第34話 狩竜人の意思
船が安定航行を始めたのを確認して、自分の部屋の前でブレンドンに呼び止められた。
「ああシリル、やっと帰って来たか」
「お待たせ、何か用でも有るのかな部屋の外まで出て」
「それがさ、まあとにかく入って話しを聞いてくれよ」
ブレンドンに手招きされて部屋に入ると、狭い部屋に男どもが犇めいていて、一様に空気が重く感じた、
「どうしたの、みんな自分たちの部屋で休んでいれば良いのに」
思わず口に出してしまった、要約をすれば早く休みたいから出て行ってくれと言いたいのだけれど、
「すまないシリル、俺達はこれでお別れにしようと思ってて」「
そう言ったのはダンだった、どうやらルイスにロバート、バーナードもそのつもりらしい、
「一体何が有ったの、これからようやく狩竜人に成れるって言うのに」
4人は俯いて何も答えなかった、代わりにブレンドンが説明をしてくれた、
「どうやら今回のハンマーテールの狩りで怖くなってしまったみたいなんだ、まああれは特別だからと言ってもわかって貰えないんだ」
「ああそう言う事だったのか、厳しい言い方になるけど、船を降りるのを止めるのは良く無いよ、そこは自分の意志に任せるべきだ」
ブレンドンもベンも驚いた顔に変わった、他の4人も同じ様な顔付きに変わる、
「お前なんでそんな事が言えるんだよ、金も時間もかけてようやく狩竜人に成れる所まで来て、これからなんだから引き留めてやれよ」
ブレンドンが声を荒げて食って掛かって来た、でもそれを言うのは俺に対してじゃあないと思う、
「それでも辞めるって言うのを何で止めれるの、常に死と隣り合わせで、死に物狂いで試験に合格したけど、次も生き残れる保証は無いんだよ。無理だと自分が線を引いちゃったら、そこを飛び越えるのは今以上に大変なんだから、諦めるのも一つの正解だと思う」
「それでもさ、それでも一緒にやって来た仲間じゃないか」
「だからこそ生きていて欲しいんじゃないか、これから何度も死線を潜るのなら猶更だよ」
「シリルはそれで良いのかよ、こんなに簡単に狩竜人を辞めて行っても」
「良いに決まっているよ、誰に強制された訳でも無い、自分の意志で決めた事だから、辞めるのも自分の意志で決めるべきだ、それこそ次の狩りや、その次の狩りで命を落とす事だって十分に有る。俺だって怖かったし何度も投げ出したいって思ったよ、ベンだってあの蜥蜴の前で前も後ろもどばどば漏らしながら立っていたんだ、それでもまだ狩竜人をやりたいって思ったんだ、俺も漏らしそうになったけど、そこへ救世主が来てくれて事なきを得たんだ、そんな事の繰り返しさ、これからはね」
「俺もあの特異個体の前で倒れている時には死んだと思ったよ、でもこうして生き残って、それでも俺はまだ狩竜人をやりたい、これからはもっともっと困難な狩りに成ると思う、でも・・・そうだな、確かに無理だと思う狩りの前には、船を降りたいと思うかもな」
ブレンドンは勢い良くしゃべっていたが、だんだんと記憶が反芻されて、その時の恐怖が蘇って来たために冷静に考える事が出来たようだ、
「シリルとブレンドンの言う通りだ、船に乗るのも自由なら降りるのも自由で有るべきだ、他人に言われて決断を曲げるべきじゃない、俺も自分の意志で船を降りたい、ちなみに俺は今が一番船を降りたいと思っている」
顔を真っ赤にして俺を睨みつけながらベンが声を絞り出した、俯いていた4人も顔を見合わせながら何やらひそひそと話しをし始めた、
「俺、ペイン教官ともう一度話してくる」
「そうだな」
そんな事を口々に言いながらダン、ルイス、ロバート、バーナード達4人は部屋を出て行った、ベンはそれを見届けた後で、
「俺も部屋に戻る、いろいろ考えたい」
そう言い残してベンは部屋を出て行った、ブレンドンはベンを見送った後で俺の方を向き、
「何人残るかな」
「生き残れば勝ちだけど、そんなのはわからないよ」
「そうだな、シリルの言う通りだ」




