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大きなお買い物
あくまでもこれらのアクセサリーに魔法用途があるのなら、が前程であるものの、雇用期間を案に増やすと言われたと思った。
ラファエレはあの地下に住みたいと執着を示しているので、ジュードの言葉に飛び付きたくなるだろうと見透かされたのだと感じた。
と言っても雇用期間の延長は望むところなので、有難い話ではあるが。
はやる気持ちを抑え、ラファエレは腕輪を机に置いた。
「意図が解りません。あくまで仮定とは存じますが、私へのメリットしか見受けられません。」
ラファエレは少しでも早く一人前の魔術師になりたい。
それだけに魔法具が手に入り、自身の能力が向上するのなら身につけたいと思う。
この話はラファエレにとっては甘言。
しかしジュードにとってメリットは見受けられないのに、何故ラファエレに提案するのか?
魔法具はそこらの装飾品とは違い、大変高額である。
それを手に入れた魔術師達は簡単に手放さないし、簡単に注文して作れるものでも無い。
魔法具の製作には、ある程度能力値の高い術者が関与せねばならないからだ。
物の価値が判別できない男とも思えないが、それを買っても良いと言う。
ジュードの悪魔の囁きは、ラファエレの心を甘く痺れさせたが、強い警戒心も抱かせていた。
その身構える様子に領主様は肩を竦める。
「私は単にこの事件をさっさと解決したいだけだ。タスクの話を聞くに、この装飾品の持ち主は相当な実力者と見て良い。もしこれが魔法具によって実力以上の力を発揮しているのなら、それを利用しない手は無い。君が使える魔術師になってくれるのなら、次々アールに面接させる必要も無いからな。」
そう説明を受けると尤もな気がしてくる。
「新たに現れた術者に魔法具を使わせてみる気は有りませんの?」
「場合によってはあるな。しかし、現時点で当屋敷にいる魔術師は君一人だし、見習いの君を使えるように振分けるのは雇用者である私の役目とも考えている。」
「私がもしこれを持って消えたら?」
本来なら喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。
もしそうなったとしても不思議は無い。
「タスクの怒りは買うか解らんが、私は元々使い所が無いから困らん。まあ君も今消えるような真似はしないさ。」
「何故でしょうか?」
「ルーン文字の解読の為に前も見ないような術者が泥棒の真似をして消えれば、ギルドはブラックリストに入れるだろう。デメリットがあるのは君だけだ。」
ラファエレは、先程のエピソードを思い出し羞恥心で両目を閉じた。
「宣言してから消えるバカもおらん。私に警戒心を抱かせてもメリットはあるまい。もし君に使えるなら、七掛けで売りつけてやろうと思ってもいる。」
「せこい…。」
七掛けで売り付けられても購入できると思えないが、意外な商人根性にラファエレは眉を寄せた。
ジュードはその様子を見て楽しげに笑う 。
人の悪い笑みを眺めていると、どうしても何か企んでいるのではとラファエレは勘ぐってしまう。
愛する娘へ向ける穏やかな空気とは違う、目が笑っていない笑顔を見つめ、彼は何を考えているのだろうと内心ラファエレは首を傾げた。
一息入れて笑いを収めると、ご主人様はすぐ神妙な顔になる。
言葉遊びは終わりと言う合図でもあった。
「何度も言うが前言はあくまで仮定の話である。まだこれらが魔法具と決まっておらず調査が必要なのだ。使用感を知りたいので実験の手助けをして貰いたい。」
何を企んでいるのかと勘ぐりはしたが、今の所取らぬ狸の皮算用だ。
効果を見出せ無ければ3人目の魔術師が現れた時点でラファエレは間違い無くお払い箱になる。
ならば見習い魔術師でも中々使えるとアピールして次に繋げた方が得策と気付く。
「どのようにすれば…。」
「見た目の感想と身に付けた際の使用感、ついでに魔法を使ってどのような状態になるかも伝えてくれれば結構。」
「解りました…見た目では解りませんので…そう言う事であれば身に付けてみます。」
タスクの育ての親がずっと身に付けていたのなら、危険なアイテムでは無いだろうしとラファエレは承諾する。
ジュードが頷くと、腕輪を一つとってラファエレに託した。
「魔法具である事を願いたいね。 」
ラファエレは頷いて、腕輪を左腕にはめた。
「…。」
互いに沈黙を守る時間だけが経過する。
装飾品からは魔力が溢れる等の変化を感じないし、装着したからと言って力が漲っても来ない。
これならラファエレの持つサークレットの方が余程強力である。
腕輪はフリーサイズなので、ラファエレが身に付けたからと言って、自身の身体にフィットするようなご都合主義的な現象も起こらない。
最初の緊張感を返せと言いたくなる空気が流れ、ラファエレは呟く。
「取らぬ狸の…。」
「言うな。」
ラファエレの発言を最後まで言わせず、ジュードが渋い顔をして椅子の背凭れに身体を預けた。
「…ただの財布だったか。」
素直過ぎる程舌打ちするジュードを見ると何故か笑みがこぼれて来た。
確かにこれだけ言葉遊びをしたのに宛が外れるとさぞ恥ずかしい事だろう。
ひよこの数は卵が孵る前に数えてはいけない。
だがこれで、もしかして3人目の魔術師よりもラファエレを望んでくれるかも知れない淡い期待は完全に断たれた。
元々期待されていなかったのだからと溜飲を下げる事も出来るが、もうあの地下には行けないのかも知れないと思うと、とても寂しいと感じる。
落ち込んでいても仕方が無いので、今は少しでもルーン文字の解読に勤しむべきだろう。と思い直す。
ラファエレは、頭を振ると腕輪を外して机の上に置き退出する為に一歩下がった。
「何をしている?」
ジュードは首を傾げて首確定のラファエレを見上げる。
「…え?実験は終わったのでしょう?私は仕事を継続しようかと。」
「仕事とは?」
よく理解していない上司へ、何故だろう?と首を傾げつつラファエレは説明する。
「悪いものが入って来ないようにこのお屋敷に結界をはります。数時間頂ければ何とか。それとルーン文字の解読を…。」
結界と聞いたジュードがふとした疑問を投げつけた。
「…結界についてだが、それは君が去った後も有効なのか?」
「私が作れる結界は精々モンスターがお屋敷を認識しなくなったり、避けて通りたくなる程度ですが、魔法陣に魔力が宿り続ける限りは私が何処へ去ろうとも有効です。正確な日数までは何とも申せませんけれど最低1ヶ月は長く持たせたいと考えております。」
「そうか。ではそれは後にして貰うとして、さっさと次をつけろ。アクセサリーは後6種類ある。」
「…。」
そう言えばそうだった。
ぬか喜びさせられたり忙しい限りだ。
しかし、ラファエレはもう期待しない事にした。
強力な魔力を得られるかも知れない等、欲望に満ちた夢物語を願ってしまった自分を恥じてもいた。
期待して裏切られる位なら、何も願うべきではない。
そう思いながら次のアクセサリーを身に付ける。
勿論何も起きない。
ほらね。
期待しなければ何も感じない。




