033
早馬でGO
馬に乗って颯爽とアールが美女を抱きしめるように登場したので、ミクスチュア広場で見張りをしていた騎士や兵士達はさざめいていた。
因みにタスクは思い切りスルーされている。
主人公なのに気の毒である。
部下の一人が我らが騎士団長に近付き、戸惑いつつ声をかける。
「団長…えー…その。」
「見張りご苦労。変わりは無いか。」
爽やかな笑顔で部下に声をかけながら、ラファエレの手を取って馬から降ろしてやる。
やっと地面に辿り着いたが、まだ馬の上にいる感覚の残るラファエレは、思っていたより早掛けが堪えていたらしく足ががくがく震え、上手く立てなくてバランスを崩した。
騎士隊の一人が手を出そうとするより早く、アールが彼女の腰をがっしり支えながら声をかける。
「大丈夫か?」
耳元で声をかけられる形になってしまい、ラファエレの全身が急速に夕日色に染まった。
支えられた状態で何とか態勢を整えアールを見上げると、かなり近い距離で心配そうに覗き込んでいる。
「は、はい…」
ラファエレの細い指が、アールの胸元を力なく押す。
助けて貰って置いて何だが、これ以上は耐えられそうにない姿勢だ。
一方アールは微笑んで頷いただけで、ラファエレがしっかり足を地に着けたと確認するとやっと離してくれた。
そのまま現状を報告するよう指示を出しながら部下の一人と歩いて行く。
「男の人はずるいわ…。」
顔の火照りが取れない頬を両手で押さえながら、情けない声を発して見送る横で、タスクも降りて馬の頭を撫でてやっている。
何がずるいのか、タスクには良く分からないので口を挟まない。
そんな光景を見た騎士達は、ある種の衝撃を受けているようだ。
団長は職場に女を連れてくるような人じゃないし、何かしらの重要人物だと思われますが、馬上の様子は恋人さながらでした。
と、サットン指揮官に報告が行くのも時間の問題である。
そのお陰か兵士達にとってあんなに不気味に見えた窪の中が、昼間だとやや雰囲気も変わって見えるから不思議である。
タスクには今朝見た窪の中と何一つ印象は変わらないが。
いや、そうでも無かったか。
ミクスチュア広場は物理的に大きな変化を遂げていた。
兵士達の計らいで、塚が崩れないように固定され、周囲の邪魔な岩を移動させてあり、大きな窪も覗き込みやすいよう、入り口近辺に松明が設置され、窪の中も梯子が降ろされ、上り下りしやすくなっていたのだ。
固定された材木が手すりのように降りており、多少揺れても崩れないように組まれている。
「すげー、でも中は暗いな。」
タスクが穴を覗き込んでも、やはり中は薄暗い。
と言うか、穴が斜めに延びているので、下がはっきり見えないと言うのもあるようだ。
このまま降りようか考えていると、部下の報告を聞き終えたアールが横に並んだ。
「足場を固定させた。明かりを入れるのは難しいらしい。ランプをいくつか用意させているので、一人一つずつ持って降りるしか無さそうだ。」
密閉された地下に大きな火を持って降りると命を落とす危険があるからだ。
「他に空気穴を作れば良いんじゃないのか?」
とタスクが尋ねる。
「外壁が頑丈すぎて穴を空けられそうに無いようだ。後は塚を全て排除するしか無いが、簡単には行かんだろうな。」
「小さいランプでルーン文字が読めると良いけどな。」
二人は後ろで控えていたラファエレを見る。
文字が見えなければラファエレを連れてきた意味が無い。
「とりあえず中を拝見致します。」
ラファエレの言葉で、アール・ラファエレ・タスクの順に地下へ足を運ぶことになった。
器用にランプを二つ持って梯子を降りると、アールの予想より広い部屋に着地する。
瓦礫や砂がほとんど片付けられているので着地しやすかった。
ただランプ程度ではそんなに明るくもならない中、奥でいくつかの小さな明かりが揺れている。
司書官と兵士が2人ずつ居たらしく、薄暗い中で人が降りる気配を感じたのか入り口まで確認に来た。
兵士2人はランプを持ち、司書官2名は書類の束とペンを持っている。
上にいた部下の報告から考えるに、壁中のルーン文字を書き留めているのだろう。
更に報告を受けた後、作業を続けるように伝える。
一礼した数人は兵士の持つランプを頼りに作業を再開しに元の場所へ戻って行った。
下から上を除くと、日の光が何とか入る。
他に明かりを取る方法は無いかと考えるが、日差しの効力が得られない以上ランプで何とかするしか無いように思える。
しばらく梯子を抑えて待っていると、ラファエレがゆっくり降りて来た。
一歩一歩足場を確かめてから降り、地面に到着すると安堵のため息を漏らしてから
「よし。」
と小さな声でつぶやいた。
ランプを持って待機しているアールが、それを見て微笑む。
振り返ったラファエレが縄梯子を掴んだままのアールとの距離に驚き、お礼を言いながら横に移動して行く姿に更に笑う。
「何が面白いの?」
ラファエレに訝しい目で睨まれると、堪えられず声に出して笑ってしまった。
「失礼。」
謝罪して、次に降りて来るであろうタスクを、梯子を支えたまま待つ。
「降りたか?」
そんな空気を読んでか読まずか、頭上でタスクの声が聞こえた。




