アスル・アクソイ
「ギャアアアアアアッ!!」
「火攻めかっ!?この身体が耐えきれ……な……」
突然、辺り一面が火に包まれる。燃え盛る炎の熱で、その機体の表面が溶け落ちた。
既に破壊され尽くした村の瓦礫から、奇妙な魔力の糸が伸びているのをアスル・アクソイは発見した。
「ネヒル!ここだ!」
「はい!」
ネヒル・アクソイが瓦礫を持ち上げると、魔力の糸の上に、瓦礫に押し潰された少女が居た。
無惨な姿だ。だが、生きている。
「お前の魔法か、これ」
「は……」
アスルが問い掛けると、イペクは懸命に答えようとする。
「負傷が酷いな。話さなくて良い、直ぐに治してやる。おい、瓦礫を退かせておけ!」
「分かりました!アスル様は!?」
「残党を消し炭にしてくる」
温度が上がり続ける火から逃げようとする、敵の悲鳴が響いている。アスルが腕を掲げると、空一面に火球が出現した。
ネヒルは、慎重にイペクを押し潰す瓦礫を取り除いたあと、彼女の魔法でイペクの身を清めた。
「聞こえる?我慢してね、今から身体に刺さった木を抜くよ!?」
「う……」
イペクは、声が聞こえる方に向かって頷く。
「せーのっ!」
「あぁッ!」
「アスル様、お願いします」
「あぁ」
逃げ惑う襲撃者に火球が降り注ぎ、その爆発で地面が揺れる。それを背に、アスルがイペクに手をかざすと、オレンジ色の炎がイペクの身体を包んだ。
イペクの傷がみるみる塞がり、出血が止まっていく。痛みが引いたのか、イペクの苦悶の表情が和らいだ。
「ネヒル、お前はこのガキを見てろ」
「分かりました。敵の全容が分かりません。アスル様も、くれぐれもお気を付けて」
「心配ねぇよ。それよりもお前が私の火に巻き込まれないように気を付けな」
ネヒルは跪いたまま、無言で頭を下げた。
「ふざけたことしやがって。灰すら残さず燃やし尽くしてやる」
アスルは少し屈むと、その場で空を飛んだ。周囲に凄まじい熱風と上昇気流が巻き起こる。
「見つけた。やっぱりわらわらと居やがる」
樹海から離れた遥か後方、似たような見た目の集団が集まっている。
樹海の入り口で、警戒を解いたアンドロイドの軍隊が、先遣隊の帰りを待っていた。
「どうやら敵対的な奴らがいるらしいな」
「でもそれ、先遣隊だけで全員殺してきたらしいぜ」
襲撃者である彼らは、相手の戦力を滅ぼしたとの連絡を受け、自分達の仕事内容が変わったと判断した。
「あーあ、俺達の仕事は殺しじゃなくてただの採取か」
「楽で良いじゃねーか。危険もないし」
「あのなぁ、アンドロイドの傭兵のどこに危険を恐れる奴がいるんだよ。つまんねーんだよ!だからお前もこうしてここに来たんだろ?」
「キレんなよ、うるせぇな」
その時、空から火球が落ちてくる。それは一人のアンドロイドに着弾し、爆発した。
「なんだ!?隕石か!?」
「私の管轄で好き勝手してくれたのはお前達だな?」
突然、前方に燃えるような髪の女が現れる。
「あ?」
「誰かいるぞ」
「消し飛べ」
その女を中心に、爆音と共に激しく立ち上る火柱。そして次の瞬間、突如出現した火球が大地を焦がしながら、アンドロイド軍の真ん中を抜けた。
「アアアアアッ!!」
「ウワアアアアアアッ!!」
直撃したアンドロイドのうち、半分ほどが爆発した。その近くにいた他の機体も誘爆する。
「ちっ、思ったよりも頑丈だな」
アスルがそう吐き捨てると、アンドロイド達は一斉に銃口を向けた。
「敵だッ!殺せ!!」
「何だコイツは!?」
「排除しろ!!」
アスルに対し、応射するアンドロイドの軍勢。そのほとんどが直撃する。
人間なら形も残らないほどの銃弾の嵐。それを受けてなおアスルは倒れずに踏みとどまった。
「んなッ!?」
「お前らはこんな痛みをあいつらに与えたのか?」
銃弾を全身に受け、肉が飛び散り至るところから血が吹き出すアスルの身体をオレンジ色の炎が包む。
「ば、バカな」
「化け物……」
流れる血は炎に焼かれ瞬時に止まり、銃弾によって抉られた肉は内側から盛り上がり、傷口を塞いでいく。
「コイツ、不死身か!?」
「とにかく撃ち続けろ!!」
アンドロイド達は混乱しながらも、射撃を続ける。弾丸が次々とアスルの身体へと食い込み、骨は砕け、内臓は破裂した。それでも膝すら折れない。
「鬱陶しいな」
アスルが手を払うと、異常な熱波と共に炎の壁が生まれ、弾丸はそこで姿を消した。
「大型用誘導弾用意!」
「撃てぇッ!!」
放たれたミサイルがアスルに迫る。それをアスルは正面から手で受け止め、瞬時に溶かし切った。
アスルの足元が爆発すると同時に、アンドロイドの軍勢の中に瞬時に移動する。その拳はアンドロイドの目で捉え切れる速度ではなかった。
アスルの拳が、アンドロイドの頭部にめり込む。頭部はひしゃげ、その機体は地面を転がりながら他の機体を巻き込んで飛んでいく。
「ひっ……」
「接近を許すな!距離を取れ!」
命令を受け、アンドロイド達は一斉に散開した。その光景は、アスルには散り散りに逃げようとしているように見えた。
「あ?舐めてんのか」
アスルが腕を広げると、その手のひらに熱と光が集まる。そして腕を振るった途端、超高温の光の鞭が空を飛ぶ鳥を捉えるかのように伸び、その線上にいた全てのアンドロイドが真っ二つに裂けた。
「私が来た時点で、もう逃げ場なんかねぇよ」
裂けた機体が爆発する。その爆風と炎が連鎖し、隊列は崩壊していく。再び距離を詰め、アスルが拳を叩き込むと、装甲が内側へ折れ曲がり、背中から炎が噴き出す。腕を振り抜くと同時に熱でちぎり取った機体の腕を別のアンドロイドに投げて突き刺した。
「もっと抵抗しろよ、この害虫どもが!!!」
アスルは燃え盛る炎の中、叫び、嘲嗤う。アンドロイドの軍勢は、まさに火に入る羽虫の如く、瞬く間に灰と溶けた鉄屑となっていく。
「撤退しろ、撤退だ!!」
一部のアンドロイドが背を向け、逃げ出していく。アスルはそれを敢えて見て見ぬふりをした。
その場から一体残らず消し去ると、その場で上昇し、空から逃げたアンドロイドを追った。
残ったアンドロイドが逃げた先には、樹海から離れた荒野に築かれた遠征基地があった。そこには様々な資材運搬用と思われる車両や輸送機が並ぶ。そして通信塔が立ち、そこにはたくさんの人間の作業員が働いていた。
「あそこが根城か。何だ?あの建物は」
アスルの目には、それらの先進的な設備は、奇怪な見た目に映った。しかし、怒りに身を任せた今のアスルにはどうでも良いことだった。
「あの鉄屑だけでなく、外の人間共もいるのか」
樹海の中に住むアスル達にとって、樹海の外の人類は中立的な存在だった。
「やはり外の人間は邪悪か」
しかし、自分達を襲撃したものと親しい関係なのであれば、全て敵だ。
遠征基地に生き残りのアンドロイドが駆け込むと、それを見た基地の作業員が声を掛ける。
「お、軍の奴じゃないか。どうした、良いもんは取れたか?」
「おい、直ぐに国へ連絡してくれ!やべぇことになった!」
「突然なんだ、落ち着けって」
アンドロイドの様子がおかしい。
「そんな場合じゃ」
「……ん?なんだあれ」
ふと、日差しがやけに熱く感じられ、空を見上げた。
「あれ、空にもう一つ太陽が」
「消えろ」
その遠征基地は、空からまるで太陽が落ちてくるような光景を最後に、遥か彼方から見えるほどの火柱と共に焼失した。
遠征基地の跡地には、黒く焦げた地面だけが残っていた。




