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森を抜けろ
タスクとクラウディアが森を同時に抜けると、派手にモンスターに火が付いた所だった。
タスクは逃がしてしまったが、アール達は確実にあの残り半分のモンスターに火をつける事に成功していたのである。
アールとジュリアスは急に共闘し始めてモンスターを上手く森の外へ誘導した。
触手を伸ばして追いすがるモンスターに待ち構えていたサットンの弓兵が攻撃を繰り出したのである。
数百本に渡る矢に火を灯した攻撃と、油を撒かれたモンスターが地面を転がる。
一旦着火すると盛大に燃えるらしい。
咆哮とも悲鳴ともつかぬ声を発してのた打ち回り、兵士達やギルドの冒険者達を巻き込んだ。
そして森に逃げ込もうともがく中、アール達騎士団部隊が森とモンスターの間に立ちはだかっては牽制する。
体中炎にまみれたモンスターが怒り狂い、毛玉から巨大な目が現れた。
アールを睨みつけ燃えたままの身体で火のついた触手が襲い掛かる。
「撃て!」
アールの腹から出す声が弓兵の耳に届くと同時に、炎の矢はモンスターの目にめがけて何十本も放たれた。
再度油をかけられたモンスターから嫌な匂いと煙が湧き出、辺りを支配する。
大きな目玉に更に第2第3の炎の矢が計数百本刺さり、モンスターは斜め後ろへ身体を傾けた。
しかし怒りの方が勝るのか憤激と共に立て直す。
真っ黒な毛玉の下部が下限の月のように開いて幾つもの牙がのぞく。
怒りの咆哮を飛ばすと、口を開閉しながら上下に牙をガチガチぶつけつつ触手を地面に差し込んだ。
身体を低くし、幾つもの触手を地面に差し込みながら昆虫のように猛スピードで前に進み出した。
昆虫と言うよりそれはまるで蜘蛛のようである。
慌てて弓兵とアールが左右に別れてモンスターを避けた。
黒い灰が周囲に飛び交いアールは口を押さえつつ指示を繰り出す。
「もっと森から引き離せ!」
そうしてアールが率先して森から離れると、怒りの塊と化したモンスターがアールへ向き直り蜘蛛のように追いかけた。
モンスターの動き一つで地面に穴が空き、咆哮と熱気が辺りを支配する。
アールに怒りを向けてくれるので、森から離れるとモンスターも向きを変え着いてまわった。
これは良いと、モンスターからそう離れず上手く森から離れて行くアール。
炎にまみれた触手が襲いくるも身をかわし続けている。
サットンが弓兵に再度攻撃指示を出す。
弱る様子の無いモンスターの足を何としても止めねばならない。
アールが囮を買って出ているが、いつ喰われてしまうか解ったものではない。
「なんちゅうバケモノだ。」
サットンは未だスピードの落ちないモンスターに舌打ちを隠せないでいる。
憤懣を撒き散らすように哮り立つモンスターに誰も近づけないでいた。
このまま森にだけは行かせるな。
その言葉を守ろうにも、尋常じゃないモンスターの動きはアールに届かない鬱憤を周囲の兵士へぶつけるように薙ぎ倒して暴れた。
恨みの塊のような声が兵士達の嫌悪感を刺激する。
右へ左へと逃げ惑いながら森から更に離れるアールを飛び道具を持たない兵士達が見ているしかない状態が続いたが、その中をタスクが走り出した。
モンスターが地面に触手をめり込ませて体重を乗せる瞬間を狙い、ロングソードで触手を切り落としたのである。
大きな火の玉はバランスを崩し派手に倒れた。
このまま刻んでも良かったが、出来れば何もかも燃え尽きて欲しいと誰もが祈った。
両断しても増殖するのなら切る訳には行かない。
モンスターはまだ動こうと再度何十本もの触手を伸ばして上体を持ち上げるが、脚代わりにしようとする触手をタスクがまたもや切り刻んだ。
何処へ逃げても自身に纏わり付く炎が次第にモンスターを弱らせた。
アールへ触手を伸ばしても、触手の先が躍動的な炎の動きで消滅する。
ついに弱体化したと判断したサットンとジュリアスの指示で冒険者や兵士達が大剣や槍で叩き始めた。
怒りの声は響いていたが、大勢でかかる攻撃に為す術も無くモンスターの声は弱化する。
再度触手を出そうともがく仕草をしたまま、ついにモンスターは動かなくなった。
暫く様子を伺っていた兵達は、動かないモンスターをじっくり観察すると、未だ燃え続けるモンスターの亡き骸を囲み誰とも為しに歓声を挙げた。
半分と言えどついにモンスターを倒した喜びの声は、森の中にまで響き渡った。
そうは言ってもあのしぶといモンスターが又動き出すとも限らない。
黒く燃え続けるモンスターの炎が弱まる度に誰かが油を注ぐ。
モンスターは全く動く気配も無かったが、次第に形を崩して花がしおれるかのように小さくまとまって行った。
ついに燃えるべき素材が炭と化した為か、モンスター自体が消し炭の塊となった。
しかしそれでも兵士達は剣や槍でよってたかって念入りに攻撃を繰り返した。
大きな消し炭が動き出すのではと誰もが不安だった為、硬い真っ黒な塊を何度も突き崩した。
巨大な敵を倒すには大勢で力を合わせて倒すしかない。
それは自然の摂理である。
でなければこちらが殺されてしまうのだから。
そうと解っては居ても何故か気分の悪いものを見た気がするタスクは、ロングソードを鞘に収め眉を寄せて目を逸らした。




