039
ナンパですかー
アールはクラウディアの冗談に眉を寄せはしたものの聞き流した。
否定する時間より、話し合いの時間が欲しい。
方や代表者はまたかと呆れるように舌打ちした。
しかしそのお陰か向いていた牙が少し和らぎ、アールに目配せする。
「俺達は業務を遂行する話し合いをしているんだ。そいつを口説きたいなら貸してやるから夜にしな。落ちるかどうかは、責任は負えねえが。」
「いや、遠慮しておく。それより話し合いをしたいなら、是非私の意見も聞いて貰いたい。ギルドからはここでの指揮権は全面的にクルセウス領主に任せると許可も頂戴している。君が代表者なら少し話せないか?」
アールは『階級社会に一石を投じ』られないよう、出来るだけ命令ではなく対等な立場をアピールするよう努めた。
「そこの男前は、森林に潜むモンスターと今朝対峙したそうだ。話を聞いて損は無いと思うが、どうなんだリーダー?」
「む…。」
クラウディアが付け加えると、ギルドの代表者から逡巡する様子が伺える。
「成功報酬は別として、ギルドの為に歓迎会も設けてくれるらしいぞ。」
冒険者達の歓声が森に響き渡る。
アールがえ?と口を開いたが、訂正できる空気でも無い。
クラウディアを見ると、鼻歌交じりに騎士団長を見ている。
もしかして『何とか』してくれているのだろうか。
代表者が傭兵達の様子を見てからアールに向き直る。
「今の話は何処まで本当なんだ。」
クラウディアはいつも適当な発言をして人を煙に巻く。
その度に代表者は、他の傭兵達とリーダー対決をさせられたし、参加したくも無い恋の駆け引きに参加させられた事もあるし、他国騎士団員にナンパされたクラウディアの為に恋人の振りをさせられた事もあった。
いわばトラブルメイカーのクラウディアだが、意外と仕事はキッチリしてくれるし、意見も煙に巻く会話の中で時折中核をついてくれるので、信頼できない訳じゃ無い。
ただ、どれが本当なのか確認しないと解らないのである。
なんでこんなのと組んでるのかなー。と代表者の頭は痛くなる。
空気が軽くなったと気付いたアールは苦笑して
「…とりあえず、名前を教えてくれ。」
と、握手を求めた。
――――――――――
一応傭兵達の殺気が終息した所で代表者は、アールに向き直り大声を張り上げた。
「自己紹介が遅れたが、俺はこいつ等の代表を担うジュリアスだ。」
アールに差し出された手をガッシリ握る。
褐色の肌に金髪碧眼の筋骨隆々としたいかつい男である。
少女マンガに出てきそうな氏名で容姿が強面とは残念極まりない。
「…ジュリアスか。了解した。早速だが森林を規制する理由を聞いていないようなので改めて説明したいのだが。」
大声が耳に響いて片目を瞑るアール。
二人が立ち話で森林のモンスターについて話し合い始めた頃、遠めに観察するタスク達は、所在無げに立ち尽くしていた。
よく訓練された騎士隊達は直立不動で事の成り行きを眺めているが、訓練の足りないタスクは少しばかり退屈だった。
そんなタスクの元へ、クラウディアがにこにこしながら近付いて話しかける。
「君、強そうだな。」
「タスクだよ…あんたからは獣の臭いがするな。」
会話になっていなかったが、クラウディアは別に回答を求めていなかったようだ。
代わりに臭いだけで気付いたタスクを称賛する。
「鼻が良いな。私は獣人だからね。」
そう言って我が身の胸元をはだけさせると、鎖骨から20cm近く下にある拳サイズの痣を見せた。
痣には二つの膨らみから出づる谷間がうっすら目視確認出来、横にいるサットンが口笛を吹いて覗き込んだ。
中性的な美女と判明するや否や、男性陣の反応は余りに矯激である。
サットンは明らかに谷間へ視線が集中していたが、頼みもしないのに痣の解説も買って出る。
「獣人と言えば南大陸の大半にいると言う種族だな。皆一様に身体の何処かに紋様とも取れる痣があるとか聞いたが、なるほどこれが…。」
紋様は大きさも色も人によって形式が違い、又身体のどの部分に痣が浮かぶかも決まっていないが獣人族の証として遺伝的に見られる現象だった。
一見刺青にも見えるそれは、タスクの目にしっかり焼きつくとクラウディアは胸元をしまった。
サットンが舌打ちしたのをスルーして、タスクが疑問をぶつける。
「獣人って個人行動を好むって聞いたけど?」
「種族によるかな。私は狼なので、群れる方が安心するんだ。鼻が良い君は獣人じゃ無いのか?」
「単に山育ちだからだよ。獣人の臭いはしないだろ?」
無言で首を傾げたクラウディアが、タスクに引っ付くように傍へ寄って首筋や耳の後ろへ顔を近づけた。
動物が固体情報を得る為に臭いを嗅ぐ、ただそれだけの行為にサットン含めた騎士団員達は態度を変えないものの少々官能的な気分になる。
中性的でクールビューティな容姿は、男達の目を愉しませタスクへ羨望の眼差しが向けられる。
「本当だ。獣人じゃ無い。」
仲間でも探していたのか多少落胆した様子でタスクから離れると、用事が終わったとばかりに離れるクラウディアにタスクは更に話しかける。
アールの話が終わるまで暇なのだ。
「何で今朝俺達が森林で闘った事知ってるのさ?」
「そちらの騎士団員達が少し離れた場所でそう説明したがっているのを聞いたから。私は耳も良いので良く聞こえるんだ。」
「あのイノシシリーダーにさっさと説明してくれれば、俺達の仕事も楽になった気がするけど。」
「内のリーダーとはこの1年で何度か組んだが、実力は抜きん出ているものの、あの通り直情で一旦怒り出すと止まらん。ガス抜き出来ると一応話しは聞いてくれるんだがなあ。」
ガタイも良く、何をするにも力強いリーダーを見て苦笑すると
「おどけてガス抜きしてやるのも、タイミングと言う名の技術がいるんだよ。」
更にそう言って肩を竦めた。
「リーダーの適正を疑った方が良いと思うが。」
眉を寄せるタスク。
「彼より強い男がいればいつでも宗旨替えするよ。」
「それはそれで誠意がねえよ。」
クラウディアは違いないと笑う。
「女はそう言う生き物だ。より良い種を残してくれるオスを常に探している。」
そして事も無げに女の習性を暴露し、男達の幻想を打ち砕いた。




