第61話 ヤマクライの力
次々と船べりを登って来るヤマクライの群れ、ただその戦闘力は特筆する程でもなく、どちらかと言えば他愛無く感じた。
実際にその大口に噛まれたら酷い事になりそうだが、狩竜人だったら避ける事は造作もなかった。
町の人々は次々と捕食されてしまったかもしれないが、その時に俺達が何人か居たら結果は変わっていただろう、そう思うと少しやるせない気持ちになる。
大きな口から魚の様に首の無い身体、腕は小さく子供の指のよう、二足歩行をしているので脚はがっしりとしているが、正直アンドリューの方が竜っぽい・・・、竜ぽいってなんだ。
レイも初めて対峙するために、ヤマクライの秘めた力を過大評価していたのだろう、俺達の間に少しだけ慢心とも油断とも取れる空気が漂い始めた、すでに何頭のヤマクライを倒したのだろうか。
こんなに手応えが無いのなら、幻の竜と言われていた言い伝えも眉唾なんじゃ無いか、誰も見つける事が出来なかっただけで、きちんと調査をされたら、すぐに竜ではなくなってしまいそうな、それぐらいの手応えの無さだった。
そして、それが大きな失敗の始まりになってしまった。
「レイナルド隊長、これぐらいの強さなら、すぐにでも港に引き返した方が良いんじゃ無いですか」
そんな声が聞こえた、誰の声だったかは聴き取れなかったが、おそらく誰もがそう思っていたのだろう。
みんなの顔から緊張の色が消えて笑みが零れ始めた、そしてレイはその言葉を聞いて大きな声で叫んだ、
「死体を喰われない様にしろ、そのまま放置するな、喰われるぞ」
死体に喰われる、そう聞こえた俺達は驚き、大急ぎで脚下に転がるヤマクライの死体を海に蹴り落し始めた、その光景を見たレイが再び吼えた、
「そうじゃない、ヤマクライに死体を食わせ無いようにするんだ」
時すでに遅し、海面に落ちたヤマクライの死体は、次々と別のヤマクライに喰われ、死体を喰ったヤマクライがみるみるうちに大きくなっていった。
子供の指のようだった細いヤマクライの指は、あっと言う間に大人の指の太さになり、そこからさらに大きくなっていく。
そして、その大きくなった巨体が船べりにしがみついた、ぐらぐらと船が揺れる、俺の胸くらいの高さしか無かったヤマクライが、今は見上げるほど大きくなり、その特徴的な大きい口は更に大きくなっており、人間を簡単に一口で食べれる大きさになっていた。
「気を付けろ、恐らく今までのような事は無い」
レイの怒号が響く、どれほどの力を秘めているのか、俺達には何もわからない、そして、緩み切っていた俺達の顔が緊張で一気に引き締まる。
これが、ヤマクライ。
町の人々をすべて食べ尽くした、幻の竜。
その大きな口から、咀嚼により砕けた仲間の死体がこちらを覗いている。
顔を上に向け、仲間をごくりと飲み込んだ、そしてまた少しヤマクライは大きくなっていった。




