027
魔術師登場
午前中に書斎に来ていたギルド職員と、育ちの荒そうな剣を携えた男が二人と、ローブ姿で目深にフードを被った魔術師らしき者が順番に入室する。
ジュードが予想していた人数より多い。
部屋の隅にある椅子に腰掛けたままのタスクと、立ったままジュードの席の脇に退いたアールが、客人を注目する。
神経質そうな顔立ちのギルド職員が深い礼をとり、他の男達へ目線だけ向けて頷く。
一見傭兵に見える茶髪に灰色の目をした男が、油断ならない視線で辺りをじっくり見渡し、ジュードを見、アールを見、最後にタスクをちらりと見て、すぐジュードに目線を戻して一礼する。
アール並の身長で、体の線は太く逞しい。使い込まれた鎧と、傷だらけの肉体が、歴戦を潜り抜けてきた証にみえる。
もう一人の赤毛で茶色の目の男は、頬痩けた顔立ちで、逞しいが線は細く筋肉と骨のみで出来たような男だった。
キロキロと目線を動かしたものの、先程の男に倣って微かに一礼する。
この2人に関しては、ギルドがよく準備してくれるタイプの傭兵と思われた。
最後に入室した魔術師らしき衣装の者がえらく華やかだった。
目深にかぶったローブの裾には、淡い染料で染めた糸で美しく植物の模様を象っており、何か香でも焚いてあるのか、動く度にふわりと花の香りが漂った。
真っ白な手でフードを捲ると、亜麻色の2本の三つ編みでまとめた長髪がゆったりと揺れて肩から落ちる。
紫色の大きな瞳が幾度か瞬きし、ジュードを静かに見つめると、深く頭を下げた。
彼女の動きに合わせて、額のサークレット中央部の小さな緑の石が、部屋に入る日差しと反射して光る。
柔らかな動きと品のある所作、身に付ける衣服、頬の微かな赤みと柔らかな体の線、フード付きローブを片手で抑える白魚のような手に細い指先。
どれを取っても、ギルドが派遣した魔術師と言うより、見目麗しい宮廷魔術師のそれに近い。
"極端な…"
と、ギルド職員の連れて来た3人をそれぞれ眺め、アールは苦笑した。
頭を上げ、ジュードを見つめて頬笑む仕草も大変魅力的である。
「お初にお目にかかります。ご領主様。ラファエレ=オーリックと申します。ま…」
微笑んだまま、自己紹介が始まってしまい、ギルド職員が慌てて止めた。
「待ちなさい。私がまず報告と紹介を行うから。」
ラファエレは、戸惑うように手を口元に持って行くと
「まあアカイノ様、申し訳ありません。何分にも新人で…」
と恥ずかしげに頬を赤らめ、また頭を下げる。
「…新人?」
ジュードの片眉がぴくりと上がり、アカイノと呼ばれたギルド職員を見た。
ギルド職員は、あちゃーと言うように、手を額にあて
「黙るんだ。良いね?」
と、改めて言い聞かせると、ラファエレはこくこくと頷いた。
それを確認してから再度ジュードに向き直る。
アールとタスク、ジュードから冷えた風を感じたものの、気を取り直すように咳払いをし、言葉を選びながらアカイノは説明し始めた。
「まず彼女の説明に入る前に申し上げて起きたいことが2点ございます。」
「何だ?」
「まず1点。今回、当ギルド支部では緊急招集を使用致しました。」
「緊急招集とは?」
「ギルド支部の管理区域で起こった災害処理の為に、直属の精鋭達をギルドの権限で招集出来ると言うものです。緊急時は、王族、及び領主皆様の報告・連絡・相談は事後で行います。」
ジュードは執事を見た。
ギルドとかわした契約書を何枚か確認していた執事はある項目を確認し、ジュードの机の上に置く。
読めば確かにそのような項目はある。
ギルドは街に支部があるので、冒険者や傭兵達も支部付近にある宿を根城にしている。
よって自然と召集をかけやすい結果になるので、街を守る場合において対応が早いのだ。
アカイノの話はまだ続く。
「魔術師を一刻も早く用意する為の苦肉の策として、勝手ながらこの特例を発動させました。」
「魔術師の集まりが悪いという事か。」
「戦闘系の魔術師はどうしても数が限られている為、引っ張りだこです。現在も当支部周辺でモンスター討伐に対応できうる者は皆無に等しいのです。」
ジュードは嘆息して先を促す。
「ギルドの管理下にある精鋭戦士及び魔術師は、緊急招集により抱えている依頼を中断して優先する。と規定がございます。」
「魔術師だけと言う訳には行かんようだな。」
「はい。いずれにせよ魔術師をフォローする戦士は必要になります。戦士達が既に森林付近に30人以上集結、明日には更に20~30人は集る予定です。また、魔術師は明日中には数人戻って来る予定となっております。」
アールを見ると、森林に待機中の部下からまだ報告は受けていないと言う。
嫌な空気になって来たと認識しつつ、アカイノは気を使いながら話しを続ける。
「午前中に頂いたご依頼を伺うに、もし今回のモンスターがクルセウス騎士団皆様と鉢合わせて居なければ、ギルドが真っ先に緊急招集をかけていた事と存じます。」
「…。」
「結局ギルドは後手に回った結果になりましたが、本来一般市民に迷惑がかからぬよう、我々が動くべき案件だったと反省しております。」
「…。」
今朝の時点ではモンスターの生死確認はとれていなかった。
ギルドが後手に回ったと言うよりむしろ、騎士団員がモンスターと出くわさなければとっくに街に被害が及んでいたかも知れず、今の所最小限に被害が収まっているとは言え、後手に回っていたのはジュードだったかも知れない。
しかし、現実はジュードの部下ばかり犠牲にあった。
今更ギルドに引き継ぐ等何故出来よう。
曲りなりにもクルセウス領主がギルドに真っ先に頼る訳に行くかと、目を細めてアカイノを睨みつける。
「領主が対応できない不足の事態でもない。私はもう知ってしまったし、この事件について対処を行うべく、行動中である。」
「ご尤もです。ですが、領主様は辺境伯。集中するべきは隣国の牽制かと存じます。」
「私に指図するとは良い身分だな。」
穏やかな物言いだが、言葉には殺気が篭り剣呑な空気がビリビリと震えている。
「申し訳ありません。」
アカイノは恭しく頭を垂れるしか無い。
ギルドの態度を見て領主は嘆息し、アールとタスクを見る。
彼らは大人しく領主様の指示を待っているようだ。
二人を見つめていると答えが決っているのなら、ごねても無駄であると思い直す。
宮廷魔術師が来ない以上、ギルドに頼らざるを得ない。中間管理職の辛い所だ。
室内に嫌な沈黙が流れたが、アカイノは沈黙の壁を破る。
「では2点目、成功報酬の請求はおってご連絡致します。」
「なに?」
勝手に動くくせに報酬は請求するらしい。
「我々も慈善事業は行っておりません。その代わり確かな結果はご提供致します。」
「結果が伴わねば、勝手が許されぬは道理だな。」
ジュードの皮肉に、アカイノは頷いた。
「我々に引き継ぐ良い機会とお考え下さい。騎士団様のような一国を守る重要人物を惜しげもなく使役されるより、我々のような底辺の冒険者をまずご使用になる事をお勧め致します。」
再度頭を垂れるアカイノを見る。
「謙遜するな。君達地域密着型ギルドの優秀さにはいつも感謝している。」
「恐悦至極に存じます。」
このままごねているのも時間の無駄なので、折り合いをつける意味で、ギルドのごますりに乗ってやった。
ギルドは国に税金は支払っても、国に管理されない無法機関のような所がある。
なし崩しにアカイノに話を持って行かれた感があり、多少不快にもなったが、ギルドに任せれば国境警備に集中できる利点がある。
「言いたい事は山と在るが、一応受理しよう。しかし、完全な引継ぎは有り得ない。指揮権はあくまでクルセウス領主にあると思え。以降、連絡無く動く際、金は払わん。」
ケチ臭いかも知れないが、ギルドは金でしか動かない。
ジュードは効果のある脅しを他に知らない。
「肝に銘じます。」
アカイノは従順な態度を見せた。
「…陛下にご報告が増えたな。」
クルセウス領主様は、長い指で自身の髪を掻き揚げると大きな溜息をついた。
盆休みって事で、多忙になってしまいましたので、用事が済むまで一旦お休み致します。




