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無理矢理されたのは俺なのに傷つけたのも俺なんすか
落ち込むタスクをしみじみと眺めてから、タスクの頭を撫でたアールは10歳の子供に男と女の機微も解るまいと苦笑し、ジュリアスとクラウディアの元へ歩いて行った。
3人が何か話している姿を遠目で確認したものの、タスクはいつものようにアールの後に続く気には到底ならなかった。
その間、一瞬ジュリアスがタスクへ目を向ける。
その視線に感情の色は無く、すぐアールへ視線を戻す。
何を話しているのか解らなかったものの、不意にジュリアスが大声で笑いながらアールの背中をバンバン叩くと他の冒険者達に声をかけた。
「手前ら!ひとまず片付けが終わったら軽く祝杯と行こう。騎士団長様の驕りだ!」
冒険者達が嬌声を挙げる。
また犠牲者を出した中、祝杯はどうかと思うがアールは約束を果たす事にした。
戦争でも何でもそうだが勝ったのならまず生き残った者達を労うべきだ。
それから何事か話しながら上着を脱ぐとクラウディアの肩にかけてやる。
頷いたクラウディアが上着をかけたまま茂みの向こうに行く。
遠慮なく借りることにしたようだ。
彼女のマントとアールの大きな上着があれば隠せるものは隠れるだろうし目のやり場に困らずに済みそうだ。
何となくその様子をタスクは目で追っていたが、クラウディアと目が合う事は無かった。
――――――――――
クラウディアが木の陰でアールの上着を羽織っていると、その反対側の木に腰掛ける者がいた。
ちらと目線を向けたが、それが誰か解っているせいかクラウディアは何も言わない。
腰に自分のマントをスカートのように巻き付けると、上着の前ボタンを下から留め始めアールの匂いがクラウディアを包んだ。
意を決したように気の反対側にいる誰かが口を開く。
「話して良いか。」
タスクだった。
「いいよ?」
大きな上着のボタンは閉め辛く、幾度か閉め直しながら回答するクラウディアには、傷付いている様子も怒っている様子も無い。
とても静かな声をしている。
暫く沈黙が流れたので話すんじゃなかったのかな?と首を傾げたクラウディアが後2つのボタンを残して木の向こうにいるであろう少年に視線を向けた。
「俺まだ子供で…どうして良いか解らなかったんだ。」
やっと漏らした言葉は、まるで叱られて罰が悪そうに謝りに来た子供のような声だった。
それがおかしくてクラウディアは少しだけ笑った。
「アールから聞いた。10歳だって?」
「…ん。」
「服は着たから顔を見て話そう。」
まだボタンを留めている最中だったが、彼女は余り気にしていない。
木の陰から顔を出したタスクとクラウディアの目が合う。
タスクは黙ったままクラウディアの横に腰掛け、クラウディアも同じ動作をする。
タスクから引いたような視線は感じないので、落ち着いたのだろうと認識したクラウディアは話し始める。
「私達獣人族は、さっきみたいに姿を変えられるようになって初めて成人扱いになるんだ。」
「じゃあ個人差?」
「そう。早い者は7~8歳、遅くても20歳までには変身するかな。」
「クラウディアは何歳で成人したんだ?」
「私は幾つだったかな?13歳位かな。」
「今いくつなんだ?」
「ふふ。女性に年齢を聞くものではないよ。」
クラウディアは笑ってはぐらかした。
「…。」
そうか、とタスクは思う。
タスクの目の色が変わって腕に変化もあったからクラウディアはやはり獣人族なのかと思ったのかも知れない。
クラウディアにとって年齢は関係が無く、獣人族かどうかが問題であり、変身出来るか出来ないかで大人かどうか判断したのでは無いだろうか。
つまりタスクは変身できるのなら大人だと判断しての行為だったのだ。
また大人同士ならちょっと良いなと思えば、ちょっかいをかけて様子を見るような大人の駆け引きもあったのかも知れない。
大人の付き合いはタスクには解らないが、クラウディアは滅多に出会いも無いだろうから、一期一会を大切にした結果、女性自ら口説きに来たのだとしたら勘違いさせて申し訳無かった気もして来る。
なら獣人族では無い旨を改めて説明するべきだろう。
タスクはそう思って口を開いた。
「俺らは歳月をかけて成人するらしい。10代や20代じゃ子供の範疇なんだって。見た目がどうであれ身体は子供を作れるように出来ていないって言うか…。」
「人間が?それとも…君が?」
タスクは見られた以上、その質問に詳しく返答しなくてはならないと思う。
本当はどれだけ信用のおける人であっても人以外の姿を見せてはならないと育ての親から執拗に指導されていたのだが、黙ってやり過ごす事も出来ない。
しかもプロポーズされた気がするし。
たかが口付けと誰かが言うかも知れないが、タスクにとっては神聖な行為である。
好意を抱いていない相手なら、身体を重ね合わせるような行為はしない筈だ。
多分。
「俺が。…育ての親から聞いた話しか持って無いから詳しくは知らないんだけど。」
タスクの言葉に少し思案したクラウディアは更に質問を綴った。
「完全に変身した経験は?」
「覚えてないけど何回かある。その度に育ての親は意識の無い俺を連れて引っ越したけどな。」
クラウディアは首を傾げて隣にいる少年を見つめた。




