第12話 腐った木の身
やがて静寂の夜を迎え、約束の時間が過ぎた。
ロバートとバーナードは帰って来なかった。
最悪の事態も考えられる事から、ブレンドンの判断で俺達の運命が決まる。
当然意見はする、するが最終決定を覆すような事はしたくは無い、やはりリーダーであるブレンドンの決断には従うべきだ。
「さて、どうした物か・・・」
加工した満月熊の肉を齧りながらブレンドンが呟いた、それは他の誰でも無い自分に向けた言葉だったのだろう、それ以降は肉を咀嚼するばかりで押し黙ってしまった。
心配しているから腹が減らないという事は無い、俺達に出来る事はまず腹ごしらえをして、これから起こる事に全力で当たるべきだ。
「ここが襲われなかった事は幸いだった、このまま踵を返せば恐らく船には生きて帰れるだろう」
ブレンドンの言葉にベンがいきり立って掴みかかろうとしたところ、ブレンドンは冷静に右手で制止して、
「それじゃあ俺達は狩竜人に成れない、それに二人を見捨てるにはまだ早い、ここが襲われない様に囮になってくれている可能性も捨てきれない」
その言葉を聞いてベンはブレンドンに謝罪をした、それを再び右手で制したブレンドンは続けて、
「それによ、俺も狩竜人なんだわ。未知の脅威が楽しくて、お前たちを巻き込んでしまうかもしれないが良いよな、二人も助けたいし」
俺体はブレンドンの言葉で立ち上がった、座ってなんて居られない、居ても立っても居られない、俺達は猟師じゃない狩竜人だ。未知の脅威に立ち向かう事でしか満たされない、この湧き上がる感情から逃げ出したくはない。
それに二人を死んだ者としてでは無く、生きていると信じている所には強く賛同したい、狩竜人学校を卒業してきた者が、そんなに簡単に死んでしまう訳がない、特異個体に襲われたから森の中の方へ逃げて行ったに違いない。
叫びたくなる気持ちを堪えて剣を抜いて天に掲げた、それにつられてみんなも剣を抜き刀身を重ねた、透き通った音が微かに響き、俺達の決意は固まった。
「それじゃあ奥へ進もう、まずは死体の山を目標にして、そこから足取りを探し、特異個体に出会ったら応戦、ロバートとバーナードの捜索も同時に行う。気を引き締めて行けよ、ここは戦場だ」
「おう」
本来ならば咎められるべき呼応だったが、その時は気にも留めなかった、今のこの気持ちを切らしてはいけない、待ち受ける脅威がどれほど大きくても、それを跳ねのけてやる。
十分に周囲を警戒しながら歩を進め、最初の目的地である死体の山まで辿り着いた。
血糊はすでに黒く変色し、そこら中に垂れ下がっている内臓からは異臭が立ち込め、おびただしい程の蟲が死肉を貪っている。
それでも不思議な事に小型の肉食獣が肉を齧り取った痕が無い、それは数多の死骸を見て来た俺達にとって異様な光景だった。
これだけ噎せ返る程の死臭を漂わせながら、それを貪る肉食獣が居ないなんて、
「シリルたちが逃げ帰ったのもわかるな、これは異常だわ」
「確かに、これだけ殺して置いて一切肉を食べないなんて事が有るか」
ダンとルイズが驚愕の声を上げる、ブレンドンも顔を顰め乍らぶら下がった内臓をまじまじと見ている、
「ハンマーを使って、物凄く強い力でぶん殴ったら、死体ってばらばらになると思うか」
ブレンドンが内臓を見ながら尋ねて来た、身体に強い圧力が掛かれば破裂もするだろうが、ここまで見事にばらばらになるのかは、試した事が無いからわからない、
「どうだろう、ばらばらになっている以上、そうなるんじゃないかとしか答えられない」
「うーん、何か見落としてる気がするなぁ」
ブレンドンはそう呟き押し黙った、何か考え事をしている様だ、確かに鈍器で殴った割りには地面に死体がめり込んではいない、どちらかと言うと横に薙ぎ払われた様に、そこら中に肉片が辺りに飛び散っている。
そして、周りの木々にはあの切り傷が無数に残されている。




