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緊急招集
緊急招集の話が一旦終息した所で、ギルド職員アカイノはラファエレを紹介した。
ラファエレ=オーリックは、18歳の魔術師見習いで、旅をしながら魔術の勉強を始めたばかりだと言う。
各国で出会った民に、かなり格安で術を施していたようだ。
病で倒れた子供に薬草を与えたり、戦争で井戸を全滅された村に新たな井戸を掘り当て、復興を早めたり、少しずつ名声を集めていたのだと言う。
ここ最近はクルセウス領土内部の集落を拠点にしていたらしい。
ギルドに未登録で。
とは言っても別に未登録は犯罪では無い。
ただ能力ある魔術師が仕官もせず、小さな集落をうろうろと世直しのような事をされては、集落の民にとっては有り難くともギルドとしては価格破壊も良い所だった。
本人は修行の一環だし、見習いなのだから、そう高い給金を設定していなかった程度にしか捉えていないようだが、ギルドとしてはちょっと(かなり)迷惑だったので、登録を要請した所、それは何だと聞き返されてしまった。
今や全世界にその名を轟かせ、全世界に支部を置くギルドを知らないとは何処の箱入り娘かと驚き、ギルド派遣組合について説明をすると、そんな素晴らしい機関があったのかと感心し始めたので、世間知らずぶりに何者なのかと詮索したが、身分は問わないのがギルドではないのかと逆にやり込められてしまったと言う。
しかし、最近滞在中の集落に依頼人達が集り過ぎて、どうにも身動きが取れず困っていたので整理する事と、過去の依頼については面積無し。
またお世話になっている集落に自分に代わる魔術師を派遣する事。
と言う交換条件を元に、ラファエレ=オーリックはギルドに登録した。
それが今日だった。
一番近かったクルセウス領のギルド支部に赴き、手続きを行った矢先、今回の依頼を彼女は知らされた。
ギルドとしては、今回の依頼に新人を連れてくるべきか悩んだらしいが、他の魔術師の到着を待つよりは何かの役に立つだろうと判断し、連れてきたらしい。
ギルド職員の説明を暫く聞いていたジュードが口を開いた。
「その二人は?」
ラファエレ以外のいかつい男2人を指差す。
「旅先でラファエレが雇った傭兵です。」
「ギルドに登録していないのか。」
「していますが…今回ギルドは通していませんでしたね。」
ジュードの突っ込みに、ギルド職員は苦笑した。
「ふん。相変わらず下位の管理はずさんだな。」
「返す言葉もございません。」
「…。」
意趣返しのつもりでは無いが軽く絡んでやったものの、口答えもしないので面白くも無い。
ジュードはラファエレを見ると、手招きした。
口角を上げて頷くと傭兵二人を制してから、一人でジュードの前に歩み寄るラファエレ。
上から下までじっくり魔術師を眺めた後、タスクへ視線を移す。
ジュードには美しい女に見えるのみで魔術師かどうかまでは判別もつかず、タスクに判断させようとするも
「魔術師だとは解るが、能力の強弱までは解らん。」
と肩をすくめるに終わる。
その刹那。
ラファエレの額のサークレットが輝き、ジュードの机にあった水差しの蓋がかたかたと音をたてて揺れ始めた。
水差しの口からトレーの上に、泡立つように水が零れ落ちて行く。
トレーから水が溢れそうになると執事が慌てて片付け始める。
イタズラ程度ではあったが、確かに魔術の片鱗をみたジュードは、水差しを見つめた後なるほどと頷いた。
「見習い魔術師はご不要でしょうか?」
そう言って紫色の瞳を揺らしてゆったり微笑み、領主様の合否の言葉を静かに待つ。
正直、力試しとは言え水差しから水が溢れたから何だとジュードは思うが、そこは使いようなのかも知れないと検討し始める。
「魔術師は杖を持っていると聞いたが?」
「杖の代用になるものがあれば宜しいのです。私の場合はサークレットがそれに当ります。能力値の高い魔術師は杖すら必要と致しませんが。」
「ルーン文字は読めるか。」
「魔術師にとっては基礎です。」
「他に出来ることは?」
「薬草の知識と医学を少し。お時間をいただければ結界魔術をご披露致します。」
「どの位の時間を要する?」
「結界の大きさやそのものの能力によりますけれど、詠唱時間、魔方陣を書く時間合わせて最低数時間程でしょうか。」
「えらくかかるな。」
「見習いですもの。」
苦笑するラファエレを眺めてから、ジュードはギルド職員に向き直った。
「アカイノ。書類を出せ。」
アカイノと呼ばれた神経質そうなギルド職員は、嬉々として依頼成立用の書類を差し出した。
「とりあえず短期で雇用する。他に使えそうな魔術師は明日のいつ到着する予定だ?」
差し出された契約書にジュードのサインを書きこむ。
契約書には既に、ラファエレの名前が書き込まれている。
「一番早くて明日の夜に着くかどうかと言う所で、他の魔術師も似たり寄ったりです。」
アカイノの言葉に、ふむとジュードは頷き、アールへ視線を移す。
「アール、3人目の魔術師が来たらラファエレの雇用を継続するかはお前が決めろ。」
アールは無言で頭を下げ
「そこの二人はどうしますか。」
と、ラファエレが連れて来た傭兵二人を見る。
「オブジェにするには美しくも無い。追い出すか。」
辛辣な目線を投げて、ジュードの皮肉が傭兵達に向かったので、男二人は憤慨して腰元の剣に手をかける。
突如としてジュードの書斎は殺気に満ち溢れた。




