表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道標  作者: 日多喜 瑠璃
PR
5/8

4

訳あり旅人・真山敏と、謎の旅人・白崎華菜の、北海道バイク旅。

2人は上川地方を南下して行きます。

美しい雄大な風景を想像しながら読んでいくと、より楽しんでいただけるかと思います。

 「それで、今その娘は?」

 「眠ったんじゃないかな? テントに入って行ったよ。」

 眠れずに心の中で葛藤する華菜。そんな事など知る由もなく、真山はその日、華菜に変わった様子は見られなかったと言った。


 「それよりもさぁ…」

 「うん?」

 「俺、何の旅してんだろう? 北海道に入ってからというもの、どうもだるまに翻弄されっぱなしだよ。」

 「何のって…自分探しって言ったじゃない。福岡での事、覚えてる? あなた、似顔絵描いてもらったよね?」

 「え? ああ、そうだったな。俺の顔、めっちゃ笑ってる様に描かれちゃった。うん、そうなんだけど…」

 …そんな事すらも忘れかけていたよ。

 「あの似顔絵、うちに届いたのよ。近い将来のあなただって。うふふ…日本縦断して…沢山の人に出会って、いろんな事教えられたんじゃないの? だるまちゃんも、その出会った1人に過ぎなくない? 逆にだるまちゃんにとっても、あなたは“旅の途中で出会った人”の1人よ。今まで教わった事、今度はあなたがだるまちゃんに教えてあげる番じゃないの? それも含めての自分を探してるんじゃないの?」

 …それも旅の1ページでしょ!

 優香里はそう言った。



 「あ〜! 焦がしちゃった〜!!」

 朝のキャンプサイトに、甲高い声が響く。

 「もう、ドンくせぇなあ、ははは。いいよ、そのパン、俺が食うから。」

 札幌で買ったシングルバーナーで、バターロールをアニマル氏の分まで焼く…つもりが、まだ使い慣れていない故の失敗。そんなところも憎めない。少し優しい気持ちで華菜を見る真山だった。


 3人でゆっくり朝食を摂り、アニマル氏にお礼とお別れを言う。真山と華菜は再び旅立った。居心地は良かったのだが、なぜか真山の心の中で、「行かねばならない」という思いが先行した。

 「ねぇ、アニマルさんが言ってたトロッコ、乗ってみない?」

 「あ、ああ、ははは…うん、いいよ。」

 かつて志半ばで建設を断念し、全通の夢破れた鉄道路線があった。現在はその廃線跡のレールを活用し、レジャースポットとして人気を集めているという。

 真山は、こういうものには慣れていない。だが、華菜にとって初めての、思い切って出かけた一人旅だ。思い出になるなら頑張ってみようと思った。


 それは、線路上を自らがトロッコを運転して楽しむアトラクションだ。緩やかな速度。どこで停まっても構わない。自然を身近に感じる。白樺に囲まれ、木漏れ日を浴び、とても心地良い。

 そして、ライダーたる者、やはり乗り物が好きなのだ。

 「もしかして、ジローさんの方が楽しんでるよね? 子供みたい〜。」

 「うるせ! 折角なんだから、だるまも負けじと楽しめっ!!」

 「子供だ〜! きゃはははは!」

 「あはははは!」

 真山と華菜の他にも、3人の旅人が相乗りした。5人で代わる代わる運転する。出会ったばかりの人とも、会話は弾む。みんな笑顔が溢れ、笑い声が森にこだまする。

 夢破れたとはいうものの、これだけ旅人に笑顔をもたらしてくれる、かつて鉄道だったもの。夢は形を変えて生き続けているのだろう。 

 華菜はもちろん、真山にとっても貴重な体験だ。人付き合いは得意ではないが、旅が気持ちを開放的に変えていく。



 遊び倒した2人は再び国道40号線に戻り、南下する。徐々に民家が増え、町の様相へと変わった。

 「旭川といえば?」

 「ラーメン?」

 「旭川ラーメンもいいね。」

 「わっ! すごい行列!!」

 「名店はみんな、こんな感じなのかな? でも、全国展開してる店もあるしね。いっそのこと、どこかスーパーで買い物してキャンプ場に行っちゃおうか。何する?」

 「じゃあ、トントロ!!」

 「お! 知ってるじゃねーの!」

 「スマホで調べたよ、旭川グルメ。ラムも美味しかったし、買っとく?」

 「そうだね。」

 そして旭川に来れば、是非手に入れたいもの。大雪山の伏流水から醸した銘酒。

 「ちょっと寄らせてくれ。」

 「お酒? ジローさんって日本酒呑むの?」

 「実は俺、日本酒派だよ。」

 「私はムリかな。チューハイ買っとこうっと。」

 その夜は、楽しかった1日を振り返り、2人は笑った。美味い肉をアテに、酒が進む。

 やがて周囲は静けさに包まれ、華菜は眠りについた。



 出会った日から数えて5日。

 静かになったサイトで、真山は1人考えに耽った。

 …だるまと居るのは楽しい。娘と旅するというのはきっと、こんな感じなのだろう。しかし、己を見失い、もがき苦しみながら旅立った俺だ。まだ目的を果たせないままで、いつまでこうしていられるのだろう? 俺は…この訳ありげな1人の旅人に対し、何をしてあげられるのだろうか?

 …こんな俺なんぞについて来るだるま…彼女はこの旅に、一体何を求め、何を望んでいるのだろうか?


 シュラフに潜り込むもしばし眠りにつかず、様々な考えを巡らせていた。だが、疲れは隠せない。体は正直なのだ。やがて真山もまた、そのまま深い眠りについた。



 夜は明け、これまでとは少し違う空気が辺りを包んでいた。道内第2の都市である旭川。キャンプ場は町外れに在るが、何となく人の動きが感じ取れた。

 それだけではない。いつものように優香里と電話で話す真山の横で、華菜はどことなく不機嫌な顔をした。


 荷物をバイクに括り付け、国道237号線を南下して行く。

 この日もまた、真山の後を追う様に華菜のバイクが走る。

 目覚めた時は少し俯き加減だった華菜だが、バイクに跨ると、またあの笑顔に戻る。

 道央の長閑な風景の中のクルージングに、心は弾む。40分程走ると、そこは“丘のまち”と称される美瑛だ。その東側に位置するのは十勝岳連峰。複数回の大規模噴火と河川の浸食が、この波状丘陵を形成したという。最果ての原野や広大な牧場の風景と並び、北海道のイメージとして人々の心の中に定着しているであろう風景だ。


 「うわ〜! 綺麗〜!!」

 思わずバイクを停め、見入ってしまう。そんな2人に、地元ライダーが声をかけてきた。

 「いいでしょう、この風景。僕は、家からは遠くないんだけど、この風景は好きでよくここに来ます。あ、お急ぎじゃないなら、丘めぐりいかがです? ご案内しますよ。」

 「行きたーい!!」

 「いいですね! 是非お願いします。」

 この地元ライダーに率いられ、2人は美瑛の丘陵地へ吸い込まれて行った。


 マイルドセブンの丘、ケンとメリーの木…名称を持つ丘は、様々な形で多くの人々の目に触れている。それらは、もはや同じ日本とは思えない程広く雄大だ。そしてその向こうに見えるのは、十勝岳。山の風景が好きな真山にとって、最高のロケーションだ。

 「あと、僕のお気に入りの丘なんですけど…」

 古いワンボックスカーが置かれた、趣を感じるその丘。もちろん十勝岳連峰も見える。

 「この車、動かないのかな?」

 「ナンバーも付いてないしね。」

 「僕もはっきりとは知らないけど、休憩所みたいに利用されてるようですよ。」

 現役時代、どれほどの物を運んだのだろう? 日々働き、役目を終えたこの車。何も語る訳はない。しかしその姿は、旅人である真山と華菜に何か大切な事を伝えようとしている様にさえ感じられた。

 …引退して尚朽ちる事なく、農場で働く人々に癒しを与え続けていると言うのだろうか?

 そんな風に考えると、とても感慨深い。この車に人と同じ心があるとしたら、きっと幸せ以外の何でもないだろう。



 …終わり良ければ全て良し…かぁ。

 「え? 何?」

 「ん? あ、独り言だよ。」

 夜のキャンプ場。焚き火を眺めながら、真山はふと考えた。

 …必死に働いたり、一生懸命生きたその果てに、胸を張って「幸せ」と言える時が来るのなら。

 …地味でいい。輝かなくていい。いつも誰かの心の片隅にいられる自分であれたなら。そして、輝かしい人生に敢えて背を向けただるまが、この旅で求めているもの。それがもし俺と同じだとしたら? 俺はもしかしたら、だるまの心の扉を開けてあげられるかもしれない。


 「なあ、、、」

 「うん?」

 「俺さあ、元レーサーだって言ったよね?」

 「うん。」

 「実はね、レースやめてから、ちょっとした会社で働いてたんだ。」

 「え? そうだったの?」

 「ああ。結構な負債を抱えた会社だったけどね。そこで社内の体質改善に取り組んでたんだ。」

 「頭良さそうだもんね!」

 「そんな事はないさ。でも、同僚として働いてた奴は、凄くズル賢かったよ。俺がやった事を自分の手柄にして報告するような奴だった。それで奴は、出世して…」

 華菜は、目を丸くして驚いた。

 「俺の目の前に書類を、顔が見えないぐらい山積みにした。明けても暮れても仕事に追われて…家に持ち帰っても処理できない書類。俺はもう、人ではいられなくなった。働くロボットにされてしまったんだ。」

 「ジローさん…」

 「俺は…俺は、人と競い合う事も出来なかったけど、それどころか、世渡りすらまともに出来ないダメ人間なんだ。だから自分を取り戻すために旅に出た。バイクに乗ると、没頭できる。妻はそれを知ってて、だから俺に旅を勧めてくれたんだ。この旅で自分らしさとかそんなものを見つけて、最後には笑っていたい。俺は、そんな思いでこの旅を続けてるんだ。」


 話すべきか否か。しかし、このままの状態をズルズル引きずる訳にはいかない。

 …華菜の旅の理由って何だ?

 今だからこそ、知らなければいけないと思った。きっと華菜は目に見えない重い荷物を背負っているはずなのだ。自らを全て明かせば、きっと華菜も話しやすいはずだ。そうした上で彼女の旅の理由を聞こう。そう思った。


 「そんな事ないよ! ジローさんはダメ人間なんかじゃない! いつも周りの事ばかり考えて、損してるんだよ! 今だってそうじゃない。私なんかに…」


 真山は、華菜の言葉を遮る様に、ついにその一言を発した。

 「なあ、話してくれないか? だるまが旅に出た理由。何で俺なんかに……」

読んでいただき、ありがとうございます。

2つのキーポイント、気付いていただけたでしょうか?

ここから物語は大きく動きます。

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ