第58話 遭難
「おい坊主、お前昨日も来てたけど、父ちゃんまだ帰って来ねぇのか」
「うん、予定より3日遅いんだ」
坊主と呼ばれた少年は少し涙ぐみながら答えた、それを見て声を掛けた漁師も気まずく成った様だ。
アトモスの南に位置する、小さな漁港での小さな異変から始まった。
「ここの所は沖の方の天候も悪くないし、何かあったら連絡が入るだろう。案外魚が取れ過ぎて、連絡し忘れてるだけかもしれねぇな」
漁師は俯いてしまった少年に気を使い笑いながら何事も無いと言うが、それは有り得ない話しだった、帰港する日にちは、積み込んでいる水や魔力量が限られているから簡単に変更することは出来ず、魚が取れ過ぎたくらいでは漁期を延長する事は無い。
漁師はそんな事は百も承知だったが、僅かでも少年を笑顔にする事は出来た。
役所には連日、帰って来ない漁船の乗員の家族たちが情報を貰おうと押しかけて来ていた、しかし一切の返信が無いのだが船は沈んでおらず、呼び出し音が虚しく鳴り響いているだけだった。
その為に答えられる事は何も無く、その事が家族を更に落胆させていた。
漁船の航路は大体は特定できているので、空からの捜索が一番効率が良いのだが、狩竜人船を飛ばす費用が途轍もない額になるため、その費用の捻出に頭を悩ませている。
しかし手を拱いているだけでは何も起こらないため、数隻では有るが漁を休止して捜索に参加してくれる漁船を選出し、3日目にして初めて漁以外の目的で船を出す事になった。
「沈没もしてねぇ船を捜しに行くのは初めてだな」
「それは俺もそうだ、だけんどあの坊主の顔を見てると、なんとかしてでも見つけてやりてぇな」
「そだな、リヴァイアサンに逢うよりは簡単かも知れねえな」
「は、そんなもんに会ったら俺は死んでまうわ、何年か前に出たらしいがな」
漁船の捜索は順調とも、難航とも言えない状況だった、漁船が通常の航路から外れていたら見つかる可能性は限りなく低くなるし、連絡も取れない漁船が航路上に留まっているとは考えにくい。
座礁する心配のない海域なので出来るだけ間隔を空け、漁場まで船を進めた。
その途中で漂流している船の残骸を複数見つけたが、その木材と塗料から、自分たちの港の物では無いと判断する事が出来た。
そして漂流物の発生現場が、海流から判断すると漁場から離れている事が推察された。
「なあ、この破片は流れてまだそんなに日が経ってねぇ」
「ああ、俺達も何個か拾った、確かに新しいな」
「想像で話すがよ、これが落ちる所を見たか、残骸が流れて来るのを見て、漁場から海流を辿ったって事は無ぇかな」
「確かにこりゃあ漁船ぽくねぇな、狩竜人船か」
「下手すりゃ、漁よりも良い物あるかも知れねぇからな」
「無くは無いか、どちみち手探りの捜索だからな、それも良いかも知れねぇな」
「そだな、そうするべ」




