第59話 山を喰らう竜
その港は、静まり返っていた。
普段なら、何隻もの漁船が行き来している筈の港に人一人、生き物一匹いない不気味さを漂わせていた。
接岸されている船も異常に少なく、半分沈んでしまっている船の方が多いくらいだ。
遠巻きに旋回をしながら港の様子を窺っていたが、噂と報告が会った通りに異変が起きている。
これが、つい数日前まで賑わいを見せていた漁港とはとても思えない。
「まずいな、この様子だと生存者は居ないかも知れない」
艦橋からでは無く、空気を感じ取りたいからという理由で船首まで出て来ていたレイが呟いた、一体何が起きているのかはまだ教えて貰っていない俺達は、ただただ静かな漁港に背筋が冷たくなった。
「今からいう事は機密事項だから・・・、今更そう言うのは良いか。あー、勘の良い者は気付いているかも知れないが、この港町に竜害が起こった様だ、恐らく生存者は居ない・・・とは思いたくは無い」
「レイナルド船長、竜害が起こったって言いますけど、いったいどんな竜なんですか。俺の知っている限りだと、思い浮かばないのですが」
アトモスで合流した時に補充された狩竜人がレイに問い掛けた、担当地方の違いであまり顔を合わせたことは無い、そんな狩竜人が何人も同船している、
「知らないのも無理は無い、俺も始めて見る竜だからだ」
レイの返答に一気に周りが騒がしくなる、狩竜人として経験豊富なレイが見た事も無い竜とはいったいどんな竜なのだろうか、
「ちょっと静かにしてくれ、聞きたい事が有ったら後で個別に聞きに来てくれ。それで、初めて見たと言うのは嘘じゃ無いが、近い竜は見た事が有る。海の上で死体を拾ったから、俺の間違いで有る事を願っていたんだが、調べたらまたあいつらが関わっていた」
あいつらと言う単語に俺は身体の中が熱くなるのを感じた、黒龍教、レイがそんな言い方をするのは黒龍教しか有り得ない、
「荷物を積んだ狩竜人船が沖の方で落ちたらしい、らしいと言うのは誰も見ていないからだ、そして、その近くで漁をしていた漁船が戻って来なかった。数日後に港から救助に向かった船が、戻って来なかった漁船を曳航して港に戻って来たが、船は両方とも無人だった」
積み荷と言うのは恐らくは竜、それも黒龍教に強化された普通では無い竜なのだろう、
「そして、今に至るって訳だ。町からは生き物がすべて消え・・・、じゃねぇな、あいつらは生きている、今もこちらを監視しているはずだ。その生き物の名前は「ヤマクライ」、特級の危険な竜だ」
そしてまたざわめきが起こる、初めて聞く名前だが、特級と言うくらいなのだから、俺やブレンドンが知らなくても無理は無いだろう、
「それじゃあ作戦会議をするから一旦ここを離れる、侵入されない様に周りに気を付けろよ」
「・・・喰われるぞ」




