二十二
そして展覧会の会期が終了し、木守りが香川に帰る日がやって来た。
木守りには世話になったので見送りをしたいと思っていたが、部外者の自分が行ってもいいものかと悩んでいた。しかし帰る前日まで大学の作業室に来ていた木守りから直々に顔を見せろとお達しが下った。
木守りの本体は既に他の作品と一緒に美術品輸送用のトラックに運び込まれており、今は美術館の出入り口で遥を始め東院美術館の館員や付喪神と別れの挨拶をしているところだった。
「小泉さん」
木守りが藤代や獅子丸と話している所を見ていると光に声を掛けられた。
一方的に引け目を感じていた相手に話し掛けられ、明らかに動揺する明里。勝手に苦手意識を感じて避けるのは駄目だとは思うのだが、一緒の場所に居る事が既に居たたまれない。
「木守り様が大変お世話になりました」
「え!?いや、そんな!」
光は明里に対して深々と頭を下げ、明里は首が飛びそうなくらいの勢いで頭を左右にぶんぶんと振る。
顔を上げた光は少し悲しそうな表情を浮かべていたので、明里はますます焦った。
「私ずっと木守り様がずっと悩んでいらっしゃったのを知っていたのに、どうすることも出来ずただ見ていただけでした。ずっと近くにいたのに、肝心な時には役立たずで」
「そ、そんなことありません……!」
光が話しているのに耐えきれず口を挟んでしまい、やってしまったと手で口を塞ぐが時既に遅しである。もう後には戻れない。びくびくしながら言葉を続ける。
「木守り様が私の言葉を受け取ってくれたのは、光さんみたいにちゃんと木守り様を支えて下さる人が居たからだと、思うんです……」
話しているうちに段々と言葉が尻すぼみになって顔が俯いて行く。
なんだか喋っているうちに伝えたい事がちゃんと伝わっているか不安になってきた。明里はそっと光の表情を伺うと、光は泣きそうになりながら笑っていた。
「そうだったら、良いな」
明里の言葉が、想いが、光にきちんとした形で届いたのか。それは神のみぞ知ることだろう。
運送会社の人に呼ばれた光は、明里に礼を述べてこの場を後にした。
光と入れ替わる様にしてやって来たのは遥達と話していた木守りだ。
「色々と世話になったな。お前さんと居る時はなかなか愉快だったぞ」
「あはは……ドウモアリガトウゴザイマス」
誉められている筈なのに誉められている気がしない。明里は遠い目をしてなんとなく礼を言う。
しかし木守りは目を細めて柔らかい笑みを浮かべた。
顔に刻まれた皺に深みが増す。
「多くの人に認められた儂が言うのだ。お前さんは愉快で良い人間だ。儂が言えた事では無いが、お前さんも自信を持て」
木守りの言葉に明里は目を丸くさせて思わず吹き出した。
「仰る通りですね」
秋が深まり冬が近付いて来る。じきにまた別れが訪れる。
この出会いはいずれ訪れるであろう日の布石となる。
翌年の実りを祈って大地に捧げる「木守り」の様に。




