第21話 降り注ぐ剣
全身が燃える様な赤に包まれて、その中に黒い斑点が点在している、翼を持たずに地上で生活をし、体型からも木に登ったりは出来ない、口からは火を吐き、短く太い尻尾を武器にしているかは不明、脚の短さから飛び掛かる事は不得意かもしくは出来ない。
斥候としてはこれくらいの情報、行動などをすぐに分析して判断をし、明らかに勝ち目が無い為に即時撤退をする。
その後に対策を検討して再度対峙をする事が理想だ、そんな事は百も承知だ。
でも出来る事と出来ない事は理解をして欲しい、目の前に現れた名も知らぬ竜。
その存在感と恐怖は、轟音を聞いて身構えていた俺達の心をずたずたに引き裂いた。
ただ立ちすくむ事しか出来ない、脚が動かない、手が動かない、声も出せない、せいぜいが漏らすのを我慢するくらいが限度だ、だがそれも時間の問題かもしれない。
どどど、と鈍い音と共に明らかにそれとわかる匂いが漂って来た、ベンは我慢できなかったようだ。
もしかしたら喰われる順番が変わるかも知れない、何も動けない代わりに諦める判断だけは異常に早かった、何もしないまま喰われる事しか考えないなんて。
溢れる唾に溺れそうになり、ごくりと飲み込んだ、恐怖も一緒に飲み込む事が出来たのか僅かだけれど全身に力が戻ってきた事を感じた。
逃げる、ベンを置いて、戦う、勝てもしないのに、どうする、どうする、何か、何か俺が動き出すきっかけは無いか。
ゆっくりとした動きの名も知らぬ竜は、着実に俺達との距離を詰めて来ている、やはりと言うかベンの方では無くて俺の方を見ている様に思える。
今からでも遅くは無い、漏らすか、それぐらいなら出来そうだ、力を緩めて脱力をするだけだ。
妙な事にだけ覚悟が早かったが、ほんのわずかな時間の差で何もかもを失う前に我に返る事が出来た。
上空を影が過ぎった、そして発する音を聞いて俺は安堵した、俺はこの音が何から発しているか知っている、そして上空から聞いた事の有る声が聞こえて来た。
「逃げろ、ひよっこ」
はるか上空から白い鎧に身を包んだ悪魔の形相の天使が舞い降りて来る、首を真上に向けれないのか、竜は声のする方へ眼を向けるために立ち上がった、それは横たわっている状態で上から襲われる場合、立ち上がった方が相対する面積を減らすためだったとしたら恐ろしい事だが、そんな事は俺達にわかるわけが無い。
振り下ろされる剣が竜を捉えた、と思ったが目にも止まらぬとはこの事で、名も知らぬ竜はいとも簡単に振り下ろされた一撃を避け、さらに天使と共に飛び降りて来た従者の攻撃を素早く躱し続けた。
そうしている間にも、竜の太い尻尾の一撃を喰らった従者が二人ほど、弾け飛んだ先で気の幹に受け止められて動かなくなっている。
「囲め、尾に気を付けろ」
流石の竜も天使には反撃の一撃を加える事が出来ず、目をぎょろぎょろと(真っ黒な為恐らくはしているだろう)させて相手の戦力を計っている様だ。




