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調査
あんたの部下じゃありませんからー!残念ー!
とか言いたいわけでも無さそうだが、とにかく拒絶の意を込めた視線まで感じ、ジュードは黙ってアカイノを見上げた。
「…。」
そもそもギルド派遣組合は個人的な過去の遍歴を問わない。
仕事が出来るか出来ないかの記録のみが登録者の身元であり、過去の調査は行わないのが通例である。
またこの場合、ギルドが作成したブラックリストは当て嵌まらない。
ギルドの依頼に応えられるだけの実力が伴っているか否かが重要だからである。
ただタスクの件は別である。
死んだ魔術師がギルド登録者である以上、どのセリムなのか把握する必要があるし、ついでにお得意さんに情報を渡したってサービスの範疇で問題は無い。
アカイノの持つ権限で十分賄える範囲と言える。
「…ふむ。ラファエレの能力さえ手に入れば、身元は必要ないと言うか?」
「概ねその通りです。組合の規定は覆りません。」
頑ななアカイノを観察した後、考察し試しに聞いて見る。
「ラファエレを調べる依頼を出しても良いのだぞ。」
「いつも格別のご贔屓を賜り、誠にありがとうございます。ジュード様にはギルド専属の優秀な諜報員を派遣させます。」
一転して友好的な態度で、深々と頭を下げるアカイノ。
金が絡むと、規定も何もあったものではない。
ギルドがそうなのかアカイノがそうなのかは知らないが、恐らく両方だろうが解りやすい拝金主義ぶりにいっそ清々しさを覚える。
「商売が上手いじゃないか。」
褒め言葉のつもりは無いが一応そう告げておくも、慣れているのか反応をしめさず礼をとるのみである。
「他の魔術師もお調べ致しますので、その際は是非お声をかけて下さい。」
「採用した魔術師次第では頼むかも知れん。」
「…。」
アカイノはまだ30歳オーバーのジュードを見つめた。
確か数年前まで王都で業務されていたと聞く。
上流階級としての暮らしを当然とし、身元のしっかりした連中としか付き合って来なかったのだろう。
屋敷に持ち込まれる食材業者すら、身元がしっかりしているに違いない。
ギルドの記録を検索すると幾度かクルセウス家からの依頼はあったものの、ジュード本人による身元不明者の雇用について直接的には初めてなのかも知れない。
そう思うと、苦笑してしまい、ついアドバイスの一つも送りたくなってしまう。
アカイノは書類を口元にあてながら、何やら呪文のように唱え始めた。
「これは独り言ですが。何処かで召し使えられている魔術師とは違うので、調査してもハッキリした身元結果が出るとは限らないし、調査コストがかえってジュード様の足を引っ張る原因になるのではと心配だ。」
ギルド職員の言葉の意味を考え苦笑するジュード。
子供を守る意識が高過ぎて、傭兵を追い出したり、雇用したタスクやラファエレの身元調査を行ったり、度が過ぎるのでは?と苦言されたと認識したのである。
「確かにモンスターの件で、神経質になっているのかも知れん。」
「たまには休憩も必要かと。」
「…。」
ラファエレにしてもタスクにしても一応所論あっての調査だとジュードは考えている。
些か行き過ぎた感は否定できないが、今更調査を中断するつもりは無い。
ただラファエレの連れて来た傭兵に関しては、追い出す必要までは無かったのかも知れない。
実力は伴わないまでも、彼女のフォロー役としてなら慣れているだろうから。
そこまで考えたものの、今更だと首を振る。
使えそうに無い兵を揃えた所でそれこそコストの無駄だ。
資金には限りがある。
兵士の数を揃える金があるのなら、魔術師に回すべきだ。
ジュードは、アカイノのを苦言を
「考えておく。」
と言って、話を終わらせた。
「諜報員の雇用はどうされますか?」
それを苦言を聞き入れて貰えたと認識したアカイノが再度確認する。
「役に立ちそうだから4~5人連れて来てくれ。仕事の割り振りは今後検討する。」
「この諜報員も身元調査が必要で?」
「…言うじゃないか。」
アカイノの軽い厭味に、ジュードは憮然とした顔で睨むと、さっさと帰れと追い出した。
――――――――――
一方、アール達一行は二頭の馬で例のミクスチュアの広場へ向かう準備をしている。
ジュードの指示で広場の塚へラファエレを案内する為である。
もうすぐ夕方になるし、日が暮れるとモンスターが出現しやすくなる恐れもあるので、明日にしてはどうかとジュードへも一応意見してみたが、少しでも早く見ておきたいと言う彼女の要望で急遽早馬で向かう事になったのである。
タスクが一人で馬を操縦し、アールの操縦する馬にラファエレが乗る形だった。
ラファエレは馬に乗った事が無いし、タスクも乗馬経験はあるものの二人乗りの経験は無かったので、このような形になった訳である。
まずラファエレを馬に乗せ、彼女の後ろへアールが馬に跨る。
突然高くなった視界を恐れていたラファエレは、馬にしっかりしがみ付いたまま強く目を閉じて怯えていた。
「そんなに硬くなると馬が怯える。」
馬の首を叩いてやりつつ、アールがラファエレの背中もぽんぽん叩いて声をかけた。
見習い魔術師が馬にしがみ付いたまま、おずおずと目線だけで騎士団長を見ると、とても優しい目を向けてくれる。
「馬を離して。背筋を伸ばして起きなさい。」
言われるがまま馬から力を抜いて、ゆっくり起き上がる。
これで精一杯背筋を伸ばしたつもりだったが、まだ足りなかったらしく、アールに両肩を掴まれ引き上げられた。
「もっと伸ばす。」
「きゃ。」
「頭はこの位置だ。」
ラファエレの右肩に置いていたアールの手が移動し、彼女の額をついっと押さえて頭の位置を誘導する。
首がくんっと後ろへ曲がり、顔が上がると馬上からの景色がラファエレの目に飛び込んだ。
「まあ…。」
感嘆の声を挙げ、視界を少し邪魔するアールの腕を押さえて避け周囲を見渡した。
馬の背は不安定だと思っていたが、意外に安定しておりラファエレが想像していたより馬上はこんなに高いのだと認識し、素晴らしい景色に心奪われる。
「そろそろ出発しても?」
ジュードと似た低い声が彼女の耳の中を優しく滑った。
背筋を伸ばした為に、アールの声が近い。
タスクを見ると何も言わないまでも、まだかと言わんばかりの視線を送っている。
「はい、お待たせしました。」
我に返り、耳や指まで赤らめてどうにか言葉を綴る。
「しっかり握っていなさい。」
渡された手綱を握ると、アールももう一本別の手綱を握り、アールの身体全体でしっかりラファエレの身体を固定する。
「では出発する。」
二頭の馬が走り出した。




