーティーに対する武装者臨時入国証(期限90日)を支給してくれた。
ありがたい心遣いである。
これで一つ安全の為の選択肢が増えた。
(追走された場合でも、武装状態のまま合法的に帝国に逃げ込める)
副隊長がテントから出たタイミングでクレア・モローが隠し持っていた武装を着用開始。
お嬢様のファッション武装などではなく、かなりガチ目の軽鎧である。
ドラン翁が何も言わないので、俺もこれに関しては指摘しない。
皆は難色を示したが、アイテムボックスの左下のみの封印を解除する。
鎖を解いた瞬間、数滴の血が流れたがマムシ酒を刷り込んで気休めとする。
ホーンラビットの巣があれば上出来だったのだが、見当たらなかったので通りがかった2匹だけを収容。
胸部に微痛を覚えたので、皆の目を盗んで吐血した。
息を殺して戦闘態勢を維持する俺達とは対照的に、流れ込んで来たカウボーイ達は煌々と焚火を燃やし始める。
モンスターへの警戒?
敵対派閥への威嚇?
そこまで考えてない?
恐らくは最後のそれが正答なのだろうが、油断をする気はない。
あの頭数なら一服後に斥候を飛ばす筈であるし、こちらが豪華なテントや馬を(しかも女連れだ)保有している以上、発見=襲撃は覚悟しておかなければならない。
深夜1時。
カウボーイ達が斥候を飛ばす気配は無い。
それどころか歩哨も立てないようだ。
恐らくは軍隊経験のある者が居ないのだろう。
リーダーが明確化されていない横並び組織と見た。
「兄貴。
選択肢は2つだ。
夜襲を掛けるか、そのタイミングを逃すか。」
「だな。
空が明ければ、嫌でもこちらを捕捉される。
30騎相手に籠城は極めて困難だし、仲間を呼ばれる可能性もある。
ポールソン、やるしかないぞ。」
極力避けたがったが…
皆で手短に保有スキルと戦闘経験を簡潔に申告し合う。
対人戦の経験が殆ど無いのは俺とジミー位のもので、他の連中(クレア含む)はそれなりに殺人経験を積み、極めて殺傷能力の高いスキルを複数保有していた。
前衛 ニック・レニー・エミリー
中衛 俺
後衛 ジミー・クレア
遊撃 ドラン
俺以外の全員が馬上戦闘に徹する事を取り決める。
初弾は俺が担当。
下馬状態で狙撃し中央の大柄な男(雰囲気から見て手練れ)の射殺のみを狙う。
2射の後、結果に関わらず後退し後衛と合流する。
初弾を確認後、エミリーが繋いである敵馬に弛緩ガス弾(さっき俺が即興で作った)を投擲。
カウボーイ達の組んだテントへの放火はドラン翁が担当する。
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こちらが不安になる程に、カウボーイ達は無警戒である。
殆ど全員が酒を飲んで談笑していた。
何故、彼らが平然と境界を跨げるのか。
俺にはその神経が理解出来ない。
国家であれ牧場であれ、越境者はただ敵としか見做されず
その末路は死しかないのに。
エミリーが手鏡で合図。
全員が配置についた。
『左下アイテムボックス解放。』
中央で大笑している巨漢。
武装こそ物々しいが、表情は非常にあどけない。
顎髭を伸ばしているが、それでも笑い方がひどく幼い。
20代前半、下手をすると10代なのかも知れない。
『圧縮ホーンラビット射出』
初弾で決まった。
頭部を吹き飛ばされた巨漢がゆっくりと崩れ落ちる。
カウボーイ達が一瞬硬直してから悲鳴を挙げた。
やはり素人なのだろう。
夜間に狙撃されたというのに、焚火を消そうとする者がいない。
灯火管制の概念などは、清掃業者の俺でも初日に叩き込まれる初歩中の初歩である。
加えて。
彼らは狙撃方位と距離も掴めていないらしく、ただ喚き散らしている。
必死に狙撃点からの離脱を試みている俺自身がアホらしくなる程であった。
逆に、エミリーは手練れだった。
いつの間にか馬がのたうち回っている。
後から場を離れたにも関わらず、俺よりも先に集合ポイントに到達していた。
俺とエミリーが完全に射線から退避した事を確認すると同時に、残りの全員で射撃開始。
逆撃に備えたシフトに移行するまでもなく、カウボーイの大半が顔面を撃ち抜かれて絶命していた。
1人だけ馬に走った者がいたが死角から猛追したニックが背中を槍で突いて殺した。
カウボーイ達は殆どが焚火の側から動けずに死んでいた。
別に彼らを愚かと笑う気はない。
俺だって奇襲を受けたら何も出来ずに死ぬことだろう。
「トドメェッーーーー!!!!」
ドラン翁の号令と同時に皆で抜刀して駆け寄り、呻いている者もそうでない者も含めて、全員の首を落とした。
敵陣を確保した俺達は、まず焚火を消した。
続いて死体とテントを探り相手の身元を調べる。
…西部地方州の冒険者が多い。
出稼ぎだろうか?
考える暇はない。
打ち合わせ通り、ジミーを帝国側に伝令派遣。
(当然、帝国兵はどこかからこの様子を監視している。)
その間、死体の隠蔽工作を開始する。
危ない橋を渡っている自覚はある。
隠蔽に失敗すれば更に危なくなることも当然理解している。
やはり俺は臆病者なのだろう。
死体を●〇▼して〇◇×◎する手法で処理している最中に気分が悪くなり手の震えが止まらなくなる。
ドラン翁が無言ながらも優しく俺の肩をさすってくれる。
「ポールソンの読み通りね。
全部盗品だわ。
このネックレス…
持ち主はヴァージニア牧場…
確か牧場主一家が殺害されたって言ってなかった?」
『間違いない。
一家5名が死体で発見され、勤務していたカウボーイ達は行方不明。』
「じゃあ、ここからは政治ね。
女の私は口を挟まない。
外交に使うか内政に使うかは、男の人が決める事だわ。」
…口挟んでるだろ。
その言い方されると、外交活用せざるを得ないじゃないか。
死体の隠蔽は完全完了。
模倣犯の発生が怖い為、ここには詳細を記述しないが
彼らの死体は痕跡すらも消滅した。
レニーとエミリーがクチャクチャと干し肉を齧っているのを見て、器の違いを思い知らされる。
多分俺、戦士としての適性が乏しいわ。
思ったより早く帝国兵が到着。
どう考えても間合いの外側から事態を監視してたしか思えないタイミングである。
まず俺は中立地帯での戦闘行為を謝罪。
その後、求められるままに戦闘の経緯や敵と判断した論拠を述べる。
本来は供述調書を取られる場面だが、帝国側は(この場では)書面に残さないポーズをとってくれている。
次いで押収した盗品を検分して貰う。
そして提案。
『これ、パトロール中に皆様が発見した事にして頂けませんか?
それを我が国の国境警備隊に届けて下されば…
皇帝陛下が望んでおられる、外交感情のポジティブ化に寄与するのではないでしょうか?
幸い、懇意にしている出版社が何社かあります。
届けて下さるなら美談として報道するように手を回します。』
「ポールソン卿の提案は大変魅力的なのですが…
御自身で自国の当局に届けられた方が好ましいのではないですか?
その提案では、あまりに貴卿にメリットがありません。」
『貴国との友好関係は我が国にとっての国益であると認識しております。』
「…自分も想いは同じであります。」
話はついた。
《パトロール中の帝国国境警備隊が自由都市内の盗賊が持ち出したとみられる盗品群を発見。
自由都市の国境警備隊に提出し、友好的なムードで去って行く。》
このシナリオで進める。
警備隊長とも打ち合わせをし、仲介の労を取る代わりにこちらも諸々の口裏も合わせて貰うことにする。
明け方になり次第、計画を実行に移す算段となった。
だが、怒号と共に予定が狂う。
大量のカウボーイ達が中立地帯に雪崩れ込んできたのだ。
『な、なんだ!?』
「兄貴! カウボーイ同士の追撃戦だ!!
こっちに進路を取っているぞ!!」
「ポールさん!
残弾が殆どありません!」
『帝国の方は一旦退避を!
盗品は帝国領に移して下さい。』
「ポールソン卿も我が国へ!」
…一瞬迷う。
ドナルドからは帝国への入国を禁止されているからだ。
(俺がテント生活を余儀なくされているかの原因を鑑みれば当然である)
『女は一旦帝国に!』
「却下!」
「却下!」
「却下ッス!」
予想通りの答えに、思わず笑ってしまう。
不謹慎だが仕方ない。
俺は面白い女が大好きなのだ。
結局、テントには戻らない決断をする。
昼間のレンジャー隊員が無言で矢筒をくれたので、ありがたく頂戴する。
矢には癖がある。
例え無銘の矢でも、見る人が見れば生産国くらいは簡単に予想がつくのだ。
そう言う意味ではレンジャー氏もかなり危ない橋を渡っている。
矢は射撃名人のレニーと夜目が利くエミリーに半分ずつ渡す。
戦闘は極力避けて、間近を通った最小限だけを殺す事に決める。
テントは翌朝に回収する。
その後、帝国のパトロールに合流し我が国の国境警備隊まで同道するという雑な計画を立てる。
幸い。
カウボーイの大半は何故か帝国の国境に向けて直進していく。
先頭集団が帝国側の哨戒塔を目標に疾走している為、必然追撃側も引き摺られていく。
『あんなもん、殺して下さいと言っているようなものだぞ。』
「あの動き、中立地帯を誤認しているようですな。」
ああ、理解出来た。
彼らは既に中立地帯に侵入している事を自覚出来ていないのだ。
なので眼前の帝国国境に中立地帯と誤認したまま飛び込もうとしている。
(夜間騎走は本職の騎兵ですら、そういうミスを犯してしまうほど危険である。)
2騎だけ、群れからはぐれてこちらに来た者が射殺される。
死体を確認した所…
参ったな…
ドックタグにコニー・ルイスと彫ってある。
これルイス組の身内、多分組長の息子か何かだな。
駆け付けたニックも断定する。
「間違いない。
これルイス組の次男坊だ。
冒険者としても、そこそこ名が知れている。」
ルイス組長はヤクザだが、建設会社経営という側面も持っている。
殺したのがバレると本当にヤバい。
清掃会社経営の側面を持つ親から生まれただけに、何となく彼のポジションが理解出来てしまう。
これは本当にヤバい。
だから人目が無くて本当に良かった。
気は進まなかったがコニー氏ほか1名の死体を●〇▼して〇◇×◎する手法で処理して隠蔽する。
途中、思わず嘔吐したらレニーに肩パンされて下がらされた。
コイツの方がよっぽどヤクザだよな。
前方から悲鳴が上がる。
帝国の柵を越えようとした先頭集団が射殺された事で、ようやくカウボーイ達は現在地を自覚出来たらしい。
(幾ら知らないとは言え、あの帝国に越境するなんて、正気の沙汰ではない。)
帝国側もかなり手心を加えているのだろう。
柵に越えた/触れた者しか殺していない気配がある。
(これから彼らも我が国で起債しなくちゃいけないからね、神経使うよね。)
そして射かけられてパニックになった集団が…
嘘だろ!!
真っすぐこっちに向かって来る!!!
「森に退避ッ。」
ドラン翁の押し殺した叫び声に全員が左側に広がる森に入った。
その数十秒後。
悲鳴を上げながらカウボーイ達が散り散りに雪崩れ込んで来る。
近い!!
相手が騎馬なので森には入って来ないと思うが…
それでも視認されたらマズい。
俺達は本能的に馬を曳いて森の奥に個々に逃げ込んだ。
途中、ドランの乗騎が暴走しカウボーイの群れに突っ込んで更なるパニックを引き起こす。
何人かのカウボーイがパニックになって森に逃げ込んで来るので、俺まで恐慌してしまう。
今、思えばの話だが。
如何にも身を隠せそうな森だったので、逃亡者が入り込んで来るのは自然だったのかも知れない。
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マズいな。
皆とはぐれてしまった。
さっきまで左側を走っているジミーとブロックサインを送り合っていたのだが。
恐らく、そんなに遠い場所にはいない。
ただ後方からカウボーイ達の騒ぐ声が聞こえているので、呼び掛け合う事が出来ない。
…敵は何人居る?
最低でも20人…
いや、20じゃ済まないな。
馬だけでも最低5頭分の嘶きが聞こえる。
ック!
あいつら焚火を始めた。
ここを拠点にするつもりなのか?
まずいな。
斥候を出されたら、すぐに鉢合わせだぞ。
後退して距離を取りたいが、思ったより近い。
物音を立てたら聞かれてしまうんじゃないか?
そう言って身を屈めようとした瞬間。
「追手だああああッ!!!!!!!!」
群れの中の誰かが叫んだ。
残念ながら真っすぐに俺を指さしている。
追手はオマエらなのだがな…
きっと彼らの認識では逆なのだろう。
思わず頭を上げると、20メートルほどの距離で全員と目が合ってしまった。
可哀想に休憩寸前だったカウボーイ達は総出で抜刀し、俺に襲い掛かって来る。
『う、うわッ!!』
逃げ出すも、夜間の森である。
追われる俺も追うカウボーイも、倒木に躓き横枝に頭をぶつけながら、皆で悲鳴を挙げて森を駆けまわる羽目になった。
頑張って撒いたつもりだが、森の切れ目で10人に追いつかれて取り囲まれる。
暗闇に紛れようにも、不意に現れた満月が煌々と俺を照らしていた。
「ハアハア! 散々追いかけ回しやがって!!」
「こっちがどんな思いで逃げて来たか!!」
「ぶっ殺してやる!!!」
追われているのは間違いなく俺なのだが、彼らの主観では邪悪な追跡者を返り討ちにする構図らしい。
時間稼ぎをして仲間の到着を待つことも考えたが…
敵の一味が駆け付ける方が早そうである。
仕方なくサーベルを抜く。
「回り込め! 回り込め!」
「囲め! 囲め!」
「四方から突け! 死角から突き殺せ!」
あ、これ負けたな。
流石に無法者の集団だけあって数の優位の活かし方を熟知している。
俺はアイテムボックスに残ったホーンラビットを射出して2人だけを殺害したが…
流石に弾切れだ。
付近にも投射可能な武器は見当たらない。
8対1。
しかも向こうは仲間を呼ぼうとしている。
無言でジリジリ距離を詰めて来る相手に背筋が凍る。
辺境のカウボーイとは言え、彼らは実戦を潜り抜けているのだ。
決して侮っていたつもりはないが、この結果が出た以上は俺の何処かに驕りがあったのだろう。
退路を塞いでいた男に投石を試みるが、あっさりとバックラーで防がれてしまう。
相手の呆れたような表情を鑑みるに、どうやら見え見えの手だったようだ。
一瞬バックラーの男が何かを言い掛けて、不意に倒れ込む。
首筋に矢が垂直に刺さっている。
「マーキスがやられた!!!」
隣の男が叫びながら駆け寄ろうとするも、瞬間にコメカミを撃ち抜かれて倒れ込む。
狙撃点は恐らく同方向。
レニーの援護射撃?
一瞬その可能性が脳裏に浮かぶが、記憶が否定する。
射手としてのレニーは中距離連射型。
獲物の周囲を高速疾走しながら常に位置を変えて撃ち続けるタイプ。
一カ所に留まっての狙撃は彼女のファイティングスタイルとは合ってない。
そもそも味方であれば一声掛けるはずだ。
俺が射手でもそうする。
カウボーイの残りは6… いや5人!?
1人が反対側の小川に転がり落ちて行ったのが見える。
5人が慌てて木立に身を隠す。
そして俺も本能的に狙撃点から逃れて岩陰に入る。
ややカウボーイ達に接近してしまったが、まだ見ぬ射手の尋常ではない殺気に当てられてしまった以上仕方ない。
身を隠してから、改めてその視線に気付く。
あの射手。
明らかに俺に殺気を向けている。
少なくとも味方ではない。
「休戦しよう!!
休戦協定だ!!!」
人数が減った事で弱気になったのか、カウボーイの1人がそう叫んだ。
「俺達は何も戦いを望んでいる訳じゃないんだ!
ここは一旦ッ」
彼が何を提案しようとしていたのかは永遠に分からなくなった。
木立のほんの僅かな隙間から伸びた矢は残忍に痙攣している。
残り4人。
そこから10分ほど場が静まり返る。
いや、10分も無かったのも知れない。
逆に1時間くらいは沈黙があったのかも知れない。
恐怖は平然と時間感覚を壊す。
「出てこい卑怯者ーーーーッ!!!!!!!!」
沈黙に耐えかねたのだろう。
盾を構え直しながら叫んだスキンヘッドの男が喉を貫かれて絶命した。
ここまで全てが文字通りの一撃必殺、しかも曲射ではなく直射で撃ちこんで来ている為に相手との距離が測れない。
岩陰の向こうの射手は紛れもなく達人。
俺がどうこう出来る相手ではない。
残りの3人も俺も、不意の第三勢力登場に完全に身がすくんでしまったのだろう。
物音1つ立てられない。
俺は手足に力が入らず、頭から熱湯でも被ったように冷や汗を全身から流した。
恐らく向こうのカウボーイも似たようなものだと思う。
「降参ッ! 降参する!!!
カネを払う!!!
投降を認めてくれよお!!!!!
手元には2万ほどしかないが、馬に戻ればッ」
にわかには信じ難いことだが、男は木の幹ごと頭を撃たれて死んだ。
俺の角度から詳細は確認出来ないが、そうとしか思えない。
少なくともあの強弓なら、多少の樹木程度は盾として機能しないのかも知れない。
恐怖が絶頂に達したのだろう。
残りの2人は悲鳴を挙げて離脱しようとするが、ほぼ同時に後頭部を貫かれて死んだ。
彼らより更に臆病な俺は震えが止まらず、ただ不様に歯を食いしばっていた。
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俺が荒い息を必死に押し殺そうと試みる中、射手はゆっくりとこちらに近づいて来る。
まるで言い聞かせるような規則的な足音。
普段、無音で歩く者が信号的に発する、合図としての足音。
ようやく、鈍感な俺ですら思い出せた。
俺が知る限り、こんな芸当が出来る男は世界にただ一人。
きっとその身内なら、似たような動きも出来るのだろう。
『…。』
「…。」
臆病風が止んだ。
不意に勇気が湧いた訳ではない。
俺には怯える資格が最初から無かったのだ。
さあ、立ち上がろう。
「…。」
『…。』
シモーヌ・ギア。
我が最愛の友、ギリアムの妹。
奴を死なせてしまったのが俺である以上…
彼女にとっては俺こそが仇である。
『シモーヌ、俺は…』
「月が。」
言葉が遮られる。
『…。』
「月が綺麗ですね。」
長弓を背負った彼女はゆっくりと剣を抜いた。
レイピア。
通常の物より長く細い。
近接戦闘であっても《射貫く》というファイティングスタイルを取る為だろう。
「…。」
『…。』
「ポール・ポールソンッ!
構えろッ!!!」
不意の絶叫。
気が付けば俺もサーベルを正眼に据えていた。
「我が名はシモーヌ・ギアッ!!!
森人の掟に従い決着を付けるッ!!!」
『…なあギリアム。
アンタの妹最高だな。』
シモーヌ・ギアの眼には一切の迷いが無い。
ただ俺の命だけを見据えている。
…これ程の覚悟。
応じねば無礼だろうな。
見ているかギリアム。
今ここで決着を付けるよ。
「…。」
『…。』
「いざ尋常にッッッッッ!!!!!」
『勝負ッッッッッ!!!!!!!!』
気が付けば、恐怖も疲労も全て失せていた。
真正面から飛び掛かるシモーヌ・ギアに、真正面から突っ込む。
小細工はしない。
何故なら、これは戦闘ではなく決闘だからである。
「ッッッッッ!!!!!」
『………!!!!!』
まるで似ていない兄妹というのが彼らへの変わらない印象だったが
俺の懐に飛び込むその神速こそは、紛れもなくギリアム・ギアの雄姿そのものであった。
気が付くと、シモーヌ・ギアの突き出した一撃が俺の首を深々と貫いていた。
「…決着。」
彼女は短く呟く。
その哀しい瞳はまるで自分自身に言い聞かせているようにすら見えた。
どうして月はこうも残酷に夜を照らすのだろう。
彼女が必死に押し殺し続けて来た涙を鮮明に暴いてしまった。
『』
数秒も遅れてから、俺も剣を薙いだ。
プツンッッ
最初から気に入らなかったのだ。
女がこんな物騒な長弓を背負っている姿はあまりに痛々しかった。
戦いの世界から身を引かせる提案にはギリアムも賛同してくれていた。
これが俺の望んだ決着。
弦が切れる音は思っていたよりも遥かに大きく、薄れゆく意識の中でいつまでも余韻が響き続けていた。




