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漆黒のファースト ~First of The black onyx~  作者: うーCHAN
第3章 二日目 <午後>
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030

置き去りのアカイノ

「それはそうとセリムの件は調べたのか?」

 一人残るアカイノに話しかける。


 調べるようにとは言ったが、数時間で何か解るものでも無いだろう。

 さして期待もせず聞いてみた。

 過去の遍歴を問わないギルドに何処まで調査出来るのかは不明だが、手がかりがここにしか無い以上、仕方が無い。


「まず導師セリムについて調査致しましたが、100年以上前からこの名前で仕事した形跡はございませんでした。」

「死んだのか?」

「あれほどの実力者が、誰にも看取られずに…ちょっと考えられません。」

「どれほどだ?」

「4つのエレメンツを自在に操り、呪文も魔方陣も必要とせず魔術を使いこなし、100の精霊を使役した伝説の魔術師の一人と伺っております。」

「昨今の魔術事情を鑑みると現実味が薄いな。」

先程のラファエレが行使した術とつい比べてしまう。


「数百年前は能力が高い魔術師がたくさんいたそうです。言うなれば導師セリムもその一人でしょう。」

「ふうん。まぁどんな奴でも一人で生きていたのなら、孤独死位想定内だと思うが。」

 老人の一人暮らし中に孤独死はつきものなので、兵士達に見回りをさせているジュードとしては大した違いは無いように思う。


「魔術師は長寿で能力が高ければ高い程、世間との拘わりを嫌がりますから、何処かで身を潜めているのではと推測も出来ます。」


 魔術を至上とする者が俗世間から離れ、静寂・孤高の境地で魔術の研究に余念が無いと言いたい訳だ。

「象牙の塔の考え方はよく解らんな。他には?」


「…他にギルドの名簿でセリムを調べました所、数名見つかりました。」

「名簿?」

「当組合への登録時、魔術師に関してはギルドがその技量を測り、能力差関係なく名簿を作成してギルド本部の管理下においているのです。」

「ほう。」


 初耳だ。とジュードが身を乗り出した。

 ギルド派遣組合では、偽魔術師が跳梁跋扈する余り、苦情が絶えず、ギルドへの不信感も募る一方だったので、ブラックリストの作成とクレーム処理用に依頼料の返却が行われるようになって久しいのだと言う。


1.依頼を解決できない(解決したと偽証しようとした)場合

2.依頼主よりクレームが来た場合

3.能力を計測しても自称通りの能力が認められない場合


 に限り、ブラックリストに記載し、魔術師として登録できない形式を取っている。

 又、偽者が増えるせいで正規の魔術師達まで不信感を抱かれるようにならない為に、厳しい面接と審査を十分に行い、その際、魔術師として認められた暁には、ギルド派遣組合が資格証を発行している。


 しかし資格証については余り知られていない。


 自称魔術師達の流す彼らにとって都合の良い魔術師像が、世間の目を眩ませているせいなのだが、余りにも能力の高い魔術師が希少すぎる為、真実の方が広まらず、まるで闇に葬られているような形になっているのである。


 ギルドだけでは対応出来ない程、自称魔術師は蔓延しているのだ。


「君達がもう少し、厳しい審査の上資格証を発行していると宣伝してくれるのなら、偽者の数は減りそうに思うが。」

「ギルドの管理は雑。が、定着しておりますから。」

 アカイノはギルドの無能振りをあっさり肯定する。


 なるほど。とジュードは思う。

 実際、厳しい審査を潜り抜けてギルドが認めた魔術師です。なんて謳い文句で偽者が現れたら、もう一つ面倒な事になりそうだ。


 まぁそれはそれで偽者を捕まえるネズミ捕りには打って付けの気もするが、ギルドはネズミ捕りが目的では無いので、管理下以外で自称魔術師が何をしていようと、さしたる問題でも無いようだ。

 正義の味方は金にならない事をよくご存知である。


 管理がずさんと言うより、きりが無いから細かに管理しない。が、正解なのかも知れない。


「最近は依頼側も偽魔術師が増加していると解ってきておりますし、警戒する者も増えました。警戒どころではなく、魔術そのものへの不振を抱く者の方が増えて参りましたが。」

「確かに魔法を信じねば騙される心配も無いな。」


「本来一般家庭に魔術は不要ですから、普及もしません。そうかと思えば、魔術師へ極端に信頼する者も後を絶たず、その行動差は余りに前衛的です。騙す方が基本的には悪いのですが、正直な話、依頼人側が魔術師を神格化して疑問を持たないので、知らぬ内に騙されているケースも大きな問題です。」

「苦労が絶えんな。」


 労いの意味を込めて、言ってはみたものの、話が随分逸れているので、一言で済ませ、また窓の外へ目をやった。

 問題が大きすぎてついて行けないし、ギルドの愚痴を引き受けるつもりは無かった。


 その対応に我に返ったアカイノが、名簿を差し出した。

「…失礼致しました。名簿の件ですが、一応報告が上がっている分のみお知らせします。」


 ギルド派遣組合本部と違い、支部では全てでは無いが魔術師名簿が保管されている。


1.全組合でも上位クラスの魔術師

2.国内で登録された魔術師

3.支部に訪れた(もしくは登録した)旅の魔術師


 上記3タイプの魔術師が各支部で名簿管理されている。

 特に3は、他の冒険者と組んで仕事をしつつ、各国を移動する魔術師が比較的多い。

 そのため流れの魔術師は、別の土地への移動は禁じないが、都度ギルドへ連絡する規定がある。


 理由は

1.その方が互いに仕事がしやすくなるから。

2.生死確認のため。

 の2点だ。


 魔術師は貴重である。

 しかし全ての魔術師を保護管理できる程ギルドには資金が無い。

 せいぜい何処にいるか大体の把握はしておこう。程度に名簿を作られているのが実情なのである。

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