第22話 生と死と生徒
じりじりと間合いを詰めて一斉に飛び掛かろうとしているのだろうか、竜を取り囲んだ姫様と従者は互いの間隔を計りながら竜を追い詰めている。
本物の竜狩り、もっと派手で格好良い物と勝手に決めつけていたけれど、実際には地味だけれどとても格好良く見えた。
狩竜人の緊張が漂ってくるほど緊迫感、隣には異臭を漂わせている仲間、それがちょうどよく混ざり合い身体の奥の方が熱くなって来る。
狩竜人たちの隙間から見える竜はの漆黒の目の色から伝わって来る物は何もなく、何を考えているのかはわからない。
ほんの少し、本当に少しの間だけ竜から目を逸らしてベンを見た、邪魔にならない様に後ろに下がった方が良いのか、このままここで傍観者で居て良いのか、俺の注意が竜から逸れた事が伝わったのだろう。
竜は姫様に向けて火炎を吐いた、と思う。
正直に言えば火炎を吐いた瞬間を見てはいない、ただぱっと明るくなったと思った時には姫様が飛んで来た火炎を剣で巻き取り、その勢いのまま地面に振り払った事だけわかった。
恐らく竜の口に垂れていた涎が燃えているのだろう、地面に落ちた火炎はそのまま燃え続けている、火炎を吐かれた姫様は何の事も無く対処をしてしまったが、それを見ていた従者は気が気では無く、ふっと姫様に寄り添うように動いてしまった。
竜を包囲している従者の間隔が崩れ、その隙間を縫って竜が飛び掛かって来た。
視線を逸らしていた俺が悪い、竜から注意を逸らしていた俺が悪い、姫様や従者に守られて、竜と対峙している事を忘れていた俺が悪い、結論としては全部俺が悪い、何もかも俺が悪い。
そう後から反省をする事が出来るのは意外な一矢のお陰だった。
本来ならば死んでいた、飛び掛かる竜の口は俺を一口で葬るには十分な威力を持っていて、飛び掛かって来る竜に気付き、咄嗟に大きく後ろに飛び退いたにもかかわらず、俺を殺生せしめる勢いを保ったまま宙を飛んでいた、間に合わない事はわかっていたが、今生の最後の一振りだと全身全霊で剣を振るった。
父と母に最期の別れを言う事が出来ないのは辛い事だが、狩竜人に成ったからにはそれも仕方ないだろう。
生と死が混在するその刹那、僅かに竜が空中に固定された。
竜の眼は今だ黒く、俺を眼前に捉えて離さない、その顔面を俺の剣が真っ二つに裂いた。
何が起こったのかわからないが、僅かな時間で色々な事が起こってしまい、倒れ込んだまま起き上がる事すら忘れてしまっていた。
「すぐにそこを退け、燃えるぞ」
姫様の怒号が聞こえて来る、慌てて後ろに転がると竜の体液から火が出ていた、そしてその主は無数の剣により引き裂かれ、そこからまた炎が噴き出し、のたうち回り、辺りが燃え、また剣が撃ち込まれた。
どれくらいの時間が経ったのかわからない、燃えていた体液が燃え尽き、辺り一面を焦がしたところで名も知らぬ竜の狩りが終わった。
「これは、肉を焼く手間が省けたな」
姫様の一言で従者たちは笑いに包まれた、最初に弾き飛ばされた従者も命を落とした者は居ない様で、竜の狩りは大成功だったと言える。
「無事だったようだな」
煤で黒くなってもなお白い鎧に包まれ、汗と煙に塗れても気品を失わぬ姫様が声を掛けてくれた、
「ありがとうございました、命拾いをしました」
「それは私よりもこいつに言ってやってくれ、お前の命の恩人だ」
上空に待機している狩竜人船から降りてきていたその女性は、大きな弓を抱えフードを被り、隙間からは不思議な形の眼鏡を掛けているのが見えた、
「ありがとうございました、そして、久しぶりレイラ」
勿体ぶった様にフードを捲り、美しい髪をたなびかせてレイラは笑顔を見せた、
「フードを被っていたのに、わかる物なのですね」
「そりゃあわかるよ、3年間も一緒に居たんだし」
レイラはくすくすと笑いだした、何か面白い事でも言ったのかと気になっていると、
「本当にわかるのかしら、ね」
そう言ってレイラはくるりと回っり、再びくすくすと笑い始めた。




