第49話 みんな経験者
怪我が治った、怪我を負った負い目も克服した、後は再び以前の様に動けるように成り、以前よりも動けるように成りたい。
軽めの運動から再始動してみたけれど、体力の低下は驚くべきものが有った。
だけどそんな事で挫けるような事も無く、少しづつ少しづつ運動量を増やしていき、レイが決めた復帰時期よりも前に全盛期の力を取り戻すまで鍛える事が出来た。
当然すぐに竜を狩りに行く事には成らず、小手試しに竜以外を何回か狩りに出かけた。
そして、いよいよ年も明けて、レイと共に竜の初狩りに行く計画が持ち上がった。
「冬の竜狩りは大変だけど、行けそうか」
「はい、大丈夫です、と言いたいのですが、何分初めてな物で」
頭を掻きながら答えた、俺の返答にレイは笑顔になり、
「それだけ言えるのなら大丈夫だろう、俺も一緒に狩るしな。と言ってもシリルの場合は、あのお嬢ちゃんが一緒の方が心強いかな」
レイのからかいの言葉に、俺は笑って何も答えなかった。
それを見てレイは少しだけ不機嫌そうな顔をした後で、初狩りでは珍しい事だけれど浮遊靴を履いての狩りになる様だ。
浮遊靴、狩竜人が大地を離れるために狩竜人船に乗り、さらなる高みへ行くために開発されたのが浮遊靴と言われる、文字通り浮遊する事が出来る靴の事だ。
実際には靴の様に履くのだけれど、その本体は背中の背負った魔力炉で、その魔力炉から発生する力によって浮遊する、原理は狩竜人船と同じなのだが俺には良くわからない。
俺が船から落ちた時に、姫様に助けて貰う事が出来たのはこの靴のお陰なので、俺にとっては特別思い入れがある。
最初は歩く事さえ困難だったが、赤ん坊の時と同じ、出来るように成れば出来る、と教えられたのか諭されたのかわからないけれど、俺もブレンドンも今は自由に使いこなせている。
使いこなせていると言っても海の上を飛び回っているだけで、実際に狩竜人船からはじめの一歩を踏み出した事は無い。
片方の足が壊れてしまっても片足で浮く事は出来るが、魔力切れになるともうどうしようもない、その為に使用できる時間は厳格に守る必要が有るし、それを過ぎてしまったとしても、多少の時間なら浮遊する事は出来る、しかしそれを頼りにする事は固く禁止されているし、それを使う様な事になら無いようにしなければならない。
どれだけ強かろうとも船から落ちたら死ぬ、それは狩竜人たちの間では共通認識になっている、そんな事は当然の事だけれど、いざとなるとすべてが上手くいくわけでは無いのだから、よくよく頭の中に入れて置かなければいけない。
「それじゃあシリル以外は、みーんな竜狩りの経験者だし、ちょっと強いの行っちゃいますか」
相変わらず俺をからかう時のレイの口の回転は早い、俺の痛い所を突いてくるが事実である以上俺も反論し辛い。
「そうだね、竜狩りの心構えをヘレナに聞いて置くよ」
それを聞いたレイは悲しい顔になり、それから何も言わなくなってしまった。
どうやらこれがレイには一番効くみたいだぞ、俺はとても強い力を手に入れた。




