第47話 残念
全身を襲う痛みに抗いながら目を開けた、世界の眩しさに再び目を閉じ、寝返りを打とうとして再び襲い来る激痛に悲鳴を上げる事すら出来ずに唸っていると、
「おうシリル、気が付いた様だな」
枕元にはレイが座って居た、恥ずかしさと悔しさが込み上げて来て両の眼から零れ落ちた。
それを見てもレイは何も言わなかった、本当は何か言って欲しかった、いつもの様にからかって欲しかった、そうしたら俺は痛みに耐えながら身体を起こし、こんなにも元気だと強がることが出来た。
暫く何も言わずに僕を見つめていたレイは、優しく僕の頭を撫でると部屋を出て行った。
僕は再び涙が溢れ、その内に泣き疲れたのか眠ってしまったようだ。
再び僕が目を覚ましたのはアルデンサルの病院の中だった、傍らにはレイとヘレナが居て、気が付いた僕を見てヘレナが泣いた、僕は再び泣く事は無かった。
「暫くは怪我を直す事に専念しろ、それ以外の事はあまり深く考えなくても良い」
冷たい響きを纏ったレイの言葉が僕に突き刺さる、だけどもう泣いたりはしない、僕はレイをしっかりと見つめて大きく頷いた、
「力強い良い眼になったな、こんなにかわいい子に心配かけさせるなよ」
レイはそう言うと僕とヘレナを残して部屋の扉へ向かって歩いて行った、少しだけレイの言葉に暖かさが戻ってきた気がする、
「ああそうそう、野生動物は怪我を舐めて治すんだが、あれは良く効くらしいぞ」
レイはヘレナに目配せをした後で部屋を出て行った、全身打撲の上に顎の骨が折れているのに舐めて治せる訳が無いだろう、ヘレナさん決意を固めた様な目をして何をしようとしているのかな、舐めて治すのは傷口であって、決して骨折した個所では無いのですよ、ねえヘレナさんに抵抗できるほど全身に力が入らないんですよ、声も出せない程に顎が痛いんですけど、止めて、止めぇ・・・。
悶え苦しむ僕と、慌てふためいて頭を下げるヘレナを、扉の隙間から顔を覗かせて大笑いしているレイがそこに居た。
ヘレナ、レイって奴はそういう奴なんだと、僕は何度も教えてきた筈なのに、でもヘレナが僕を心配してくれている事は十分に伝わったから、もう身体を揺するのは止めてくれないか。
「おうシリル、ようやく立つところまで回復したな」
「はい、何とかここまで回復する事が出来ました」
支え無しではまだ立つことは出来ないが、言い方を変えれば支えが有れば立てる様になったと言える、全回復にはまだまだかかるだろうけれど、少しずつでも身体を動かして行かないと狩竜人を続ける事が出来ない、
「そうか、あーそれでな今まで内緒にしていた事が有るんだが・・・、どキツイのとそこそこのと順番はどっちが良い」
「じゃあ・・・、どキツイのから」
レイの言うどキツイってのがどれくらいかわからないけれど、レイと姉の結婚が決まったとかでなければ耐える事は出来そうだ、そうなる日が来るのかわからないけれど、
「わかった、あーあのダンドリスの狩りは成功した・・・よな」
「僕は怪我をしちゃったけど、フランシス隊長やトリスタン先輩やブレンドンのお陰で狩る事が出来たし、そう言っていました」
怪我で寝ている間に三人は何度も見舞いに来てくれた、出来るだけヘレナと鉢合わせしない様に気も使ってくれていたようだ、
「それなんだが、初めて竜を狩った感想はどうだ」
「怪我をした僕が言うのもなんだけど、こんな物だったのか・・・、と思った」
狩竜人武器の進化が狩りを変えて行く、今回は僕は怪我をしてしまったが、次は必ず無傷で狩る事が出来る、正直そう思っているしそう在りたい、
「ああそうだよな、残念、シリルの初狩りは失敗に終わりました」
「え、え、ええ、狩りは成功したんじゃ、見舞いに来た時に三人もそう言っていたし」
僕は動揺を隠せなかった、狩竜人にとって狩りの成否はとても重要な事だからだ、
「あのダンドリスな、正式に竜じゃなくなったんだ。お前も知ってるだろうハンマーテールが昔は竜扱いだったって」
「うん、当然知っているけど」
「それと同じで、ダンドリスも竜じゃ無くなっちまったんだ。まあ、狩りの難易度的にしょうがないかなと思うけど」
「確かに・・・、怪我した僕が言うのもなんですが」
「本当にな」
そう言ってレイがにやにやとしている、これこれ、レイはこうじゃなきゃ、
「ちらっと噂には聞いていたから、早めに狩りに行ったんだが間に合わなかった、まあ、シリルが寝てる間にブレンドンは初狩りを済ませたけどな」
それも初耳なんだけど、そんな大事な事を内緒にしていたのか、祝福してやりたかったけれど、怪我なんてするもんじゃ無いな、
「それで、もう一つの話しは」
「はい」
「まだ、狩竜人を続けるか」
「はい」
僕は、腹から返事をした。




