21 想光
ウィリアムは、セルヴァンテスの方に這って行った。
「セルヴァンテス・・・。」
名前を呼んで屈みこんでも、反応は無かった。目を閉じたまま、微笑みかけてもくれない。
「うそ・・・。」
ウィリアムは涙を流した。涙が一しずく、セルヴァンテスの胸の傷に落ちた。すると、傷がふさがり始めた。ウィリアムは驚いて、セルヴァンテスから離れた。嬉しいのか、怖いのか分からない。ただ、じっと見ていた。胸の傷がふさがった。セルヴァンテスの目から涙がこぼれた。
「セルヴァンテス!」
生きている!ウィリアムが近寄った。だが、様子がおかしい。
「セルヴァンテス・・・?」
顔に、黄緑の鱗が浮かび上がるのが見えた。慌てて手に視線を落とすと、セルヴァンテスの指はなく、代わりに黒曜石のような漆黒の蹄があった。明るい茶色だった癖っ毛は、黄金色に変わっていった。手にも鱗が出てきた。ウィリアムは悲鳴を上げて後ずさった。左目が熱い。セルヴァンテスの額からは、ルビーのような角が生えてきた。
それはもうセルヴァンテスではなかった。翼も生え、黄緑の鱗に覆われた怪物。目を開けた。セルヴァンテスの瞳は優しい鳶色だったが、瞳は黄金色、それ以外は黒の目をしていた。四つの力強い足で立ち、翼をはためかせた。飛ぶことはできないのか、それとも飛ぶつもりがなかっただけなのか。翼はゆっくり畳まれた。顎の髭と尾も黄金色で、特に尾は馬のような立派なものだった。
「あ・・・。」
ウィリアムは恐怖に立てなくなった。体が震えている。だが、怪物はウィリアムには興味がないようだった。光の漏れる扉を、じっと見つめている。その姿は、ウィリアムに背を向けて、まるで守っているかのようだった。
サブタイトル「想光」なんて言葉はありません、多分。創語です。




