031
セリム
その名簿にセリムが何人か記載されているのだと言う。
「同名の魔術師は多いのか。」
「よくある名前なら。そもそもギルドでは偽名登録でも問題ありません。」
「そう言う所が…」
舌打ちして何か言いかけるジュードに、アカイノは少し慌てて言い訳し始めた。
「仕方が無いんですよ。登録時、身分証ある者は一応提供していただきますが、無い場合もあるんです。国が管理していない私生児や孤児の中からだって魔術師は生まれるんです。身分を隠して仕事したがる者もいますし、それに…」
「もう良い。」
話が進まないので、要点だけ聞くことにした。
気を取り直して、話を戻すよう指示する。
「はい。そちらにお渡ししたメモにセリムが3人。氏名と年齢、容姿、得意魔法のみになります。」
名簿から抜粋したであろうメモを読んでみると、姓のある者もいるが、名前だけの者もいるし、髪や瞳の色、魔法の属性、それぞれ違うので、別人だと解る。
「…容姿の特徴は聞いているが、どれも当てはまっていない気がするな。タスクに一応見せよう。ああ、そうだ10本のナイフを自在に動かす魔術師の属性はこのリストの中で言うと何だと思う?」
「…うーん?風ですかね???」
「まるで生き物のように動くらしい。」
「土と言う可能性もありますが。」
「何故だ?」
「どう言う魔術を使用すれば物体を自在に動かす事が出来るかは、魔術師によって異なるでしょう。風と言うか大気をコントロールして物体を動かすケースもあれば、微細に重力をコントロールしても物体は動くでしょう。」
「空気全体が重くなって身体が地面にめり込んだ。と言う話も聞いた。」
「今のお話だけでは何とも言えませんが、リスト内から選ぶならこの二人のどちらかに絞られますね。後の一人は、火属性で、火炎攻撃を得意としておりますし…。」
ジュードは再度リストを読む。
セリム=ダフネル
性別:男
年齢:43歳
髪:黒
瞳:黒
肌:黄色
体系:筋骨隆々、一見傭兵にも見える
身長:190cm
魔術特徴:風属性、かまいたちと言った攻撃魔術を得意とする。
セリム
性別:男
年齢:不明(風貌80歳代)
髪:白髪
瞳:緑
肌:白
体系:細身
身長:172cm
魔術特徴:土属性、守備上昇、結界、封印、ヒーリングを得意とする。
セリム=アイヤネン
性別:男
年齢:23歳
髪:茶
瞳:茶
肌:灰褐色
体系:細身
身長:180cm
魔術特徴:火属性、火炎系攻撃を得意とする。
火属性以外のセリムは二名いる。
このどちらかが、リストの三人以外である可能性もあるし、流石に解らない。
タスクが言うセリムの話を思い出しながら、ふとラファエレの言葉も思い出した。
「結界魔術は土の属性に入るのか。」
「まぁ結界の張り方もあるでしょうが。」
「ラファエレは水属性じゃないのか。」
「…どんな属性の結界かによるかと思います。」
同じ回答だ。
問題視する点はそこじゃ無いらしい。
「能力はギルドの決めたカテゴリーに分けて表現しておりますが、はまりきらないカテゴリーも存在しております。また得意とする属性が一つとも限りませんし、何より魔術師の能力は千差万別で全て把握できず、ギルドの統計的にこのカテゴリーで分けられている程度でお考え下さい。」
ジュードが王都に居た頃は、あくまで戦争時の知識として対魔術師戦の講習会があった。
その時聞いた話では、火、土、風、水の4タイプの魔術師がいると聞き及んでおり、攻守どちらにしろ、団体と個人へ向けて魔術を使うケースがあるとも聞いている。
しかし、それはほんのさわりだけの話である。
戦争に必要そうな情報をとりあえず詰め込んだような講義だったし、タィンヒルの宮廷魔術師達も多くを語らなかった。
しかしギルド派遣組合は独自の統計調査で、こんな下っ端職員でも相当の知識量があると知り、感心しながらジュードは言う。
「ギルド職員は皆そんなに詳しいのか。それとも君だけか。」
「私はギルドの中でも魔術師担当ですので、それに関する知識は基本として抑えねばなりません。でないと話が進まない事例も多いのです。」
年に2度ある魔術師担当テストに落ちると、担当を外されるらしい。
その際、給料が激減するので、皆勉強に余念が無いそうだ。
ギルドへの狭い見方しかしていなかったと気付き、感心して聞き入っていたが思いっきり余談である事に気付き、またもジュードは咳払いをする。
「話を戻そう。このリストは預かって良いか。タスクに見せたい。」
そのお陰か、少し柔らかな物言いになっている。
「そのつもりでお持ちしました。」
一礼するアカイノを見つつ、机の引き出しにリストをしまいこむ。
「ラファエレの件だが、あれの身元は解るのか。」
「本人曰く、小国領主の娘だそうです。」
「小国とは?」
「修行のために飛び出したので、一人前になるまで帰国したくないから、言いたくないそうです。」
「それじゃ家出娘じゃないか。」
「私どもギルドでは、旅の冒険者なんて最初は皆家出みたいなものだと認識しておりますが。」
そんな簡単な認識もどうだろう。
と言いたかったが、流れの冒険者が実は富裕層である事も多く、その経緯から本名でギルドに登録したがらないと聞くと、ジュードは否定も出来ない。
聞けば聞くほどギルドのシステムと国家システムとは真逆の位置にある。
「まぁ良い。今後も魔術師を連れてきてくれ。アールとタスクで検分させる。それとラファエレも調べておいてくれ。」
「…他に連れてきた魔術師もお調べするので?」
アカイノが急に冷たい拒否を込めた物言いになった。




