20 裏切りの意味
カニバーリェス卿は、ウィリアムの手を引っ張ると、無理矢理祭壇の前へ連れて行った。そして小さな体を押し倒し、水入れにウィリアムの頭を押さえつけるような格好をした。
「さあ、早く。」
ウィリアムは口で呼吸しながら、カニバーリェス卿を見上げた。
「早く、涙を!」
今度はカニバーリェス卿を睨んだ。カニバーリェス卿の顔が歪んだ。
「このガキめ!」
カニバーリェス卿は、ウィリアムの顔をひっぱたいた。ウィリアムは唇を噛んで耐えた。セルヴァンテスの、閣下、と言う声が響いた。
「強情なやつだ・・・。」
カニバーリェス卿は改めて、ウィリアムの左目を見た。黒地に、黄金の瞳。そして、鱗。竜と同じ目。だがなんと醜い。
「おい、」
カニバーリェス卿が部下に目配せした。何人かが、後ろへ下がった。
「セルヴァンテス。」
「はい。」
セルヴァンテスが何も知らずに、前へ歩み寄った。カニバーリェス卿が嫌らしく笑った。
突然、彼の部下が、セルヴァンテスを後ろから掴んだ。そして、胸に短刀を当てると、一気に横に引いた。セルヴァンテスが、うっと呻いて倒れた。まるで、釣り糸の切れた操り人形のようだ。その後も、兵士達はセルヴァンテスを痛めつけた。カニバーリェス卿は、ウィリアムの顔を力ずくでそちらに向かせた。見まいと目を閉じようと試みても、体が言うことを聞かなかった。仲間じゃなかったの?なんで、セルヴァンテスが!いやだ!
「いやっ、やめてーっ、セルヴァンテス!やめて!」
ウィリアムの両目から、涙が伝った。カニバーリェス卿は無理矢理祭壇の方へウィリアムの顔を押しやった。
涙が一滴、こぼれ落ちた。祭壇の奥にあった扉を封印していた鎖が、音を立てて切れた。
カニバーリェス卿はウィリアムを突き飛ばすようにしてどけると、扉を勢いよく開けた。青白い光が扉の向こうから満ち溢れていた。
「この奥か・・・。」
カニバーリェス卿が嬉々とした声で言った。
「ついて来い。」
兵士が一瞬固まった。
「閣下、この子は?」
カニバーリェス卿は一瞬、うずくまっているウィリアムを見た。
「捨て置け。もう用はない。どうせ死ぬのだ。呪いのせいでな。」
言い捨てると、さっさと行ってしまった。兵士達も後を追った。後には静寂と共に、ウィリアムとセルヴァンテスだけが残された。




