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触手とクラウディア
モンスターの触手に覆われて見えなくなったクラウディア。
「てめぇ…!」
タスクの頭の中で何かが切れた音がした気がした。
瞳の色が燃えるような金色に輝く。
一歩一歩足を踏み込む足に尋常じゃないスピードが乗って、見る間にモンスターに追いついて行く。
金色の瞳は獲物を捉えて逃さず、ついに横に追いついた。
真っ黒な毛玉がタスクに触手攻撃を仕掛ける。
触手が飛んできたので右腕で払いのけると、地を蹴ってモンスターに飛びついた。
ビキビキと関節が軋む音と共にタスクの腕の形が変化する。
硬い爪が伸び、見る間に腕が漆黒に変貌して行く。
見開いた金色の瞳がモンスターの姿を見据え、タスクの腕がそのまま真っ黒な毛玉の中へ丸で底なし沼に手を入れたように簡単にめり込んだ。
モンスターが悲鳴ともつかない咆哮をあげて暴れたが、タスクは怯まず更にもう片方の腕を突っ込んだ。
「がああぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
タスクの咆哮が周囲に轟く。
一杯に口を開いて長い牙をさらけ出したタスクが、モンスターの身体を両サイドへ引き離そうと力を込めると、真っ黒な毛の塊がメリメリと音を立て始める。
地面に足をつけて踏ん張ると、更にモンスターの身体は軋みながら裂けた。
何とか阻止しようと暴れるモンスターが触手を伸ばしてタスクに巻き付いたが意に返さない。
引き裂く音がモンスターを猛り狂わせた。
タスクの体中を触手が巻きつき、腕から体、脚、顔の順番で毛髪に埋もれて行くが、それでもモンスターは嫌な音を立てて引き裂かれて行く。
闇色の触手にまみれて金色の瞳だけが光る。
ふと闇の奥に白いものが見えた。
タスクにはそれがモンスターの一部で無い事は明白に思えた。
更に力を込めて引き裂いて行くと白いものは大きくなり、毛だと解った。
闇から抜け出そうともがく白い毛に真っ青の鋭い眼光が現れタスクを射抜く。
それが見えた刹那。
引き裂くモンスターの中から、それは飛び出した。
全身真っ白のそれは大きな牙で体内を食いちぎり、タスクの胸を飛台にして跳ねた。
タスクを飛び越えて行くそれを身を仰け反って見送ると、引き裂いていた腕の力が止まる。
その隙にモンスターが離れ、タスクと距離を取りながら向かい合った。
モンスターから飛び出したそれは四足で地面に降り立って踵を返すとその場で咳き込んだ。
吐瀉物と共に何十本もの黒く長い毛を吐き出すと、威嚇の声をあげて体勢を低くした。
見たことも無い真っ白で大きな狼がモンスターを睨み上げる。
「グアアァッ!」
威嚇と共に狼はモンスター側面に飛びついた。
真っ黒な毛の塊に食らいついた狼は己の丈夫そうな頭を振って、モンスターを地面に叩きつけては左右に降った。
タスクの手からとっくに離れたモンスターを近くの岩場に更に叩きつけガフガフと食らいついている。
惚けていたタスクも我にかえる。
腰の剣を握ったタスクが助太刀しようと近寄ると、モンスターの何十本もの触手がスクリュー上に束ねられて狼の腹部を殴りつけた。
「ぎゃふっ!」
狼が飛び退いた隙にモンスターも反対方向へ飛び退き、木々に触手を絡め取るとゴムみたいに体が持ち上がった。
空を飛ぶように逃げようとするモンスターをタスクの剣が切り裂く。
しかしそれを読んだのか更に他の触手が別の木々に絡みつき、まるで避けるように方向転換するとそのまま奥の木へ奥の木と移っていくモンスター。
朝以上のスピードでも今のタスクなら追える。
剣を持ったまま茂みの中へ一歩踏み入れた。
「グアゥッ!」
呼び止められた気がしてタスクは振り返った。
先程の闇色のモンスターから生まれた白い狼がタスクを見上げていた。
全長2mあるだろうか。
真っ白な毛に覆われた狼の首はガッシリと太く、耳は大きく、鼻も長く、尻尾は太く、真っ青に光る眼光は鋭かった。
ごつい四足で地面に立つ姿は紛れも無い狼である。
タスクは剣を握ったまま声をかけた。
「クラウディア。」
声をかけるタスクに真っ白な狼が近付くと、濡れた鼻面を彼の手に押し付けた。
その仕草はまるで肯定したように感じる。
狼の動物特有の美しい身体のラインや、顔立ちをしみじみ眺めていると、タスクの瞳の色がいつもの黒曜石色に戻って行く。
クラウディアに触れようとして躊躇い自分の掌を確認する。
いつもの手に戻っていると解るとクラウディアの胴体を撫でた。
硬い毛だったが暖かくて血液の流動を感じる。
狼は軽くタスクを一瞥したが抵抗はしない。
「…かっけぇな。」
口角を挙げて格好良いと褒めると、クラウディアが二本足で立ち上がりタスクの頬を舐めた。
褒めてくれたお返しのつもりなのだろうか。
「俺の目を見たか?」
クラウディアは何も言わずに青い瞳でタスクを見つめた。
否定した様子は無いので多分見たのだろうと判断する。
間も無くクラウディアは走り出した。
一瞬振り返って着いて来いと言う仕草をし、狼はまた走り出す。
彼女が向かっている方向が先程アール達と別れた地点と解るとタスクも倣って走り出す。
そう言えばもう半分のモンスターを置いて来た。
アール達は無事だろうか。
我に返って見ると急に心配になり、走る足に力を込めた。
――――――――――
タスクとクラウディアは並んで森林を駆け抜けていた。
狼の全力疾走を10歳の少年はものともせず着いて行く。
先程拾った彼女のマントを咥えたまま走る狼が、ちらとタスクを見る。
疾走する少年の漆黒の髪が揺れて、二つのブラックオニキスのような瞳が前を向いている。
一暴れする前から真っ黒に汚れきっている服装であった為に、少年は頭の先から爪先まで真っ黒であった。
いくら目で観察した所でこれ以上の変化も無い。
クラウディアはそんなタスクから視線を外して前を向き直ると走るスピードを更に上げた。




