034
アンダーグラウンドルーム
「じゃあ、二人とも下がってくれ。」
と声が響き、意味は解らなくてもアールとラファエレがそれに倣った刹那。
タスクが飛び降りて来た。
ランプを持ったままストンと飛び降り、両足を曲げて着地する。
「よっと。」
と言いながら、砂埃を払いつつ立ち上がるタスクに、二人は唖然とした。
ほとんど足音がしなかった気がするが、梯子の途中から飛び降りたのだろうか?
に、しても結構な高さがあった筈である。
アールは梯子上空を見上げてからタスクと目を合わせると大きな声を出した。
「タスク!朝も泥だらけになったばかりなのに、お前は学習能力が無いのか?!」
そして怪我は無いのかとばかりにタスクの腕を掴み、背中や頭を掴んでは確認する。
「怪我なんて無えし!いてえな!」
「今、痛いと言ったじゃないか。」
「あんたが掴むからだ!」
アールの腕を払いのけるタスクを見て、そうかと頷く。
「怪我が無いなら良い。」
やっと一歩離れたので、一息入れてタスクは続けた。
「あんな頼りない梯子でゆっくり降りてられるかよ。」
「しかし今の振動で又崩れて我々が生き埋めになる可能性もある。もう少し周囲に気を配りなさい。」
辺りを見渡す限りでは、そんな様子は無いが。
と言うか、飛び降りた時もさして振動も無かったか。
一応タスクなりに気を使って降りたのかも知れない。
しかしこんな所で生き埋めになってしまう状態を想像し、空恐ろしい気分になるのも確かだ。
「…悪かったよ。」
「素直で宜しい。」
反省して見上げるタスクの頭を撫でると、ラファエレの笑い声が響いた。
「まるで兄弟ですね。」
アールは苦笑する。
「まあ…どちらかと言うと親の気持ちになる時はあるかな。」
「俺は無い。」
眉を寄せてアールの手をついと避けるタスクに、連れないなと親の気持ちで苦笑する。
更にそれを見て、口元を両手で抑え、ころころと笑うラファエレ。
薄暗い穴の中で、暫くの間笑い声が響いていた。
アールがランプをかざして壁を照らすと、確かに壁には一面ルーン文字がびっしり刻まれていた。
そのままの状態を保ち、先程得た報告を整理しながら、ラファエレ及び、タスクに説明し始める。
「今そこにいる司書二人がルーン文字を書き写す作業中だ。地下が酷く暗いので進捗状況が悪い。それと問題点が他に2点。」
「何だよ?」
タスクの方が付き合い良く返事するものの、ラファエレは見上げて壁をそっと撫で上げており、話を聞いている仕草とは思えない。
そんな紅一点の様子をちらと見てから、アールは続ける。
「まず一点。モンスターが地下から這い出るために、一面壁が崩れてしまった問題。」
そう言って、先程梯子で降りて来た辺りを指差す。
はっきり見えないまでも、今降りて来たのだから壁が崩れている事は明白である。
兵士達の手によって、瓦礫を撤去して上り下りしやすくはなっているが、この一面ルーン文字は丸々読めない。
「もう一点は、地下に木の根が侵入し壁を傷めているので所々文字が飛ぶようだ。特に天井付近が酷いらしいな。」
天井を指差してアールは言う。
「木の根は排除すれば良いんじゃないのか。」
「根が太すぎて下手に取り除けば地下ごと崩れる可能性も有ると報告を受けている。壁と一体化している部分もあり文字が潰れている。」
「つまり全文丸写しは不可能?」
「ん。となると全文解読も難しい。」
タスクは舌打ちする。
「あの一つ目がどうすれば死ぬか解るかと思ったが。」
「まだ諦めた訳じゃ無い。困難を極めると言うだけの…。」
突如、地下中が突風と共に明るくなった。
それと同時にアールとタスクは体勢を低くして剣を構え、光りの方向を睨みつける。
二人は目を見開いた。
その先にいたのはラファエレであった。
「あの…地下が暗かったので。」
ラファエレの手に持つランプの中が異様に光り輝いている。
そのランプの内部には、一枚の小さな羊皮紙が入っており、その用紙自体が発光していると見て取れた。
床の真ん中にランプを置くと、地下中が明るくなり全貌が解る。
先に中に入っていた司書官と兵士が感嘆の声をあげ、アールも感心する。
タスクも辺りを見渡すと、調査しやすくなったなと呟いた。
「天井に吊るした方が明るいと思いますが…」
と苦笑するが、先程の申し訳程度のランプより十分過ぎるほど明るい。
地下にいるラファエレを除く全員が、手に持っていたランプの小さな炎を消したのは言うまでも無い。
「地下の中を一望できるし十分便利な魔術だ。」
しきりに関心してランプを覗き込むアール。
「はい。私の力ではありませんが。」
見習い魔術師は、懐から羊の皮でできた5cm四方程で四つ折にされた用紙を取り出した。
広げると、魔方陣が描かれている。
「ここには光を放出する魔方陣が組み合わされております。それを発動させました。」
「君がこの魔方陣を考案したのか?」
ラファエレは苦笑しながら被りを振った。
「私達魔術師の間で研究されております技術の一つです。この光は半日位しか持ちませんので急がれた方が宜しいかと。」
雇われ魔術師が司書官達に視線を移すと、暫く現状について行けない様子だった彼等が、我に返り急いで壁のルーン文字を書き写し始める。
「光りが強過ぎますから戦場では余り歓迎されないようですが、ダンジョン攻略にはよく使用されているそうです。」
簡単に説明を終え、用紙を再度4つ折りにすると、ラファエレは近くの壁に向かって行った。
窪の中の壁に刻まれたルーン文字を読み解くためである。




