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俺がただ竜を殺すだけの物語 第三章  作者: M.TOTTORI


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第16話 さらに上

普段は何事も無く踏み出せる一歩が今は途轍もなく重く感じる、呼吸を止め全身の力を使い切る気持ちで右足を踏み出し、引きずる様に残った左足を引き寄せる。

達人の行う摺り足とは程遠い、滑稽で不器用な動作だったが、極度の緊張と興奮が混ざり合って頭の中が空っぽになってしまっても、今まで何度も反復練習して叩き込んだ所作だけは身体が覚えている。

両足を交差させず獲物と自分の身体の向きを常に一定に保ち、いかなる方向へも瞬時に飛び掛かる事が出来て、瞬時に飛び退くことも出来る、足踏みをしながら間合いを測る特異個体が一瞬身を屈め、その瞬間に俺は脱力して両の足に全体重を乗せた。

やはり、俺に目掛けて尾を振り回して来たが、本当の狙いはブレンドンだった。

回転運動をする尾は、初動よりも終点へ向かう程加速をする、その威力も速度もブレンドンへ襲い掛かった尾は凄まじい物が有った。

ブレンドンは尾の攻撃を剣で受ける事はせず、特異個体から斜め後ろへ飛び退く事で躱した。

しかし特異個体は回転する勢いのままその尾を地面に突き刺し、回転の力のすべてを使い身体を浮かせ、ブレンドンとの間合いを一気に詰めると、その鋭い頭部をブレンドン目掛けて振り回して来た。

倒れ込んだブレンドンが剣を杖代わりに立とうとしていたのが幸いしたのか、地面に剣を突き立てていたお陰で、特異個体の頭部と剣が激しい衝突音を生じさせ、ブレンドンの剣は叩き折られ、ブレンドン自身も弾き飛ばされた。

運が良かったと言えばそれまでだが、刀身を滑った特異個体の頭部を鍔が受け止めてくれたようだ、流石はアルデンサルの正式採用剣、生半可な剣だったら鍔で受け止めるどころかブレンドン事真っ二つになっていた事だろう。

多分生きているだろう事は音を聞いていたから分ったが、そのままブレンドンはぐったりとして動かなくなってしまった。

そんなブレンドンを一瞥した後でゆっくりと俺の方を向いた特異個体は、ブレンドンの持っていた剣で少し傷を負ったのか、顔を流れてきた血をぺろりと舌なめずりをして不気味に笑った。

正確には笑ったように見えたのだが、恐らく誰も信じてはくれないだろう、でもその時、特異個体は確かに笑った。

一歩、また一歩と特異個体が迫って来る、それを受けて半歩、一歩とゆっくりと距離を取った、緩急をつけて間合いを取ったのは、特異個体が少しでも幻惑してくれれば良いと思っての事だったが、思惑が的中したのか、特異個体は首を傾げながらその歩みを遅めてくれた。

そのお陰で大木を背後に背負う事が出来た、本来なら間合いを取る事が出来なくなるため、背後に壁を背負う事は良しとされていないが、特異個体の尾を攻略するには、大木が必要不可欠だと俺の本能がそう言っている。

しかし特異個体はそう思っていないらしい、大木を背負い後退できなくなった俺を見て、特異個体は再び舌なめずりをして足踏みを始めた。

俺が後退をしないのだからその時はすぐに来た、間合いの調整が終わった特異個体は、その特徴的な尾を振り回して来た。

初動は僅かに遅いためにしゃがみ込んで避ける事が出来た、振り廻した尾は大木に深く突き刺さり、動けなくなった特異個体へ致命の一撃を放って今回の試験は無事終了。

そう思っていた、激しい衝突音と衝撃が走り、爆発でもしたかの様に木の幹が辺りへ飛び散った。

俺は目を瞑る事無く前を見据えていたから見えた、あいつの眼が俺を嘲笑っていた。

僅かづつ間合いを調整していただけは有る、木の幹へ尾を突き刺すような愚かな事には成らず、幹を抉り取った勢いで再び尾が俺を襲って来た。

しっかりと俺を見据えていた特異個体は、次の尾の一撃は俺を狙う様に回転軸を変えて、しっかりと大木の根元に向かって来た。

しゃがみ込んでいたから飛び上がる事は容易だった、それでもなお間一髪のところで避ける事になった。

大木の幹は再び爆発し、特異個体は宙に居る俺の姿を捜した。

俺はそこに居ない。

飛び上がった俺はそのまま落ちる事はせず、幹を足場に更に高くて飛んでいた。

落ちて来る俺に気付くまでには僅かな時間差が有るはずだ、きょろきょろと首を動かして俺の姿を捜しているが、その視線が上を向くのは時間の問題だろう。

異様に発達した頭部の三角の突起が、尾だけでは無い新たな武器として機能していた突起が、自身の視界を遮り、ちっぽけな俺に敗北する要因になるとは考えもしなかっただろう。

俺は空中で右手に力を込めると、頭部の継ぎ目に向けて全力で剣を振り抜いた。

どんな体勢でも全力で振り抜けるように成れ、レイに言われた事に何度も助けられている。

ぱかんと軽い音を立て、真っ二つになった頭部からどろりと中身が溢れ、特異個体はゆっくりとかくんかくんと関節が一つ一つ曲がりながら地面に突っ伏した。

剣を振り抜いた後の着地の事は何も教えられていない、不格好に地面に落ちた俺が痛がっていると、抜けた腰が治ったのかベンが手を差し出して来た。

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