第54話 剣と銃
上空に向けて足を蹴り出し、アンドリュー二頭に纏わり付かれて傾いている船へ急いだ。
理路整然と斬りかかっていた狩竜人たちは乱戦の様相を呈し、傷を負ったアンドリューも最後の抵抗をしている。
ガンナーは不安定な足場に手古摺り。真正面からの射撃は簡単に躱されて、まともにアンドリューの機動力を削れていない様だ。
射線を横切らない様に船に戻った俺達は、大急ぎで魔力を再充填すると、傾いた甲板を蹴り再び宙に舞った。
俺達が落ちていた事など構っていられない、そんな事をしていたら自分の身が、帰るべき船が落ちてしまう、そんな緊迫した空気が漂っている。
レイは前と後ろと、剣士とガンナーと船の指揮を執っているだけで手一杯で、先頭で戦っていたら船が持たなかったかも知れない。
そしてJ・Jが崩れそうな前線を何とか纏め上げ、何とか死者は出す事なく、アンドリューに止めを刺す事に成功した。
本来なら落ちて行くアンドリューは甲板に縛り上げ、歓喜の声と共に解体をするのだが、今はそんな事をしている時間は無く、一息吐く間も無く後方のアンドリューと対峙しなければならなかった。
俺は何とか無傷で初狩りを終える事が出来たが、喜びよりも先に吐き気を催す様な緊迫した空気の中で、何度目かの飛び立つ機会を待った。
アンドリューが1頭になった事で、狩りの成功確率は格段に跳ね上がった、そう思っていたが緊迫した空気に変化は見られなかった。
傾いた船は正常に戻ることは無く、船速は落ちる一方で、破壊された船室からは衣類が飛んで行くのが見えた。
これでアンドリューが火を吐く竜だったとしたら、すでに俺達は撤退を余儀なくされているだろう、無事に帰してくれればの話しになるが、そんな事を竜を相手に期待しても無駄だ。
そして、どうしてこんなにも緊迫した空気が漂っているのか、緊急時における焦りや緊張からの怒号や罵声が一切無く、発声は大きいが指示は的確で無駄な発言も無く、淡々と狩りが進んでいるからだ。
銃弾の当たらない事への批判も無く、船に張り付いたまま手を拱いている剣士に八つ当たりもしたりしない。
その事がより場を引き締めている、そしてそれが俺の両肩に重くのしかかり全身を固く強張らせる。
アンドリューを追いかけながら魔力銃を売っている時は、アンドリューの上から矢下から、そして横から等狙いを付ける事が容易に思えたが、まっすぐに正対した時の面積の小ささは驚嘆に値し、見つかるよりも前に見つける事について厳命されていたのかが良くわかった、遠く離れた的に自由自在に当てる事をシンディが全く自慢していなかった事でもわかる。
意思を持って動いている的に当てる事は非常に困難だから、動いていない物には百発百中で無ければ意味は無く、竜に対してはそれも何の役にも立たない。
遠くから魔力銃で撃つだけで狩りが終わる、そんな風に考えていた俺の幻想は完全に打ち砕かれた。
何百何千と素振りを繰り返してたとしても、振るう剣が簡単にその身体を捉えないのと同じ事だったのだ、ただ距離が近いか遠いかだけ、まっすぐに目標へ飛んで行くだけの魔力銃の弾を、アンドリューが簡単に避けるのは自明の理だった。




