044
報告連絡相談
ジュードについて書斎に入ったラファエレは、まずはと感謝された。
「どうやったのか解らんが、娘の笑顔を取り戻してくれて感謝する。昨日の一件で何かしていても急に表情を強張らせていたので、ああ言う表情を見て安心した。」
「いえ、私は何も…こちらこそ、お嬢様が行方不明とは知らず、何と申して良いか。」
「うん。それは構わない。だが、一旦屋敷に戻ったのなら報告に来い。」
「…はい。」
小さくなって項垂れるラファエレを他所に、ジュードは机に備え付けられた引き出しを開くと、タスクから借りていたアクセサリー類を取り出した。
「広場の地下に行って来たのだろう?報告を聞こうか。」
「はい。」
ソファに腰掛けるよう指示され、言われるまま座るとラファエレは広場で見てきた内容を説明し始める。
メイドのエルミーラが部屋をノックしお茶を持って来てくれる。
優しそうな微笑を浮かべ、客用テーブルに良い香りのするお茶をカップに注いでくれると、湯気と液体が流れ出る音がラファエレを落ち着かせてくれ、子皿に並べられたお菓子が彼女の目を楽しませてくれた。
メイドが部屋を出た後も報告は続き、ジュードは幾度か頷いたり、質問を挟みながら腕輪を手にとって指先で撫で付けつつラファエレを見る。
「ルーン文字の解読は基本だそうだが?」
発言が少し厭味くさくてラファエレに突き刺さる。
「言い訳と思われても仕方が無いと思いますが弁解はさせて下さい。200年前のルーン配列と現代の文字配列は統一性はあれど、言い回し等かなり違いますし、暗号と同じなので解読に時間がかかるのです。」
「別に構わん。他の魔術師が現れた際、その話が本当かどうかが証明されるだろうし。」
然程興味も湧かない話だったようだ。
言い訳ももっと面白く話してくれれば耳を貸したくなるようだが、今の所面白い話に発展していない。
「私は見習いですから…比較して頂ければ、トコロテン式に首間違い無しかと存じますけれど。」
少し悲しい気分になったが、それは仕方が無いと受け入れている。
「トコロテン?」
領主様は首を傾げて見上げた。
「ご存知ありませんか?東大陸の寒天料理で、出口に格子上に網を張った天突きと呼ばれる水鉄砲みたいな四角柱の筒にトコロテンを入れて押し出すと、にゅーっと糸状の寒天が…。」
ラファエレが両腕と指で天突きを表現し、それを押し出すような仕草をした所で我に返る。
冷静なジュードの視線が痛くて段々声が小さくなる。
別におどけようと思ってはいない。ただ、トコロテンをご存じ無かったようなので、解りやすく説明しようと思っただけである。
何か言葉を綴っていないとこの男と二人きりは辛いのだ。
爬虫類の様に感情の無い目で射抜かれて落ち着かないのである。
「つまりそういう突き出されて先へ進む状態をトコロテン式と。」
「…はい。」
「博識だな。さて、これはタスクの育ての親がいつも身に付けていたアクセサリーだが。」
取ってつけたように褒められたが扱いが軽く、さっさと別の話題を振られる。
無視されるよりマシかも知れないが、相手にされていないと思うと胃が痛くなる。
その様子に気付いたのかジュードが声を掛ける。
「君を雇用し続けるか否かが決まるのは、3人目の魔術師が現れてから。これは変わらん。安心して現作業を継続し業務に励みたまえ。」
「ありがとうございます。…で、そのアクセサリーがどうされましたの?」
慰めとも思えない発言を聞き、一息入れたラファエレが質問した。
どう言い訳しようと現状は変わらないと聞けば返って開き直れると言うものである。
「タスクの育ての親は魔術師だった。そういう者が身につけていたのなら、どれか一つ位魔法具であってもおかしくないと思ってな。君、見分けられるか。」
ラファエレは机の上に並べられたアクセサリー類を眺めた。
基本的に宝石類には魔力が宿っているものだ。
一見して宝石がくすんだ、手入れされていない普通のアクセサリーのように思える。
いや、くすんでいるが恐らくこれは純金。
長年の旅だけの問題ではなく、相当な年代物である為くすんでいると考えるべきだろう。
もしこれらがラファエレのサークレットのように魔法の杖代わりにしていたり、魔法具として扱っているのなら、装飾品事態に何らかの印がある筈で ある。
「触っても宜しいでしょうか。」
「どうぞ。」
ジュードに促されるままソファから立ち上がって歩み寄る。
並べられたアクセサリーの内、腕輪をそっと落とさないように持ち上げる。
裏側を覗いてみたり、付属した宝石の中を見透かそうとしたが、別段変わった様子は無い。
魔法具を作った場合、製作者の意図が解るように裏側にサインや小さな文字でどう使用可能か彫っておくのが暗黙のルールであるがそれも無い。
他の装飾品も手にとって見たが、それらしいものは無かった。
観察を続けるラファエレにジュードは声をかける。
「旅をする上で、路銀よりアクセサリーを財布代わりにして放浪する種族がいると聞いた事がある。魔法効果が無いのならそう言う意味合いで身に付けていたのかも知れない。その場合普通のアクセサリーだな。」
「シンティの事ですね。私達のような旅の冒険者もやっている事は変わりませんが。」
しかしこれが魔力を宿しているのなら、転売はしたく無いだろう。
死ぬ間際まで身に付けていたと言うのなら、魔法具だと見た方が自然な気がして来る。
「魔法具ならもっと…内から大きな力が溢れ出るものだと思います。…一概にそればかりとも限りませんが。」
「ほう。」
ジュードにとって、面白い話だったのかやっと身を乗り出した。
「身に付けて初めて魔力が発動するタイプのアイテムもあります。例えば呪いのアイテムですと身に付ける前からそれが解っては話になりませんから…。」
「見た目には解らないような仕掛けを行っている?」
ジュードが跡をついで話を続ける。
「いつも身に付けておられたのなら、呪いの類と別物だと思いますけれど。」
暫く考えていたジュードがゆっくり言葉を紡ぎ始める。
「これらがもし魔法アイテムで。」
そして、ラファエレの顔を真っ直ぐに見上げる。
「君に役立ちそうなら、私からタスクに話して買い取っても構わない。」
「…。」
ジュードの蠱惑的な妙案に寒気がした。




