第44話 流れ星
なんの音もしない、羽ばたく音だとか、風を切る音だとか、でもそれは納得がいく。
もしそんな音がするのだとしたら、狩竜人はその些細な物音を見逃さない。
トリスタン先輩の同期と同行の狩竜人を全員屠ったのだから、だけど、微かに気配は感じる、ほんの僅かでは有るけれど、脅威が近付いて来ているとひしひしと感じる。
心の準備と身体の準備は出来た、ブレンドンも落ち着きを取り戻したのか視線を上に向けている、月が綺麗に見える、満面の星空、少しだけれど違和感を感じる、星が・・・動いている。
「シリルは俺の右に、ブレンドンはトリスタンの右に、勝手に回り込んだりするなよ、常に近くに居ろよ」
ようやくフランシスから狩りの指示が出た、俺達は言われた通りに右に付き、竜が落ちて来るのを待った。
そしてそれはすぐに訪れた、動いている星が止まり地上に落ちて来た、そしてそれは焚火の上に落ち、火の粉が舞い上がった、赤く光っている火の粉が空中で一つまた一つと消えて行く、そしてその中に赤く光る竜の瞳を見た。
右手を振りかぶった竜の左手が襲ってくる、俺の身体が翻りその初撃を避けた、竜はそれを見越していたのか右手が目の前に迫って来た。
身体一つ分長い右手の攻撃は、俺を捉えるに足る威力と速さを持っている、恐らく一人で対峙していたら死んでいたかも知れない、ちょうど反対側に居るトリスタンの剣が竜を捉え、血飛沫が辺りに飛び散った、後から聞いたらブレンドンも一撃を入れてくれたらしい。
僅かに右手の振りが遅れたお陰で、俺は死なずに済んだ、そして竜は傷を負わせたトリスタンに左手を大きく振り廻した。
フランシスはすでに脚へ剣を振り降ろしてすぐに後ろに飛び退き、間合いを適切に保っている。
俺も打ち込むことは出来たが、切れたのは皮一枚で、血飛沫までは出なかった。
そして大きく間合いを取り、竜の次の攻撃を容易に避ける事が出来た。
怒り狂った竜は大きな雄叫びを上げ、左右に分かれている俺達を両の眼で捉えるために、後ろへ大きく飛び退いた。
ころころころと呼吸とは明らかに違う音を鳴らし、赤く光る眼がぎょろりぎょろりと俺達を捉える。
もう一度挟み撃ちをしたいところだが、その鋭い眼差しが僅かな隙も見逃さない。
さてどうしたものか、こういう場合は強引に近付くのも一つの手だが、先輩のお二人はどうするのだろうか。
トリスタンが右に動き始め、フランシスもそれに合わせて右に動き始めた、俺とブレンドンは二人の動きに合わせているだけで精一杯だ。
月明りの下での死闘は始まったばかりだが、全身から汗が噴き出し疲労はいつもよりも深く重い。
ゆっくりゆっくりと歩を進めていたトリスタンとフランシスだったが、竜の動きから何かを確信したのか、少しづつ進む一歩が早くなっていく。
そしてそれに痺れを切らした竜が腕を振り回して飛び掛かった、突然の出来事にブレンドンは飛び退いた後で転んでしまった、
「危ない」
俺は咄嗟にそう叫んだが、フランシスは冷静に竜の脚に再び斬撃を加え、その機動力を大きく割く事に成功した。
咄嗟の事に叫ぶことしか出来なかった自分を恥じたが、そんな事を気にしていても意味が無い、すぐに気を取り直して竜の次の行動に集中した。




