062
燃えました
かくして3mもあるモンスターの半分は、アール達クルセウス領の兵士及びギルド冒険者の手によって滅ぼされた。
広場周辺はモンスターの焼け焦げた匂いが充満している。
落ち着いた様子でアールは部下に指示を出す。
火種が周囲に飛び火したので、大火事になる前に兵隊達が森の少し奥から木々を切り倒す。
焼け焦げて未だくすぶっているモンスターの残骸をかき集める兵士達。
荒れ狂うモンスターのお陰で怪我や火傷を負った冒険者や兵士達の怪我を手当てする者もいる。
増えた死体を数え、始末する者もいた。
一片も残したくない兵士達がモンスターの残骸を更に細かく粉砕している姿も見受けられた。
まだ不安を隠せない為に、その行動は誰ともなしに繰り返されている。
何処かで区切りをつけたいが、アールもジュリアスも一言も発さない。
ただ落ち着いて指示を出すのみだ。
そんな様子を眺めながら、タスクは残された半分のモンスターに思いを馳せる。
あの時モンスターを追いかければ倒せていたのだろうか。
しかしさっさとアール達と合流したからこの結果になれたのかも知れない。
別にタスクが手伝わなくてもアールに任せていれば、時間は掛かっても同じ結果になっていたかも知れないが。
何事も分岐点はある。
半分しか倒せなかったのか、半分は倒せたと考えるかの違いも在る。
しかも過ぎた事だ。
頭を振るタスクの隣に、いつの間に人型に戻ったのか、マントのみ身に付けて膝から下の美脚を覗かせたクラウディアが立った。
脚フェチのサットンが口笛を吹いてクラウディアを賞賛すると、彼女は口角を上げて手を上げ指先だけをヒラヒラさせて挨拶する。
その手を移動して、ぼんやりと思量するタスクの頬に触れた。
タスクが視線をクラウディアに移すと、彼女の唇がタスクに触れて啄ばんだ。
クラウディアの生脚を横目で眺めていた兵士達のどよめきが耳に入り、得た事も無い柔らかな感触に驚いて一歩引くタスクに、そのまま両頬を抑えてクラウディアの唇が追いすがる。
口内に柔らかな何かが入って来てタスクの舌を絡めとった。
柔らかくて甘い痺れるような感触を切っ掛けに、タスクはクラウディアの額に手をかけてそのまま抑えつつ無理矢理唇を離した。
「何やってんだ・・・てめえ。」
タスクの戸惑いを他所に、押された額をそのままにして顎だけ突き出すと、その戸惑う唇をぺろりと舐めてクラウディアは微笑んだ。
「んがーーーっ!!」
悪びれた様子の無い彼女の微笑がタスクを焦らせた。
抑えた額に更に力を込めて引き剥がすと背を向けずに彼は10歩引いた。
口の中でまだ何か動いている柔らかな感触が残り、混乱しながら手の甲で唇を拭う。
引き剥がされたクラウディアは、一歩引いてタスクを眺めると一つ嘆息する。
「お礼にキスしただけなのに酷い扱いだなあ。」
「一言ありがとうで良いわ!」
「ありがとうを行動で表現したんだよ。感想は?」
「…あんま解らんかった。」
「じゃあ、もう一度。」
「いらんいらん。」
一歩前に出ようとするクラウディアに、焦りながら首を振って辞退するタスク。
クラウディアが更に一歩大股でずいと進むと彼女の生脚太ももがマントからはみ出る。
同時にタスクも一歩引く。
それでも足りなくて少し離れた場所で見ていたアールの後ろまで引くとそのまま隠れてしまう。
アールは方眉を上げてやや振り返りながらタスクを見た。
「おーい。そんなに逃げなくても取って食いやしないよ。」
置いて行かれたクラウディアが口に手を添え大きな声を出した。
その声を聞いてもアールの後ろから出て来ないタスクが、小声でアールに助けを求める。
「どうしたら良いんだ。」
「ん?」
一部始終を目にしていたのに、タスクの発言の意味が解らず首を傾げるアール。
「…あそこまであからさまに触られた事が無い。どうしたら良い?」
「お礼はしかと受け取りました。こちらこそありがとう。とかで良いんじゃないか?」
アールが笑って回答するとサットンが横入りする。
「ついでに筆もおろして貰えば?」
「遠慮する!」
筆の意味が解らないまでも、サットンがシモネタを発したと珍しく機敏に気付いたタスクが、幾度も横に頭を振ってクラウディアに視線を移した。
彼女はいつの間にかアールの二歩手前まで近付き、立ち止まってタスクの様子を伺っている。
驚いてアールの背中に隠れるタスクにサットンとアールは又も苦笑する。
「そんなに驚くとは思わなくて…ごめんね?」
同じく苦笑したクラウディアが首を傾げて微笑んだ。
それを聞き、これ以上攻撃(?)は無いと悟ったタスクがゆっくり顔を出す。
「…あ、いや俺も大袈裟でごめん。…お礼は受け取りマシタ。」
「うん、解った。」
クラウディアは寂しそうな顔で頷いて踵を返すとジュリアスの元へ合流して行った。
更に同じく一部始終を眺めていたジュリアスが無表情でクラウディアを迎え入れる。
小さな事件にさしたる感想も無いのか、何事も無かったかのようだ。
「馬鹿だな、女性に恥をかかすんじゃないよ。」
サットンが溜息をついてタスクの頭を拳でグリグリ抑えた。
「…いてえ。」
どう回答して良いか解らないタスクを見てアールが苦笑した。
「初めてでディープキスまでされちゃあな。」
そう言われつつタスクは寂しそうなクラウディアの表情が気になり始める。
「…俺悪いことした?」
「まあ突然じゃあな。」
タスクの問いかけにサットンが一応フォローを入れた後、思い直したように添える。
「でも俺なら喜んでもっと色々教えて下さい!って尻尾振って飛びつくね。」
そしてアールもクラウディアへ視線を送り一言添えた。
「傷ついていないと良いがね。」
がーん。
言い知れない衝撃の言葉がタスクの胸に刺さる。
その痛みはモンスターの触手攻撃よりタスクには有効だった。




