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漆黒のファースト ~First of The black onyx~  作者: うーCHAN
第3章 二日目 <午後>
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035

明るくなりました

 アールとタスクは、ラファエレに倣って窪の中をじっくり観察し始めた。


 剣で切り裂いても死ななかったモンスターはここから這い出して来たと思われる。

 つまり、先日までそのモンスターが閉じ込められていたと断定したと見ても良いだろう。

 ルーン文字を解読すれば、それらが判明するのではとアールは睨んでいる。


 誰が閉じ込めたのか?

 いつこんな大掛かりに行われたのか?

 そしてあのモンスターはどうすれば倒せるのか?

 調査はまだ着工したばかりである。


 明るくなって改めて周囲を見渡すと、予想していたよりかなり広い。

 直方体で囲まれた窪の内部は、本当に岩を刳り貫いたように継ぎ目が天井にしか無い。

 人工的に作成されたとしか思えないが、岩を刳り貫くには大変な作業を強いられるだろうし、魔術師が行った技術だと言うなら相当な能力の持ち主と予想できる。

 大きな塚が塞がっていたであろう天井は大きな割れ目が覗き、木の根が窪の中へ幾本も侵略している。


 もし広場にモンスターが現れては大変だと思って、二人で護衛として来たものの、上には見張りも居るし2人は多かったかも知れない。

 森の周辺、及び広場の見張りの数を考えながら、タスクは考えていた。


 しかしタスクとしても明るい状態で中を確認したかったし、アールに到っては騎士団長として確認しておかねばならないので、仕方が無いとも言える。


 壁は一面ルーン文字で埋め尽くされている。

 床もまた然り。

 天井には、壁と天井を繋ぐようにルーン文字がいくつか組み込まれている。

 それらを必死に書き留めている司書官。


 そして食い入るように壁の文字を見つめるラファエレ。

 読み込むごとに、彼女の様子は豹変していく。

 両手を口元にあて、幾度も大きなため息をつく。

 頬は紅潮し、瞳が潤んでいく。


「あちらで書き込んでいる資料は、後程私も読んで宜しいのでしょうか?」

 壁へ熱い視線を送ったままラファエレが尋ねる。


 恐らく自分への質問だろうと辺りをつけたアールが

「勿論。」

と回答するが、黙して回答が無い。


 聞いていたのか聞いていないのかと首を傾げているとラファエレから、深い溜息が漏れた。

「…なんて素晴らしいの。」

 呟くラファエレへアールは声をかける。

「何か解ったのか?」

 首を小さく左右に振りながら、一歩また一歩と壁へ近付く。

 そして又潤んだ瞳で熱い溜息をまた一つ。

 つまり聞いていないようだ。


 アールは、無言でタスクを見ると、タスクは肩を竦めて無言で回答した。

 うっとりとした眼差しで、左右前後の壁を踊るように眺め回した後、再び溜息を吐くと、ラファエレは、誰に話しかけるでもなく急に早口で語り始めた。


「素晴らしい。どの魔術書にもこんな封印術は記載しておりません。恐らくこれらのルーンは、モンスターを封じる為の魔方陣の一種。年代を見るに、100年…いえ200年以上前に遡らねば、この術者を断定する事は不可能でしょう。こんな事が出来る術者は世界が広いとは言え、数える程しかおりません。」


 ああとうめくように、喜びの声をあげる。

「見習い魔術師の身でこんな素晴らしいルーン配列を目視できるなんて。」

 幸せそうに自身でその身を抱きしめ、ルーン文字が刻まれた壁に寄りかかった。

「ここに住みたい…」


「…。」

 タスクとアールは無言でその様子を眺めていたが、どうやらもう少し放って置いた方が良さそうだと結論をつけ、彼女の傍から離れた。


「あれ大丈夫かね?」

 タスクの言葉の冠詞に『魔術師として』がつくと何となく解ってしまうアールは苦笑する。

「まぁその内落ち着くだろう。それまで我々も他の作業でもしながら粛々と待つしかないな。」


「他の作業?」

 司書官からメモ用紙を何枚か貰い、何事か書き込み始めたラファエレを見ていたタスクが見上げる。


「私は上で部下と今後の報告や指令を出して来るので、君はここで待つと良い。ギルドから傭兵も派遣されていると聞いたし、森にも行かねばならんな。」

「森に行くなら俺もそっちが良い。」

「ラファエレはどうするんだ?まぁ森へ向かうのはこちらの用事が済んでからでも良いが。」

「…ふん。」

 つまらなそうに壁に寄りかかるタスクを見て、アールは苦笑する。


「騎士団長にもなるとやる事が多いんだ。用事が終わったら声をかけてくれ。お嬢さんを引っ張り上げてやらんとな。」

 そしてちらりと魔術師を見る。


 ワンピース型のフード付き外套は、今流行のファッションなのか、ウェスト部分が内側に弧を描く仕様になっており、彼女の持つ美しい身体のラインが垣間見える。

 今はフードを被っていないので、ゆったりと二つに結ぶ三つ編みの髪の間から時折彼女の真っ白なうなじが覗いているのが確認できる。


「美味しそうな顔だな。」

 呆れた様子でタスクが言うと、少年に目を向けずしれっと回答した。

「仕事中に楽しみがある方が励みになる。じゃあ、頼んだぞ。」

 片手を上げて、梯子を軽々上っていく。


 念の為、火の消えたランプと火口を置いていく。

 それを見送っていたタスクは、再度壁にもたれかかり、辺りの様子を伺いながら、ラファエレを観察する。


 周囲に何が起きても対応できるように。

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