065
場面はクルセウス家に再び戻る。
半身のモンスターを残しての帰還は気が引けるものの、多くの見張りを残してアール達は一旦屋敷に帰還した。
怪我人の騎士団員や兵士達十数名と、ギルド冒険者達も一緒である。
屋敷に到着したアール達はジュードの書斎へ報告に行くべく馬を下りた。
すっかり空は暗くなっていたが、屋敷の空気は明るかった。
伝令兵が先に大まかな報告を済ませている為に、モンスターを半分とは言え倒した事実が屋敷を明るくさせていたのである。
門扉に松明が灯り、見張りだけでなく屋敷の前で侍従長とメイド達が出迎えてくれた。
と言うか、侍従長とメイドに関しては完全にタスクチェックの為と思われる。
案の定タスクは真っ黒な洋服に真っ黒な顔で屋敷に戻って来たので、メイド達は無言で我が袖を捲った。
その様子に怯んだタスクはついアールの後ろに隠れたが、今回はアールによって服を掴まれてしまう。
「君の汚れ方は毎回容赦が無いな。」
「一つ目が俺と解らないようカモフラージュしてたんだから仕方無いだろ。」
タスクなりに森の中で過ごす流儀があるらしく、悪びれる様子は無い。
侍従長も諦めてはいるが、汚れたままのタスクを屋敷に入れる訳には行かないので先に浴室に向かうよう促した。
「私も一緒に風呂に入ろう。」
同じようにどろどろに汚れた上半身タンクトップ姿のアールが、タスクを見下ろして言った。
「風呂くらい自分で入れるから。」
「時間短縮になる、気にするな。」
断りを入れても意に介さずタスクの奥襟を掴んで浴室に向かうアール。
いつもは着痩せしているが、タンクトップ姿だと無駄の無い逞しい筋肉を確認出来てメイド達の気もそぞろだ。
クルセウス家のメイド達は、完全にタスクとアールの扱いを変えている。
タスクは汚れ物扱いしているが、アールはアイドル扱いされている。
アイドルが頼めば背中位洗ってくれるに違いない。
ついでに色んな所も喜んで洗ってくれるだろう。
女性達の突き刺さるような熱い視線を他所に、アールは誰かを探す。
彼にとって女性の視線は気にならない。
慣れているからだ。
ジュリアスがこの様子を見れば『男前は皆死ねば良いのに。』と呟くに違い無い。
親猫に首根っこを咥えられた子猫のように大人しくしているタスクが、アールの様子に気付いた。
「誰を探してるんだ?」
「ジュード様専門のメイドだ。ここに居るメイドは書斎に入る許可を許されていないからな。…屋敷内かな?」
つまりタスクを洗う係は、かなり下の階級のメイドと言う事になる。
屋敷内で普通に廊下を歩いていても、タスクを洗ったメイドと鉢合わせた事が無かった理由がやっと伺い知れた。
見上げると窓から幾人かのメイド達が顔を出している。
それぞれ思い思いの騎士達に小さく手を振っている様子が伺える。
「お伝えするべき事がございますなら、私がお聞き致しますが?」
侍従長がアールの傍へ来て尋ねた。
「ああ侍従長、忙しいのにすまないな。風呂上りに報告に向かうと伝言を頼もうと思っただけなんだ。」
「お伝え致します。」
深く礼を取る侍従長に頼むと伝えると、アールはタスクを連れて浴場へ足を向けた。
そこへ着替えを終えたクラウディアとばったり出くわした。
先程の一件で仲直りしたので、タスクが気兼ね無く『よぅ』と手を挙げ、クラウディアは普通に笑顔を向けてくれる。
そしてアールの上着を綺麗にたたんで笑顔で差し出す。
「ありがとう、助かった。」
「どう致しまして。」
上着を笑顔で受け取るアール。
「お風呂とは優雅だね。」
「君も一緒に入るかい?」
爽やかに冗談をぶちかますアール。
勿論彼女が断ると解っていての発言だったが、アールが女性に対して距離感が余り無い事にタスクは気付いていた。
「ふふ。ここのメイド達に殺されるよ。」
軽いセクハラを笑顔でかわすクラウディア。
そしてふとタスクを見る。
「でもタスクが一緒なら私も入ろうかな?」
「あほか、もっと自分を大事にしろ。」
タスクの突っ込みにアールが笑う。
「ははは。飲み屋のオヤジみたいだな。」
「あんた前から思ってたけど、遊び慣れて無いか?それとも大人の余裕なのか?」
タスクがアールを睨む。
どんな態度で接していようともアールの自由なのだが、最初の出会いが聖人君子のようだと感じていただけに、タスクから見たアールへのイメージは総崩れだ。
見た目も真面目そうな男前だと言うのに飛んだギャップもあったものである。
「女性とは誠実にお付き合いしているよ。」
「何かそれなりに遊んで来た男の余裕を感じてムカつくんだけど。」
「そりゃあ二十歳前後の内は多少は。しかしこの年にもなって、いつまでも遊んだりしないよ。」
と、アールは誠実な笑顔を向け、それを見たタスクが舌打ちする。
「発言が軽いんだよ。」
二人の漫才を黙って聞いていたクラウディアが楽しげに笑った。
「あはは。うん今の面白かったからやっぱり私も入ろう。」
「何が面白いんだ?良いのかアール。」
「うーん、冗談だったんだが。」
意外に乗り気だったので怯むアールとタスクの姿に
「あ、俺も参加して良いですか。」
と嬉々としてサットンが参戦する。
「お好きに。」
クラウディアが笑顔で答えながら、浴室へ向かうアール達の後を着いて行ったのだった。




