第22話 その技術は失われし古代遺産(なんのこっちゃ)
王都の冒険者ギルドへと向かう道中。
A級冒険者のエレナは、フードを目深にかぶったまま、隣を歩く俺に向かって、地を這うような低い声で呟いた。
「クロス。あなた、朝方にサラッと言っていたけれど……あの『マヨネーズの土手』で卵を閉じ込めるという悪魔の調理法。あれを『らぴ◯た』と呼んでいたわね?」
「え? ああ、はい。そうですが……それが何か?」
「やっぱりそうだわ……っ!」
エレナはガタッと肩を震わせ、周囲を警戒するようにキョロキョロと見回した。
「もしやそれは、私が幼い頃に読ん歴史書に書かれた伝説の島!」
「いいえ。異界の調理法です」
「伝説の天空の浮遊島!」
「おいこら」
「古代の超高度魔導文明によって作られ、一撃で大陸を灰にするという失われた遺産!」
「それ以上言うな。なんだかいけない気がする」
「まさか……あなたの組織はすでにその技術すら掌握しているというの……!?」
「エレナさん、深読みしすぎ。ただのパンの呼び名ですよ」
「フン、そうやって世界の平穏のためにトボケるつもりね。いいわ、その口の固さ、組織の幹部として信頼に値するわ!」
完全に一蓮托生(共犯者)のつもりでいるな、こいつ。
♢
ギルドの重い大扉を開けると、中はいまだに、ここ数日のオーロラ現象の噂でもちきりだった。
「おい、聞いたか? 魔導省の専門家が、あの紅白の光を分析したらしい」
「ああ、通常の100倍以上の『聖属性魔力』と、なぜか『脂肪分』のエネルギーが検出されたって大騒ぎだ」
(魔導省の分析能力、無駄に高すぎない!?)
ギルドの酒場では、高ランクの冒険者たちが深刻な顔で議論を交わしている。
その中心にいるギルドマスターが、俺とエレナの姿を見つけるなり、ドカドカと歩み寄ってきた。
「おお、エレナ! それにクロス! ちょうどいいところに来た。お前たち、昨夜のあの『めでたい紅白の光』が上がった民間区の近くで、何か不審な動きを見なかったか?」
ギルマスの鋭い眼光が俺に突き刺さる。
俺が冷や汗を流しながら言い訳を考えていると、隣のエレナが完璧なポーカーフェイスで一歩前に出た。
「マスター。その件でしたら私から報告があります。昨夜、民間区を調査していたのですが……あれは、魔王軍の残党による『広範囲精神汚染テロ』の予兆です」
「……何だと!?」
ギルマスが目を見開く。俺も目を見開いた。おいエレナ、何て大嘘をブチかましてるんだ。
「魔族どもは、王都の住民の精神を狂わせるため、謎の『生クリームの幻影』を街全体に放射したのです。私とクロスは、その精神攻撃を食い止めるため、一晩中、地下で必死の防衛魔術(ただの買い食いアリバイ)を展開していました。おかげで住民たちの腰痛が治るなどの微細なバグが出ましたが、テロの本体は完全に我が組織……いえ、我々が阻止しました!」
エレナは胸を張り、凛とした声で堂々と宣言した。
A級冒険者としての圧倒的な信頼度があるため、ギルドマスターは「む、無理もない……エレナとお前がそこまで言うなら、そういうことにしておこう……」と、完全に丸め込まれてしまった。
え、今の信じるの?
「さすがはエレナだ。よし、魔族のテロを未然に防いだ功績として、お前たち二人には特別報酬を出す。クロス、お前もA級の背中を見て、しっかり学ぶんだぞ」
「は、はい。ありがとうございます……」
なんという完璧な情報操作。
エレナのおかげで、ラステアの「デブ活オーロラ」は、すべて『魔族のテロを阻止した英雄的行為』として処理されてしまった。
ギルドを出た後、路地裏でエレナはフッ、と得意げに髪をかき上げた。
「どう? クロス。私の機転のおかげで、あなたの『計画』はギルドの上層部から完全に隠蔽されたわ。……これで、私の監視能力の高さが証明されたかしら?」
「ええ……本当に助かりましたよ(色んな意味で)」
「ふん、感謝するなら、今夜の『組織の作戦会議(晩ごはん)』は、もっと凄いものを期待しているわよ? 聖女様ばかりに美味しい思いをさせるのは不公平だからね」
ツンとすました顔をしながらも、その琥珀色の瞳は「今夜は何が食べられるのか」という期待でキラキラと輝いている。
隠密料理人として世界を操る(と勘違いされている)俺と、秘密結社(ただの食いしん坊の集まり)のメンバーとなったエレナ。
今夜もまた、ボロアパート『ひだまり荘』で、ジャージ姿の聖女様が胃袋を空っぽにして俺たちの帰りを待っている。
次は、このA級女騎士の脳をさらにバグらせる、どんなジャンクフードを投下してやろうか。




