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本編第3話になります。
最北端・宗谷岬に辿り着く。そこからの展開を、作者が実際に体験したり、見たりした出来事をモチーフに描いています。
主人公・真山敏と、謎の旅人・白崎華菜。2人の楽しい旅は続きます。
朝、2台のバイクは再び海岸へ向かい、浜勇知からは日本海沿岸を北上する。通称オロロンラインだ。
昨日見た夕日とは全く異なる、青空と青い海。利尻富士までも青く、夕刻とは違った美しさを魅せてくれる。自然風景というのは、本当に面白い。
「え? 夕日見て泣いたの?」
電話の向こう、優香里の口調は意外にも軽かった。
「ああ、泣いてたんだぜ。」
「綺麗だったんでしょ? 感動したんじゃないの? う〜ん、そうか失恋でもしたのかな?」
「失恋かぁ。いや本人は感動したって言ったけど、そんなのとは何か違うんだよな。」
…考えすぎよ。
優香里は、またそう言った。
「気の済むまで相手してあげたら?」とは言うが、親子程の年齢差はあるものの、やっぱり相手は女性だ。一緒に居ることを、あまり快くは思っていないはずなのだ。それは仕方のない事だ。
「兎に角さぁ、俺も慎重に対応していくけど、動き方間違えたらヤバイ事になるかもしれねえから、逐一連絡は入れるよ。」
「間違える…の?」
「変な意味じゃ…」
「わかってるって、もう…うふふ。」
潮風の中を駆け抜け、2台のバイクはとある岬の駐車場に停まった。
「ここが?」
「違うよ。ノシャップ岬。ちょっと休憩しよう。宗谷岬まではここからまだ走らなきゃ。」
オロロンラインから宗谷サンセットロードへ。ここ稚内は最北端にある街だが、日本最北端の地ではない。
「ほんっとに遠いんだね。」
「言っただろ? 北海道って、めちゃくちゃデカイんだぜ。」
利尻島や礼文島へ向かうフェリーを横目に稚内市を抜け、海岸線を潮の香りを味わいながら走る。進路は徐々に北へ向いていく。やがて何やら賑わいを感じると、左手に駐車スペースが現れ、最北端の記念碑が目に入る。
「来ぃたあ〜!」
バイクを停めると、華菜は飛び跳ねるように記念碑に向かって駆けて行った。
日本最北端の地。
記念碑のその形は、北極星の一稜をモチーフにしているという。『平和と協調』を意味する円形の台座、北を示す“N”の文字。
「あれは?」
「サハリンらしいよ。
「ホントに最北端なんだ。」
「ああ。とうとう来たね。」
「自分のバイクに乗って、自分で来たのね!」
「そうさ。」
「こんな私でも…」
記念碑の奥、水際に立ち、佇む。
目に見えるもののみならず、空気の変化をも自らの肌で感じながら、長い長い距離を走って来た。そして華菜は、憧れの地に辿り着いた。しばし言葉を失った。最北の地から更に果てを望むと、思わずポカーンと口を開けてしまっていた。
「お、おい、だるま…」
「え? あ、やだぁ〜!」
…きゃはははは!
「私、思い切って旅に出て良かった。」
「はは…うん、良かったね。」
そこへ…
「こんにちは! もしよろしければ、写真撮りましょうか?」
1人のライダーが近付いて来た。彼は、華菜の笑う様子に思わず自身も楽しくなり、声をかけてみたくなったと言った。
こうして旅のライダー同士の細やかな交流が始まる。
「じゃあ、ポーズ。」
「ジローさんっ! 何? そのポーズぅ。」
「ははは…旅の恥はかき捨てだろ?」
「だからって、そんなポーズするのぉ? じゃあ私も!」
旅のライダーは、楽しそうな2人を見て、腹を抱えて笑った。
宗谷岬を出発し、オホーツク海に沿って走る。左手に海、右手に原野が続く。その風景は、“最果て”と表現するのが最も合う。街の風景を見慣れた2人にとって、さながら異国の地に居るようだった。
「せっかくだから、前を走りなよ。」
…俺の背中ばっかり見てないで、この素晴らしい風景を全部独り占めにしろよ!
真山は華菜の後に回った。目の前に誰も居なくなると、美しい原風景と自らが進む道が、はるか遠くまで見渡せる。まるで新たな道が切り拓かれた様だ。体中に浴びる風は、積もりに積もった埃を吹き飛ばす。華菜の絶叫する声が、真山の耳にも届く。
…本当に叫んでみたくなるな。
少し恥じらいながら絶叫する真山の声が、華菜の絶叫に続いて大空に響いた。
浜頓別からは再び前後交代すると、内陸部に分け入る。2人はこの日宿泊のキャンプ場に到着した。
宗谷岬から140km南下した所にあるそのキャンプ場は、フラットな立地に、整備の行き届いたサイトだった。温泉も隣接していて人気が高いと聞いて選んだが、それも頷ける。
「昨日のキャンプ場から、あんまり進んでないのね。」
「そうだね。ぐるっと回って戻ってきた感じだね。」
テントを張り、町へ買い出しに行こうとしたその時だ。
「今晩、ジンギスカンやろうと思うんですけど…ご一緒にいかがです?」
「あ、は、はいっ!」
「宗谷岬に居たお2人ですよね?」
「あっ!」
写真を撮ってくれた旅のライダーとの再会だ。
「え? 何? そんな事あるの? すごーい!!」
旅のライダーは、このキャンプ場に連泊していると言う。真山達とは逆回りで宗谷岬へ行き、ここに戻って来たのだ。こんな再会も、北海道の旅ではよくある事だ。
「この先の町中のスーパーでね、タレ付のラム肉があったんですよ。簡易なジンギスカン鍋も売ってたので買ってみたけど…仲間がいたらもっと楽しいだろうなって思って。」
全くそうだ。これぞ、北の旅の醍醐味なのかもしれない。
「アニマルって呼んでください」
「動物? 熊っぽくはないですね。エゾシカかな?」
「エゾリスで。」
「嘘だぁ〜! きゃははは!」
オフロードバイクに乗る彼は、道内の人気の高い林道を制覇した、自然派ライダーだ。
「この人はジローさん。」
「ジローさんって、あ! もしかして、あのジローさん? 似てますよね!」
…それはもういいんだけど。
「私は、高崎出身だから“だるま”だって。」
「似てるでしょ? はっはは!」
「コラ〜!!」
旅で出会った3人の宴が始まった。
華菜の焚き火台に火をつける。
「あ、あれ? 着かないよ?」
「これ、広葉樹だよね。着火しにくいけど燃え始めると持続するらしいから、料理に向いてるってさ。」
「“ナラ“ですよね。ナラって火力調節しやすいんですよ。炊飯とか鍋なんかには使いやすいですね。でも一気に火力上げるなら、針葉樹のスギなんかが向いてますよ。先に針葉樹燃やしましょう。」
「焚き火で火力調節???」
「ほぉ〜!」
焚き火台に付属していた五徳にジンギスカン鍋を乗せると、タレに浸したラム肉を投入する。ジュージューと音を立て、空腹感を刺激する。キャベツやニンジン、もやしなどの野菜も投入してみる。タレの味がとても良く、食が進む。もちろん酒もだ。そうなると、今度は会話も弾む。
旅の始まりには誰と話す事もなかった。真山は孤独を払拭し、人との触れ合う事で何かを掴もうとし、もがいていた。
一方で、自ら他人との触れ合いを絶ち、孤独を求めた華菜。彼女にとって、この様な宴など想像もし得なかったはずた。
それぞれが望んだものは、全く正反対だった。しかし今、辿り着いた場所で同じ出会いをし、同じ様に笑っている。
…人との間に壁は不要だ。
この時2人は、同じ事を実感していた。
「すみません。失礼だけど、最初は親子かな?って思ったんですよ。」
「年齢差で言えば、そうですね。尤もですよ。でも、本当に函館に渡るフェリーで知り合ったんですよ。」
親子に見られる…無理もない。そんな若い女性ライダーの1人旅。気になるのは、華菜のバイク歴だ。度胸と言おうか、冒険心と言おうか、思い切った行動に興味を抱いてしまうのは、同じ様にバイク旅を続けるライダーなら当然の事だろう。
いつからか自らを明かすのを拒む様になっていた彼女ではあったが、目の前にいる2人なら話せた。いや、話しておこうと思った。
バイクにずっと憧れを抱いていた華菜は、合宿所にいる頃に免許は取得したと言った。
「事務所では『危ないからダメ!』と言われたの。だけど、強引に取っちゃった。きゃはっ!」
「そうなんだ! 行動力すげーや!!」
「函館からずっと一緒だけど、俺も聞いてなかったなぁ。じゃあ、バイク買ってから、まだそんなに日にち経ってないんだ。」
そう、華菜は初心者ライダーだったのだ。2人は再び驚いた。
一方で、まだ多くを知らない彼女には、ひとつ疑問があった。バイク初心者ならではの疑問と言えるかもしれないが。
「ね、走ってたら、バイクの人いっぱいすれ違うじゃん。何でみんな手を上げるの?」
「ライダー同士の挨拶さ。『ヤエー』って言うんだ。」
「こんにちは! とか、気を付けて! とか、いろんな意味を含んでるんですよ。」
「そんなのやってるんだぁ。何となく振り返してたけど。」
「勉強になったね、ははは。じゃあ、このバイクを選んだのは?」
「足着くし、転びにくそうだから。きゃはははは!」
「片足でグルグル回る奴が、何言ってんだよ! ははははは!」
華菜は戯けながら踊ってみせる。
「ホントに即興で踊るんだ! すげーや!!」
旅人同士の宴は、とても新鮮だった。
驚きと笑いにあふれた夜は更け、やがて静けさに変わっていった。
一方、テントに潜り込んだ華菜の心の中に、新しい葛藤が生まれていた。
…何故? わかんない。1人になろうと思ったのは、人と一緒に居ると傷付くから。私はもう、傷付きたくない。だから1人を選んだはずなのに。
現実を捨て去るが如く飛び出したのが、この旅だった。その途中で目の前に現れた、ジローと呼ばせてもらっている男性。華菜は、いつしかこの男性に依存している自分に気付いた。
一緒に居ると、とても楽しい。全てを忘れ、旅に没頭出来る時間を提供してくれる。父親程もある年齢差だが、そんな事はどうでもいい。
…この人は…ただの旅仲間? そうよね? そのはずだよね?
華菜の心は、少し危うく動いていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
実体験の旅での出会いは、いつもこんな感じでした。
楽しければ楽しい程、心は動きます。
次回もお楽しみに!




