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【清掃日誌55】 蛇

バーベキューイベントは無事に終わった。

片付けも本日完全終了。


網や焼き串を手動で洗うのは流石に疲れたので、テントの脇でニックと並んでハンモック休憩。

グレン州議長が差し入れてくれたポーションをライムジュースとブレンドして飲む。





「兄貴、本当にbarを開くつもりなんだな。」






『カネと時間に余裕が出来たならね。』






「ポーションをブレンドした酒をメインにする訳?」






『酒で体壊す人多いしね。

最近、薬効を増す為のカクテル方法を模索してるんだ。』






「へえ。

あれって都市伝説かと思ってた。」






『例えば、王国ではポピュラーな民間療法なんだけど。

ポーションってライム系を大量に混ぜるとMP微回復効果が見込めるんだ。

というか、濃縮ライムジュースにポーション垂らした方がコスパ良い。』






「ライムはちゃんと割ってくれないと飲めねーよww」







2人で手を叩いて爆笑する。

気心の知れた友人とののんびりした日常。

ドランさんやジミーもここに居る。

ああ、こういうのがスローライフって言うのだろうな。







「異議ありッス!!」





『ん?』





「ん?  じゃないッスよ!!

アンタらずーっと男同士でイチャコライチャコラ!

放置されてるアタシ達の身になって下さいよー!!」




『クレアとか居るじゃん?

仲良くしてんだろ?』




「ポールさんの顔を立ててッ!

割と仕方なく! 妥協で話合わせてますけど!

ロクに学校行ってないアタシが!

大学院出たような眼鏡女と話合う訳ないじゃないッスか!」




『仲良く鳥撃ちしてるじゃん。

この間なんてワイバーンを落としたんだって?

凄いな。』





「あ、いえ、どういたしまして。

ワイバーンとか対処法知ってりゃ単なる雑魚なんで、それは別に。


いや、確かに殺生は楽しんですけどね!

女って基本的に男に構って貰えないと死ぬ生き物なんですよ!

もうちょっと構って下さいよ!!」





マジかー。

…それ絶対、生物としての設計理念間違えてるだろう。





「兄貴―。

その子の言うとおりだぜ。


ソドムタウンに帰ったら、一回姉さんに顔見せてやってくれよ。」





『うーん。

確かにナナリーさんを心配させてしまったしな。

ほとぼり冷めたら土産でも買って遊びに行くか。』






「オイイイイーーーーーーーッ!!」






『ん?』






「この文脈で他の女の話してんじゃねーーーーーーー!!!!」






『ん?』







「そのキョトン顔やめろーーーーー!!!!!

いい歳してそのリアクションムカつくんスよ!!!」






『あ、なんかゴメン。』






「ポールさんが結婚に失敗した理由が痛い程理解出来たッス。」






『へー。

アドバイスくれよ。』





「どーせアタシ以外に活用するから死んでも助言してやらねッス。」






『…どうしろと。


まあいいや。

君達には世話になったからな。

何かお礼するよ。』






「ほう。

妙に素直ッスね。

何か企んでます?」






ドナルドが評するところ俺は年中何かを企んでいる男らしい。

アイツだけには言われたくないのだが、心当たりがない訳ではない。






=========================





ドラン翁が散歩から帰って来たので、溜まっていた報告をする。





『皇帝陛下が山岳民族とのハーフだというのは、ほぼ確定のようです。』






「レジエフ情報?」






『ええ。

事実か否かはさておき、レジエフ卿は陛下が山岳民族の血を引いていると強く信じていました。』







「帝国って少数民族に対する差別が相当激しいんだろ?

そんなので統治できるのか?」






『かなり苦戦しておられるでしょうね。

俺が帝国に居たのはごくごく短期間ですが、山岳民族や森林民族に対する差別は根深いものでした。

何と言うか、同じ人間と見做されてないんです。

丁度、ソドムタウンで魔族に向けられるのと同じか、それ以上に酷烈な目線でした。』






「オイオイ。

そんなのでよく皇帝になれたな。」






『…俺、前から気になっていたんですけど。

帝国のどの戦譜を読んでもアレクセイ陛下は少数奇襲しかやってないんです。


世間では戦術能力に絶対の自信を持っているからとされてますが…

幾らなんでもあの超大国のトップが1万前後の直属軍しか率いてないって異常でしょ?』





「うーん、俺は歴史に疎い方だが

それでも帝国皇帝の親征となると、一般的には旗本5万騎が相場だよな。」





『そうなんですよ。

帝国中興の祖として名高いピョートル帝などは常に旗本8万騎を従えておりましたし。

軍縮路線を採用したウラジミール陛下でも、旗本1万5000騎に加えて親衛師団を2個師団保有しておりましたから…


にも関わらずですよ?

あれだけ前線を渡り歩いているアレクセイ陛下の旗本が1万を切っているって…

ありえないんです。』




「だな。

帝国史を見てもあれだけ前線に張り付いている君主は珍しい。

馬上の人のイメージがある初代皇帝でも、40を過ぎてからは殆ど帝都から動いてない訳だしな。」





『でも陛下が被差別民族とのハーフだとしたら、全てに説明が付きます。

《貴族階級が陛下を憎悪しているから、勝手に戦端を開くし兵士の供出を拒んでいる。》

それが帝国皇帝が常に寡兵である謎の真相なのではないのでしょうか?』





「ふーーむ。

俺は国際ゴシップを読むのが結構好きなんだけど。

皇帝の素性に関しては初耳だな。

統治に苦労しているのは何となく伝わってきているが。


帝国では暗黙の常識なのかな?」





『最近。

帝国の将校と、この近辺で会話したんです。


少数民族っぽい兵士を数騎引き連れていたので恐らくは外人部隊の隊長か何かだと思うのですが

その男も山岳民族とのハーフを自称しておりました。』




「なるほど。

支持基盤の弱さを補う為に少数民族や混血を優遇している可能性はあるな。

…そんな事をすればますます帝国人からの支持率は下がるとは思うが。」





『さてここからが本題です。


以上を踏まえて、皇帝に一つ恩を売る方法を思いつきました。』






「ほう!」






『山岳民族の文化様式に対して好意的なアクションを起こすんです。』






「??

それは、皇帝におもねるということ?」






『いえ、国ぐるみで皇帝陛下にシンパシーを表明するのは危険です。

アレクセイ陛下の治世は安定しておりませんし、何より跡継ぎの男子がおりません。』





「だな。

俺も今の皇帝に我が国が接近し過ぎるのは反対だ。

彼が没落した時に巻き添えを食うのが怖い。」






『ただ、今後帝国内において山岳民族の社会的地位が向上する可能性が高いです。』






「そうなのか!?

いや、そういう兆候は感じないが。」






『帝国の若手貴族が資本主義社会や共和制に強い関心を持ってます。

いずれは自国が自由都市の様な政治体制に変貌すると多くの若手が予見していました。


…もしも帝国において本格的な議会制が成立した場合。

棲息面積が広い山岳民族にも議席が割り当てられる可能性があります。』





「いや、それは非現実的だ。

あんな差別意識が激しい国民性で、少数民族に対する割り当てなんかしないだろう。」





『いや、その場合は帝国内の山岳民族・森林民族が分離独立運動を開始する可能性が高いので。

我が国にとって悪い芽ではないかな、と。』





「…なるほど。

そこまで先を見越せと。」





『少なくとも、《我が国では山岳民族に対する差別感情が少ない》とPRしておいて損はないです。

今から布石を打っておけば、今後帝国ないしはその後継国家と戦争状態に突入した場合の保険の一つとなるでしょう。』






「…いい手だな。

オマエ、策士の才があるよ。


で?

具体的にはどうする?

山岳民族にどうやってシンパシーを持たせる。」






『丁度、身内に山民がおります。』






「ああ、あの子か。

オマエ、昔からああいうキチガイ女が好きだよな。」






貴方が熱を上げているクレア・モローが一番やべー奴だとは思うけどな。







『まず今からアレに地元の風習・奇習を話させます。』






「ふむ。」






『その中で都会人でも受け入れられそうな部分を

ファッショナブルにラッピングして、流行として発信します。』





「ああ、いいね。

最近の若い連中は火遊びがスマートだから好感が持てるわ。」






『で、ある程度流行が盛り上がったら

その特集記事が帝国に流れる様に細工します。』






「…いや、いいね。

コスパのいい工作だわ。

我が国の差別問題にも一石を投じ得るしな。」






『職業差別の解消って清掃屋の俺に課せられたライフワークですしね。


まあレニーには世話になりましたし。

義理も返しておこうとかと。』






「あの子、命の恩人なんだろ?」






『その点は未だにありがた迷惑と感じてます。

《男の死に場所に水を差すな》って感じ。

まあ女子にそんな事言ってもわからんでしょうが。』






「代わりに俺があの子に感謝しておこう。

ポールソンを助けてくれて、本当に嬉しい。」







『ども。



話を戻します。

山岳文化プッシュ企画。

外交的にも内政的にも有益なので実行します。』







「オマエ個人にも益がありそうな点が俺は嬉しい。」







『逆ですよ。

俺がレニーに好感さえ持ってなければ

もっと堂々と大々的に仕掛けられたのですがね。』






問題はそこなんだよな。

俺、あの子のこと滅茶苦茶好みなんだよ。

そんな俺が山岳民族問題に解決に取り組むって、あまりに不純ではないだろうか?







「たまには公私混同しろ。」






『そういうの嫌いなんですよ。

公益を唱えつつ自分が得をしようと画策する連中。

心底軽蔑します。』






「人間はみんなそうだ。

だから、人間を軽蔑してやるな。

みんなオマエほど強くないんだ。


たまには小利を欲してやれ。

それだけで皆が安心する。」





『小利?』






「若者に小銭をせびって大喜びするとかな。」







『屑じゃないですか。』







「ボンボンでカネの余っている奴。

そういう奴の緊張をほぐすのに丁度いいんだよ。

今度、大金持ちの小僧に会ったら可愛く卑屈に小遣いせびってみな。

結構打ち解けられるから。


カネの無い若者に奢ってやるのは、オマエはもう出来ている。

次はカネしか無い孤独な若者に笑顔でせびってやれ。


ある程度の歳になったらピエロも演じねばならんぞー。」






…眼前のピエロ名人に俺は救われて来た訳だしな。

次は俺の番か。

来年は40歳。

もう年齢相応のポジションから逃げる事は出来ないな。





=========================





「文化っつっても…

山に住んでるアタシらなんて

単に貧乏なだけッスよ。


固有文化なんてないですね。

汚くて貧しくて古臭いだけッス。」





『そうか?

食生活とか、独特の文化を築いている印象があるけど。』





「いやいや、山地は物成が悪いから…

平地の人が普通に食べれる食事が出来ないだけなんスよ。


麦が栽培出来ないから蕎麦や稗を育ててますし

羊や豚が飼えないから山羊を育ててます。


アタシらがやってる事って

全てが代替行為なんです。


里の奴らにはいつも笑いものにされてました。

《ゴブリン以下の野蛮人》だって言われて…」






『そっか、思い出したくないこと思い出させてゴメンな。

俺、街中で育った人間だからさ。

農村と山村の軋轢とかイマイチ実感が無くて…』






「山民なんて所詮は平地の争いに敗れて山脈に逃げ込んだ負け犬ですからね。


生き延びるために必死で…

文字通り泥水啜って生きてます。



…ポールさんに嫌われるの覚悟で打ち明けますけど。


アタシら、中々タンパク源が確保出来ないんで…

虫とか蛇とか喰ってます。

それを見た里の奴らが…


スミマセン、あんまり思い出したくないです。」





『そうか…』






「ドン引きしました?」






『…レンジャー部隊の訓練で虫食も勉強させられるとは聞いたがな。』






「兵隊さんは尊敬されますし給料も貰えます。

山民は軽蔑されて貧乏なだけ。


正反対っスよ。」





『軍隊訓練を経ないと身に付かない技術を持ってるって

俺は凄いと思うけどな。』





「気休めはやめて貰えます? ムカつくんで。


蛇なんて喰えた所でキモがられるだけっすよ。

この間もゴチャゴチャ言われたばかりだし。」





『何かトラブル?』





「山でエミリーと野営してた時、蛇を焼いて食べてたんスよ。


そしたら、前日からウチラをナンパしてた冒険者の奴らがキモイとか臭いとか騒ぎだして…

あまりにムカついたんで、うっかりボコっちゃったんスよ。」






…冒険者(♂)をうっかりボコれるってすげえな。

その時点で俺にとっては未知の領域だわ。





「一番野営慣れしている冒険者からもキモがられるノウハウッスからね。

こんなモン身に着けた所で、ますます差別されるだけッスよ。」




『蛇って美味しいの?』





「別に、普通ッス。

言っておきますけど、羊とか牛の方が美味いっスよ。


当然ですよね。

食肉として品種改良され続けてるんですから。


ちなみにポールさんが普段食べてる肉は?」





『羊…  それもラムかな。

エヴァーソン牧業のラムが一番口に合うかも。』





「やぱり金持ちっスねww

そんな人には蛇なんて無縁でしょう。」





『あ、いや。

俺の父親がヨモギ酒に蛇を入れたものを愛飲しているんだ。

滋養強壮に効くとか言ってさ。


俺もたまに飲ませて貰ってる。』




「ああ、薬効は本当にありますよ。

ウチラは主に生き血を呑んだりコブラやマムシを酒に付け込むんですが

精力剤・強壮剤ッスね。」




『へえ。』




「干し肉ならありますけど

食べます?」




『え?

蛇の干し肉?


ちょっと興味あるよ。

ドランさんはどうですか?』





「うん、乾燥工房としては気になるな。」





「じゃあ、まずはそのまま食べてみてから

その後、蒲焼きにするッス。」





こんなやり取りがあったので、内輪で蛇の食レポ会となる。





=========================





ホストはレニーで、マムシの干し肉を振舞い、俺達が合うワインを模索するという流れ。

ゲスト役は俺を含めて6名。




・俺     (駄菓子評論家)

・ドラン   (乾燥工房経営)

・ジミー   (ボンボンの上に食道楽)

・クレア   (先祖代々グルメとして高名/料理も得意)

・エミリー  (飲食店勤務歴そこそこ)

・ニック   (爬虫類系が苦手/但し珍奇な酒肴は好む)




それなりに食を語れるメンバーではあると思う。




「うーーん。

皆さんの口に合うとは思わないッスが。


まずはマムシの干し肉っス。

アタシはこれを非常食として常備してるッス。

エネルギー効率が高いんで。」





まずは何も付けずに食べてみる。

鶏肉と魚の中間くらいの味。

想像してたより淡泊。

塩を振るとそこそこイケる。





「これ、燻製にしたら流通に通せるな。」





そのドランの提案にはレニーが反対する。





「一般の畜肉を燻製にするよりコスパがいいなら賛成ッス。

ただ、御存知の通り蛇食はジビエであって、畜産業の範疇からは逸れてしまいます。

わざわざ処理工程を挟む意義はあまりないんじゃないッスか?」




「…確かに。

それにジビエなら幾らでも買い手のつく種目は他にあるからな。

蛇に手間を掛ける位なら、高値が付く鹿肉に手間を掛けるべきだろう。」





ちなみに。

我が国では規制されていないが、王国や合衆国では蛇の養殖は禁止されている。

万が一生産体制を整えた所ですぐに規制されるだろう。

なので蛇を流通ルートに乗せるのは、そういう意味でも難しい。





「ねえレニーさん、私から一ついいかしら?」




「どうぞッス。」




「さっき蛇の生き血が生理不順にも利くって話をしてたでしょう?

私、そっちの方が気になったのだけど。」




「ああ、山民の間じゃ割とポピュラーなんスけど。

男も女もマムシやコブラを捕まえたら、首を落として血を呑むんスよ。

効き目強いッスよ。


大抵は酒とブレンドするんです。

モロコシ酒や稗酒。

ポールさんのお父さんが飲んでるヨモギ酒なんかともブレンドしますよ。」




「今、このテントにあるのはワインとエールと…

ドラン、何か持って来てる?」




「テキーラなら。」





そんな話をしている時に、ずっと周辺を探してたニックがマムシを見つけたのでレニーに実際に捌いて貰う。

マムシの生き血とテキーラを1:1で割ったものをワンショットだけ飲ませて貰うが、酒というより薬だな。




『少し体が火照るな?』




「夫婦円満酒ッスから。」




『そうなの?』




「割とマジな話っすよ?

男の人のアッチが逞しくなりますし

女の生理不順をマジで治しますし。」





皆でマムシテキーラを呑みながら、やや下ネタに話題が移る。

そこからアレコレと下世話に盛り上がりながら

《セレブ向けの不妊カウンセリングに組み込む》

案に落ち着く。




何が良いって、モロー銀行が様々な婦人向けのサロンビジネスに出資していて、その応対をクレアが担当しているからである。

(幾ら銀行業が男社会と言っても、流石に生理用品や不妊ビジネスへの出資相談には女性の窓口が必要になる。)





「ねえ、レニーさん。

私の担当にマダム・ギャビーって美容ビジネス界の有名人が居るのよ。」




「ひょっとしてスキンケアブランドの?」




「ああ、知ってるなら話は早いわ。

そこの代表、呼べばここに来ると思うんだけど。

話してみない?

男癖は悪いけど、カネはきっちり払うタイプよ?」




「綺麗な人ッスか?」




「若い頃は社交界の花形だった人。

今は派手な肉食オバサン。」




「ポールさんの居ない時なら

呼んで下さいッス。」




「オッケー。

旦那も一緒に招待して、男女は別々。

この条件でどう?」




「それなら文句はないッス。

コブラ、もし見つけれたら、いいプレゼンをする自信があるんスけど。」




これに関しては冒険者ギルドに手数料を支払って情報を募る事に決める。





=========================






レニーに貰ったマムシ干肉を齧りながら焚火の前でエールを飲む。

化粧品会社の社長にプレゼンした所で、すぐに蛇食ブームが到来するとは思えないし、仮に一大ブームが起きたところで山岳民族への差別意識が無くなるとは考えにくい。

更には山岳民族への差別感情が薄れた所で、超大国である帝国に影響を及ぼせる日は遠いであろう。




「随分、迂遠な話でゴザルな。」




『迂遠だからこそ。

無用な血が流れにくい。


時間を掛ければ、大抵の問題は穏健な方向に動く。』





「ポール殿の性分にも合ってますしな。」





『俺は荒事を好まない。


…いや、問題を根本から解決する道から逃避する姿勢が許せないのだろうな。

本来、社会改善は万民への周知を前提に一歩一歩なされるべきなんだよ。


誰か1人のスタンドプレーによる問題解決は長期的に見れば混乱を引き起こすだけだ。』





「キーン社長の事でゴザルか?」




『まあな。

当然、俺自身への戒めでもある。』






結局、レニーからは鼻で笑われた。

何万年も続いてきた差別が、レシピ一つで改善する訳がないと。






『でも。

100個くらい、当たり企画を出し続けたら…

レニーへの風当たり、少しはマシになるかも。』





「…まあ、バイト探す時に書類審査で門前払いされる事は減るかもッス。」






『後、99個模索してみるよ。』






「何でそこまでするんスか?」






『レニーの事、好きだからじゃないか?

好きな子が不当に扱われてるのって、俺は我慢出来ない。


だから、山岳文化を肯定的に商品化することによって

レニーの役に立ちたいんだ!』






「…まずはマザコン直せや。」







=========================







マダム・ギャビーは大の田舎嫌いで爬虫類嫌いだったが、家族を連れて来訪してくれた。




「あのねえ。

ワタクシだってこんな所に来たくなかったのよ?


でもメインバンクに呼び出されたら

断れないじゃない?」




確かに。

ちなみにマダムは田舎女も山民も不細工女も大嫌いだが、ちゃんとレニーのプレゼンには耳を傾けてくれたし期間限定のフェアも約束してくれた。





「いや、こんなに貰うのは申し訳ないっスよ。」





「勘違いしないで。

社内規定なの。

貴女だけに払ってる訳じゃないわ。


それにクレアさんと私はね?

職業婦人の地位向上や女子労働環境整備の同志なの。


レニーさんだったかしら?

ワタクシ、冒険者と山岳民族とゲテ物食は大嫌いだけど

それでも貴女の精勤には敬意を表しているから。」





「そいつはどうもッス。」




「ねえ。」




「?」




「このマムシテキーラ…

結構効くわね。

女としてのパワーが漲ってくるのが分かるわ。


ねえ。

もしもう1人産めたら、貴女を改めて認めるわ。

プッシュもしてあげる。」





「男の人の心臓に負担あるんで

旦那さんに飲ませ過ぎないように気を付けて下さいッス。」





「ハア?

普通にイケメン君の子供を産む予定なんだけど?」






テントの中の男子勢にも下品な笑い声が響いて来る。

夫であるドピルパン卿も思わず苦笑するほどだ。






『申し訳ありません。

まさか、男爵の顔を潰すような話の展開になってしまうとは…』




「ははは。

では私も対抗して飲むしかありませんな。


さっきは遠慮してしまいましたが

やはりマムシテキーラを振舞って頂けませんか?」




『あ、はい!

是非、どうぞ。』





そんな遣り取りがあったので、ドピルパン夫妻が何故か俺達のテントで《夜営》する事になってしまう。

マダムの声が…  

凄い…

今夜に限って狼が鎮まる程に凄いシャウトである。


元からそうなのか、蛇の効果かまでは知らない。







結局、ドピルパン夫妻の護衛も兼ねてテントの表でマムシ&コブラバーベキュー大会。

蒲焼にしたマムシをエールで流し込みながら焚火の火を眺めて夜を明かした。


いつまで経ってもマダムの嬌声が止まらなかったので

《もう広告塔はあの女でいいんじゃないか?》

と言って皆で笑い合った。



いいんだよ。

こういうので。

シモの話って人類の共通話題だからな。



例えこういう下らない話が切欠でも。

少しずつ民族間・国家間のコミュニケーションを増やしていくことが

優しく平和な世界作りに繋がって行く筈なのだ。



勿論、人類の歴史はこの真逆の悲劇の連続なのだけれども。

それでも俺はこの欺瞞を押し通して行きたい。

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