第45話 初狩りの油断
竜の右足の破壊に成功したため、その機動力を大幅に下げる事が出来た。
しかしその壊れた右足を庇いながらの竜の両腕の攻撃力は、いまだに俺達狩竜人を一撃で容易に葬り去る事が出来る威力を保っている。
今のところは俺達が優位に狩りを進めている、俺達にとっての狩りは当然竜を狩る事だ。
逆を言えば、竜にとっての狩りは今の所は上手くいってはいない、脚の怪我はそう簡単には完治しないだろう。
その事が竜を苛立たせている、他の竜が居ない地域では自分がその国の王なのだ、その王に歯向かうやつらはすり潰す、今までだってそうして来たのだろう。
何度も剣の斬撃を受けた竜の左手は、それを振るう度に鮮血を飛ばし、生乾きの血が噎せ返るような生臭い匂いを発している。
そして、俺も少しづつだけれど竜の身体に剣を撃ち込む事が出来る様になって来た、脚を破壊したフランシスの様には上手くいかないが、攻める時と攻めない方が良い時、一呼吸の間に何度も切り替わるその刹那の瞬間を繰り返すうちに心に余裕が生まれて来た。
命懸けの狩りにとってはあまり抱かない方が良い感情は、剣で一撃を加えるたびに大きくなっていった。
竜、初めて生きている竜を見た、いままで狩りの段階を踏んで来たので、冷静にその姿を観察していなかった、本来は狩りが終わった時にする事なのだが、余裕と言う名の心の綻びが俺の冷静さを蝕んでいった。
改めてダンドリスと呼ばれる竜の姿を見ると、全身が黒く見えるのは夜空に擬態するためなのだろう、そして腹側には発光する器官が有り、それが夜空の星に見えるのだとしたら、かなり強い力で発光していると思う。
脚は身体の大きさの割りにとても短いが、その分両の腕が異常な程発達していて、その指は握り拳を作れる器用さを持っている、爪は握り込まれている為に確認が出来ないが、恐らくはとても鋭いのだろう。
首は短く、顔は大きく、それに比例して口も大きく、きらきらと牙が月明りを反射している、鋭い目は微かに赤く鈍く光っている・・・のではなく、これも月明りを反射しているのだろう。
全身は毛に包まれ、剣で切った感触は木の枝の様な感触で、狩竜人武器だから硬い毛を断ちながら皮膚に刃が届き、その皮膚もぐにゃっとした柔らかさの中に強い反発力を持っている。
その柔らかく硬い皮膚を断つと、ようやく肉に辿り着く事が出来る、狩竜人武器の発展は不可能な狩りを困難な狩りに変え、やがて安易な狩りに変える。
何の知識も無くただ剣を渡されて、何人かでこのダンドリスと対峙していたら、誰かが毛を何本か切り落としてるうちに、他のみんなが次々と倒れていく事だろう。
そして、その発展した狩竜人武器で、初めての竜狩りで、俺達は竜を狩る事が出来る。
こんなに簡単で良いのか、そう思う自分を戒める一撃が俺を襲った。




