第17話 勝利の味
ベンの手助けで立ち上がった後で特異個体の亡骸に視線を移した、頭蓋骨が割れ脳漿が溢れ出し頭の中身が全部こぼれている事を目視して、確実に息の根を止めている事を確認すると、ようやく安堵の深呼吸をする事が出来た。
それを見ていたベンが俺の前に拳を差し出して来た、それに答える様に拳をぶつけると、上体を擡げて頭を押さえているブレンドンに歩み寄った。
「ありがとうシリル、今生きていられるのはお前のお陰だ」
「そんな事はお互い様だ、特異個体が俺じゃ無くてブレンドンを狙ってくれたから倒せたようなものさ、俺だって紙一重の勝利だったんだぜ、あの幹に付けられた傷痕のお陰で高く飛び上がる事が出来たんだ」
俺は特異個体が付けた、幹に深く刻まれた傷痕を指差しながら答えた。
大木をただ蹴っただけでは、特異個体の視界から消えるほど高くは飛べなかったかも知れない、木の皮で足を滑らせて頭を割られて息絶えていたのは自分だったかも知れない、もうちょっと低く尾を振り回していたら高く飛び上がれなかったかも知れない。
でもハンマーテールが殺されていた時も、後を追いかけていた時も、木の幹に付いていた傷は俺の首の高さぐらいだった。
恐らくは特異個体の癖の様な物なのだろう、あの傷痕と高さを俺が見ていなかったら、俺は同じ戦法を取ったかはわからない。
俺は頭が空っぽになったと思っていたが、冷静に事を運んでいた事に我ながら良くやったと褒めたくなった。
「それじゃあ尾を切り取って、肉の処理を始めようか」
脚を引き摺りながらもブレンドンがみんなに指示を始めた、荷車が壊されてしまったために持ち運べる量はとても少なくなってしまう。
「骨や皮も必要だって、言ってたよな」
解体作業を見守りながらブレンドンが呟いた、帰りの船の魔力の為にそんな様な事を言っていたのは覚えているが、荷車が無いとなると食べれもしない骨や皮は持ち運びたくない。
火を熾して肉を炙り、水分を飛ばして軽く保存が効くようにする。
ただ、肉の焼ける匂いは食欲をそそり、ついつい手が伸びてしまう事は言うまでもない。
「これが終わったらルイスとダンを捜しに動こう、この匂いに釣られて出て来てくれればありがたいが」
「違う生き物が出て来そうだけどな」
ブレンドンに対して放ったベンの軽口に、ロバートとバーナードが反応してくさむらから距離を取った。
それを見てベンも言わない方が良かったか、と頭を下げている。
「シリルは動けそうか」
「ああ、多分ブレンドンよりは」
俺はそう言って全身の異常を確かめた、どんな体勢で地面に落ちたのか覚えていないが、かろうじて怪我と言えるような物は負っていないらしい。
ブレンドンは強がって見せようとしたけれど、脚が痛いのか顔を歪めて呼吸が荒くなっている、見兼ねたベンがブレンドンに助け舟を出した、
「草むらの中を行けってんだろう、俺とシリルで行くよ。ブレンドンはロバート達とここで食料と戦利品を守っててくれ」
俺はまだ行くとは言っていないのだが、ロバート達は完全に腰が引けているし、ブレンドンは暫く休んだ方が良いだろう、そうなると俺とベンになるか、それは仕方ないか。
「良いよ、それじゃあ行こうかベン」
「ああ、そうしよう」
俺達は十分な間隔を空け、首の高さまで生えている草むらを剣で刈りながら進んだ、ところどころ草が圧し潰されているのは特異個体が通った跡だろう、頻繁に通る割には獣道が出来ていないのには意味が有った、俺達はそれを見つけた。




